DAY 39-6

「⋯⋯良いんだよ、もうどうでも⋯⋯」

「良くはありません、ベレスさんが光魔法を扱えるのなら、ワタシはアナタをどうしても説得する理由があるのです。立ってください、休息は充分取れたでしょう」

「⋯⋯そう。カロンも、私を道具にするんだな⋯⋯」

「なるほどムカついてきました⋯⋯。でも気持ちは分かりますよ、あんな扱いを受けては心が折れてしまうのも納得出来ます」

「誰にも理解出来るはずない⋯⋯生きる意味も、何もないんだ⋯⋯私には⋯⋯だからこのまま、せめてゆっくり死なせて欲しい⋯⋯」

 

 するとカロンはベレスの髪を掴み、項垂れていた頭を起こしてから、いつもの調子で語りかけました。

 ベレスの顔は涙でくしゃくしゃに濡れていて、両眼を熱くさせていました。

「そんな顔が出来るならまだ元気ですねぇ。虚な表情をしていると思ったのですが、まあワタシ程ではありませんよベレスさん」

「なんで生きてるのか⋯⋯分からないんだ⋯⋯」

 カロンはベレスの髪を離しながら言いました。

「世界に生かされている人物など存在しません、生きる理由や意味なんてものは後から付いてくるものです。その生き方を、ベレスさんがまだしていないだけでしょうね」


「生き、方⋯⋯?」

「ベレスさん、教えていただけますか? アナタがどうやって、今まで生きて来れたのかを」

「それは⋯⋯」

「大丈夫ですよ、ワタシこう見えて誰一人知り合いがいないので」


 ベレスはカロンに、目覚めてからの記憶を辿りながら今までの事をカロンに伝えました。


 賊に扮した魔族が魔王城に住み着いていた所から、たらい回しにされ、パソンレイズンに流れ着いた事。親しくしてくれた四人の騎士と国の滅亡。カロンとの出会い、アンジェと仲良くなれた事、全てを話しました。


「ふうむ、なるほど⋯⋯パソンレイズンが滅びていたのはそういう理由でしたか」

「私と関わった人は、皆すぐに居なくなってしまった⋯⋯。全部、私のせいで──」

「違いますね、騎士は自身の呪いを解く為に、アンジェさんは恐らく力の証明の為に⋯⋯アナタが関わっていなくても、いずれ起こり得た未来なのです」

「違う! 私さえ居なかったら、メアトはあんな醜い姿にならなかった! パソンレイズンも滅びなかった! アンジェだって⋯⋯私に出会わなければッッ!」

「堂々巡りですね⋯⋯。なら一つ覆してあげましょう。アナタが出会ってきた中で、少なくともアナタと出会えて嬉しいと感じた人物がいます」

「そんなの、居るはずない⋯⋯」

「おや、馬鹿ですね。全員、嬉しいと思う気持ちがあったはずですよ」


「⋯⋯え?」


「どうしてアナタはそんな過酷な日々の中で、堅苦しい鎧とは真逆の可愛らしい服を着させて貰えたのです? どうして違う生き方をしたいと願った魔法使いが、アナタと出会うようになったのです? どうしてアナタは⋯⋯今まさに必要としている協力者として、私の前に現れてくれたのです?」


「それは⋯⋯」

「それは、アナタと喜びを分かち合ったからです。そして私も今、ベレスさんの力が必要です。ベレスさんじゃないと駄目なんです、どうか私と、協力してください」


「⋯⋯」

 カロンは静かに、ベレスに向けて手を差し出しました。


「アナタのお陰で笑顔になれた人がいるように、ワタシの事も笑顔にして見せてください⋯⋯お願いします」

 その一言で、ベレスは唖然となり、数秒動かないままでいました。


 手を繋いだのは、心から落ち着いてからの事でした。

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