第24話 サスールの剣聖(前編)

 翌朝。

 ここは、スフィーティアの居城である古い城だ。

 

 スフィーティアは自室で背中に白竜の紋様が刺繍された白のロングコートの剣聖の正装に着替えを済ませると、中央にある階段を下りて行く。

「姫様、もうお立ちになるので?」

 執事のダン・フォーカーが階下から声をかけた。

「ゆっくりもしていられないんだ」

「朝食の準備をいたしました。朝食だけでも召し上がってください」

「そうだな。久しぶりに頂こう」


 スフィーティアは1階の食堂に入り、品の良い装飾がされた白いクロスがかかった長いテーブルの上座に腰かけた。ダンは、手際よく食事を用意する。スープ、パン、スクランブルエッグ、サラダ、メインディッシュの肉と魚料理、果物、ジュース、牛乳。とても朝食とは思えない位の品数だ。

「爺、さすがにこれは多いぞ」

 スフィーティアは、ダンを見上げて言う。

「久しぶりでしたので、つい張り切り過ぎまして」

 ダンは、細い切れ長の眼をさらに細くし、微笑む。

「そう言えば、まともな食事は久しぶりだ」

 スフィーティアは、肉料理をフォークとナイフで切り分けながらそう言う。

「いくら、剣聖の身体が、食べ物をあまり必要としないとはいえ、食事は美容にも大事ですぞ」

「そうだな。でも、食べたくないわけではないのだぞ」

 そう言って、切り分けた肉にソースをつけて口に運ぶ。

「やはり、爺の料理はやはり美味しい」

「ありがとうございます」


 スフィーティアは、黙々と丁寧にテーブルに置かれた料理を口に運んでいく。食いきれないと言っていたが、それほど時間がかからず、テーブルの料理はきれいに無くなった。その細い身体のどこに料理が納まったのか気になるところだ。


「姫様の食べっぷり見ますと、料理人として実に幸せを感じます」

 ダンは、朝食に合いそうなダージリンの紅茶を準備する。

「そうか」

 スフィーティアが、ナプキンで口をキレイに拭く。

「ところで、爺。次に帰ってくるときは、もう一人連れてくると思う」

「お客様など、珍しい。どなたでしょうか?」

 ダンは、紅茶をスフィーティアの前に置く。

「まだ8歳の少女だ」

 スフィーティアは、置かれた紅茶を手に取り、啜る。

「なんだ、その顔は?」

 ダンの怪訝そうな顔を見て、スフィーティアが言う。

「まさか、姫様の・・子」

「そんなわけあるか!私はまだ20歳だぞ」

「冗談です。フォッ、フォッ、フォッ。ですが、小さいお客様、楽しみです。して、どこの方でしょうか?」

「マスターの子だよ。名をエリーシアと言う」

 スフィーティアは、飲み終えた紅茶のカップをソーサーに置いた。

「ユリアヌス様のお子ですと!」

 普段落ち着いて取り乱すことのないこの執事が珍しく大きな声を上げた。


「詳しくは、ここに書いておいた。後で見ておいてくれ」

 そう言って、スフィーティアは、ロングコートの内ポケットからフラッシュメモリー位のサイズのものを取り出し、テーブルに置く。これは、エア黒板とでも言えるものだ。起動すると、記録された情報が浮かび上がって表示される。同時に。浮かび上がった情報を消して、書くと、また情報として収めることができる超便利な代物だ。剣聖団製である。


出発つ前にもう一杯紅茶をもらおう」

「ユリアヌス様のお子ですか・・」

 落ち着きを取り戻したダンが、カップに紅茶を注ぐ。

「して、ブルーローズ家への報せは?」

「今はしない。しかし、エリーシアは、ブルーローズ家の正統な後継者だ。落ち着いたら、連れて行くよ」

「クララ・クライトンが何と言いますか・・・」

「嫌のことを思い出させる」

「ハア・・」

 二人のため息が唱和し、会話はここでシーンとなってしまった。二人をこんな気持ちにさせる『クララ・クライトン』とは何者なのだろう?


 暫くして、スフィーティアが立ち上がった。傍らの剣聖剣カーリオンを手に取る。

「では、行くとする。留守を頼んだぞ、爺」

「はい、お気をつけて。次のお帰りを楽しみにしております。小さなお客様、ワクワクしますなあ」

「そうだな。歓迎してやってくれ」

 スフィーティアは、シュライダーを駆り自身の古城を後にした。



 スフィーティアは、古城を出発った。パールホワイトの流線形のシュライダーを駆り、カラミーアを目指す。

「エリーシア、寂しがってないだろうか・・」

 エリーシアの寂しそうな顔を思い浮かべると、自然とシュライダーのスピードも増していくと、草原や木々の景色がさらに速く流れていく。

 

 そこに、シュライダーのエアパネルに通信を知らせるアイコンが表示される。スフィーティアは、それに触ると、アレクセイ・スミナロフの顔が小さく表示された。

 スフィーティアは露骨に嫌そうな顔をする。

「スフィーティア、頼みがある」

 いきなり要件を切り出そうとするアレクセイに、彼らしくないことだとスフィーティアは思った。

「珍しいな。どうした?」

「サスールに行ってくれないか?」

「ドラゴンか?」

「ああ。サスールの剣聖システィーナ・ゴールドは、有望だがまだ駆け出しの剣聖だ。悪いことにサファイア・ドラゴンが領都アクイラ付近に出現した。彼女には、まだ手に余る相手だろう。私が行くべきなのだが、今王都を離れられない。こちらでも問題を抱えていてね」


 スフィーティアのシュライダーは大きな森に飛び込んでいた。巧みに車体を操り、木々や草むらを避けて行く。それでもスピードを落とすことはない。さらにスフィーティアは、パネルを操作していた。

「了解だ。この間の借りを返していなかっただろう。で、どこに行けばいい?」

「感謝する。ドラゴンの出現ポイント近くの座標を今送る」

 アレクセイから座標が送られてきた。

「確認した。すぐに向かう」

「スフィーティア、その・・、今度ちゃとした・・」

「プツッ・・・」

 アレクセイが、頬を掻きながら、話しかけてきたが、スフィーティアは、そこでアレクセイとの通信を切った。

 スフィーティアは、素早く行先の座標をパネル操作し、変更する。もう、転移ポイント手前だった。シュライダーがポイントに近づくと、空間が歪み始めた。そこにシュライダーが飛び込むと、一瞬眩しい光がパット光ると、すぐに開いた空間が閉じらていく。

 そして、何事もなかったように森の静寂が広がって行った。



 アマルフィ王国サスール侯爵領。領都はアクイラ。

 王国の中で王領を除くと2番目に大きな面積を有する。王国の北西に位置し、多くは、なだらかな台地となっている。北のルーマー帝国との国境には、長城が築かれ防壁となっている。また、西は、山岳とやはり長城が、異民族に対する防壁となっている。

 サスールは、放牧が盛んで、サスール産の馬はアマルフィ王国では徴用されている。また、農業も栄んでジャガイモやトウモロコシなどの一大産地となっている。


 ここサスールにも、カラミーアと同様にドラゴンの出現と異民族の侵攻があったが、異民族はテンプル騎士団により撃退され、出現したドラゴンはこの地に派遣されていた剣聖システィーナ・ゴールドに退治されていた。しかし、北の国境のルーマー帝国が不穏な動きを示しており、警戒を強化していた。そんな中、今回、サファイア・ドラゴンが出現したのだ。


 サファイア・ドラゴンは、別名アイス・ドラゴンともコールド・ドラゴンとも言われるドラゴンだ。体が青く、冷(凍)気を自在に操るドラゴンだ。体形は、クリムゾン・ドラゴンに近いが、背中に固そうなたてがみがあり、後ろ向きに長い耳があるのが特徴だ。


 サスール侯領都アクイラの近郊の平原。遠方に高い城壁に囲まれた都市アクイラを望める土地。季節は、紫陽月しようづき(6月)で日が高くに位置し、暖かいはずなのだが、周辺の草地には白い雪が覆っていた。

 背中に白竜の紋様を刺繍した白いロングコートに身を包み、長い亜麻色の髪を両サイドに分け黒いリボンで結んだツインテール髪のまだ少女っぽさの残る女剣聖が、右手にレイピア型の剣聖剣を斜に構え、冷気を纏った青色の巨大なドラゴンと対峙していた。

 眼光の鋭い青い瞳と眼が合うと、その足はガクガクと震えていた。


『グルルルル・・・・』


 射すくめるような、そして、心に直接響くドラゴンの呻き声。

 しかし、システィーナ・ゴールドは大きな円らなオレンジ色の瞳で、巨大なドラゴンをキッと見上げる。

「私は、やれる!サファイア・ドラゴン。上等よ。かかってきなさい!」

 システィーナは、自分を奮い立たせるようにそう叫ぶと、震えは収まった。システィーナは、剣聖としては、小柄で170cmに届かない位だ。一方その胸は、身長に不釣り合いなほど大きく、ロングコートの下の黒のブラウスがピッチリして、胸の大きさを際立たせていた。


 先に仕掛けたのは、サファイア・ドラゴンだ。辺りを凍てつかせるブレスを吐いた。しかし、システィーナの動きは、速かった。飛ぶように駆けると、サファイア・ドラゴンとの距離を詰めた。飛び上がると、ドラゴンの目を目がけて突きかかった。もう少しで目に突き刺さるところを、サファイア・ドラゴンは、口を大きく開け、喰いかかってきた。

「うわ、危な!」

 システィーナは、咄嗟に身体をひねり、右横に避け、ドラゴンの顔が横をすり抜けていく。そして、勢いのままドラゴンの左肩の翼の付け根の辺りをレイピアで一突きした。


 ガキッ!


かたッ!」

 レイピアがドラゴンの硬い皮膚に跳ね返されると、システィーナは、反動を利用して宙返りをして着地した。 

「ウワっ、痺れる~」

 システィーナは、レイピアを握っていた右手を軽く振る。サファイア・ドラゴンの皮膚は、氷属性の冷気を纏うと、一気に硬度を増すので、とても厄介なのだ。

「やはり、このままじゃダメね。本気まじでいかないと」

 システィーナは、左手で、胸の黄色い輝石きせきに触れる。

換装シノーイ

 そう念じると、システィーナの身体は、黄色い光りに包まれ、光りがパッと収まると、剣聖の正装形態フォーマルから鎧形態アーマーへと換装された。

 システィーナの鎧は、艶やかな黒色だ。黒いスカートに黒のブーツ、そして頭部を軽く覆う黒のヘルム。しかし、彼女の胸の大きさは、鎧の上からでも強調されていた。剣聖の鎧は、ドラゴンの革を材質としており、鉄などの並みの剣などでは、かすり傷さえ与えることができないほど強靭でなおかつしなやかに動ける。また、左腕には、楕円形の黒色の盾が装着されていた。


「さっきのようにはいかないからね。覚悟しなさい」

 そう言うと、システィーナは、サファイア・ドラゴン目掛けて突っ込む。さっきまでのスピードとは段違いに早くなり、あっという間にドラゴンの懐に飛び込んだ。そして、サファイア・ドラゴンの胸を一突きした。

 グキッ!

 が、凍気に覆われたサファイア・ドラゴンの皮膚は硬く、レイピアの刃を通さなかった。

「なんて固いの。こいつ!」

 システィーナは、叫ぶと、左手の盾でドラゴンの顔を殴りつけ、体勢を立て直し、地上に降り立った。サファイア・ドラゴンはよろめいたが、すぐにシスティーナに襲いかかる。


 グォオオオオオオーーッ!


 もう一度凍気ブレスをシスティーナ目がけて放つが、システィーナは素早く横に駆け抜け、ドラゴンの背後を取る。それを察知したサファイア・ドラゴンは、素早く長い尻尾を振り回し、システィーナを襲う。

「うわ!」

 システィーナは、これを盾でガードするが、支え切れず、後方に吹き飛ばされる。体勢を急いで立て直そうとするシスティーナ。しかし、サファイア・ドラゴンの行動は素早くシスティーナの方を向くと、翼を大きく広げる。すると、翼一面に尖った氷が無数に浮き出してくる。そして、翼を前方に羽ばたかせると、氷撃の矢がブリザードとなり、システィーナ目がけて放たれた。


 グォーーーーーーーッ!


「ダメッ!」

 システィーナが、諦めかけた瞬間、上空から何かがシスティーナの前方に落ちてきた。


 バチ、バチ、ガン、ガン、ガン、・・・・・


 それは、シュライダーに乗った神々しく輝く金色の髪をなびかせた今生の者とは思えないほど美しい女剣聖だった。シュライダーの前方に大きな盾防御シールドイレーザーを展開させて、全ての攻撃を打ち消していく。


「スフィーティア・エリス・クライ!」

 システィーナが、目の前に突然現れた女剣聖を見て叫ぶ。スフィーティアは全ての攻撃を防ぐと、シュライダーを着地回転させ、システィーナと向き合った。

「私のことを知っていてくれたとは、光栄だ」

 しかし、サファイア・ドラゴンは、お構いなしに攻撃を開始する。全ての氷撃ブリザードを防がれたからか、今度は、直接攻撃するため、素早く突進してきた。


「動くな!」

 スフィーティアは、彼女の青白く輝く剣聖剣カーリオンを抜くと、後ろを振り返りもせず、それをサファイア・ドラゴン目掛けて、放り投げた。剣は凄い勢いで真っすぐにドラゴン目掛けて飛び、左後足を貫き、地面に固く突き刺さると足毎周辺が凍結する。足を取られたサファイア・ドラゴンは堪らず、前に突っ伏す形となり、倒れた。


 システィーナは、スフィーティアの力に目を見張った。

(す、凄い。あの攻撃を簡単に打ち消し、鎧形態アーマーにもならずに、サファイア・ドラゴンを足止めするなんて。こ、これが剣聖トップの実力なの!でも、ダメ。ここは、私がマスター・アレクセイから託されたんだもん。私がやらないとダメなのよ、システィーナ!)


「マスター・スフィーティア、加勢感謝いたします」

 システィーナは、スフィーティアの前に跪いた。

「アレクセイから君を加勢するよう命じられたからな。気にすることはない」

 スフィーティアは、無表情に言う。

「しかし、このドラゴンは、マスター・アレクセイが私に討伐を命じた対象もの。私に任せてください」

 その眼差しは、システィーナの揺るぎのない意志を現す。


 因みに、システィーナはスフィーティアやアレクセイの弟子シュヴェスタではないが、マスターと呼ぶのは、目上の剣聖への敬称と考えて欲しい。


「わかった。私は、脇で見ているとしよう」

 スフィーティアが、右手をサファイア・ドラゴンの方に伸ばすと、サファイア・ドラゴンの足に突き刺さっていたカーリオンは回転しながら、スフィーティアの右手に戻って来た。システィーナが、ゆっくりと歩を進めスフィーティアの脇を通りすぎる。

「感謝します」

 そう言うと、システィーナ・ゴールドはジャンプした。すると、黒い翼が背から大きく広がり、上空高く舞い上がる。サファイア・ドラゴンよりもかなり高い位置で静止して、右手のレイピアを頭上に構えた。

「雷光よ、ここに!」

 すると、大気から雷気らいきがレイピアに収束されて行き、レイピアの輝きが増していく。上空の空が急速に悪化し分厚い雲に覆われて行く。その間、サファイア・ドラゴンは、起き上がろうとする。


『グルルルル・・・・』


雷電光臨ラームジェルグ!」

 システィーナがそう唱えると、レイピアから眩い光が上空に放たれ、厚い雲を貫くと雲中に一気に雷気が満ちて、無数の雷光の矢が、サファイア・ドラゴンの周辺目掛けて突き刺さっていく。

 これは、間違いなく剣聖システィーナ・ゴールドの大技だ。

「ほう」

 スフィーティアが、感心したように見つめる。


 因みに、剣聖の剣技には、その剣聖の固有技ユニーク・スキルと剣聖なら身に着けておくべき共通業ジェネラル・スキルがある。スフィーティアが、第18話で使った『蛇噛斬シュネール・バイト』などは、共通技で、システィーナが使った『雷電光臨ラームジェルグ』は固有技だ。


 ズドドドーン!


 大きな地響きを立てて、サファイア・ドラゴンは崩れ落ちた。その目は白目を向き、ピクピクと痙攣し動けなくなり、口からは、大きな泡を吹きだしている。どうやら、失神とともにサファイア・ドラゴンの身体に帯びていた凍気も解除されたようだ。そして、空を覆っていた分厚い雲も無くなり、晴れ間へと変わっていた。

 このチャンスを逃さず、一気にドラゴンの急所である心臓を貫き、息の根を止めなくてはならない。それは、システィーナ・ゴールドにもわかっていた。

 しかし、大技を使い、システィーナはかなり消耗してしまっていた。地上に降り立つと、よろめいた。

「うう、ダメよ。早くドラゴンに止めを刺さないと!」

 最後の力を振り絞り、システィーナは、サファイア・ドラゴン目掛けて飛び込む。


「ウワーーーーーッ!」

 そして、彼女のレイピアがサファイア・ドラゴンの心臓を貫いた。

 サファイア・ドラゴンの痙攣は無くなり、眼が閉じられ、完全に動かなくなった。

「はあ、はあ・・。ふうー、やれたああああ」

 システィーナは、サファイア・ドラゴンの傍らに倒れ込むように跪く。


「気を抜くな。まだ終わってないぞ」

 スフィーティアは、近づくと剣聖剣カーリオンを取り、サファイア・ドラゴンの胸を切り開くと、『竜の心臓の欠片』を取り出した。空気に触れると、青く美しく輝く結晶体に変化した。

「ほら、君のだ」

 スフィーティアは、青い竜石をシスティーナに投げた。システィーナは、両手でそれを受け取る。

「大きい。キレイ!」

 システィーナは、安堵すると、鎧形態アーマーが解除され、正装形態フォーマルの白いロングコートの装束に変わった。

 その瞬間、システィーナは、もじもじし始めた。


「ダメ、そんな。ダメよ。こんなところでなんて。止めてーーーーー!」

 システィーナの顔が紅潮しはじめ、胸を両手で覆う。

「ふう、君の輝石きせきの主も見境ないようだな」

 スフィーティアは、システィーナを冷めた眼で見ている。

「はあ、はあ、はあ。ダメだったら~」

 システィーナの表情が、愛撫されるような触感に抗えずに恍惚としてきた。

「仕方ない。手を貸してやる」

 スフィーティアは、システィーナを抱き寄せた。すると、その触感の主の声が、スフィーティアにも流れ込む。


⦅これは、これは。なんという美しい。上物だ!ウヒヒヒ・⦆

「全く、輝石きせきの竜というのは、どうしてこうもクズばかりなのだ」

⦅美しき者よ。お前を快楽の泉に誘お・・⦆

⦅誰の許可を受けて、ここに立ち入った。この女は俺のものだ。殺すぞ!⦆

 別の竜の意識が顕在化する。

「誰がお前の女だ!」

⦅まあ、そう言うな。こいつを暫く出て来れないようにしてやるよ⦆

⦅ふん、誰に向かって言っている。この美しき者を手籠めにするまで出て行くものか。ウヒヒヒヒ⦆

⦅邪魔だ。さっさと死ね!⦆

⦅グワ~~~~~~ッ!⦆

 システィーナの輝石の竜の意識が消えると、システィーナを襲っていた触感による感覚が消えて行った。


「はあ、はあ、はあ、はあ」

 スフィーティアが、システィーナを離すと、システィーナはよろめく。

「大丈夫か?」

「すいません。ありがとうございます」

「まだまだだ。あの程度の触感に抗えないようではな」

「はい」

「そして、輝石の竜をもっと律することだ」

「はい」


「それに、まだ終わっていないようだぞ」

「え?」

 スフィーティアが、空を見上げていた。システィーナがその方向に目をやると、赤いドラゴンが、こっちに向かって飛んで来るのが見えた。

「うそ!こんなタイミングでもう一体ドラゴンが現れるなんて・・」

「君は下がっていろ。あいつが、狙っているのは恐らく私だ」


                           (後編につづきます)

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