第6話 陸軍救出作戦③
1942年9月14日
現地時間午後9時過ぎ、米海軍の航空隊の攻撃を凌ぎきった海軍護衛総隊と約20隻の輸送船は、陸軍撤収地点である西部ニューギニアのデュルビル岬にたどり着いた。
現地では、既に西部ニューギニアに展開していた2万名の陸軍兵が集結しており、撤収作業の妨げとなる武器の廃棄も既に完了していた。
武器の廃棄に関して抵抗がある陸軍兵は相当数いたが、「撤収作業を迅速に完了させることが第1目標」という上層部の考えによって、渋々ながら大量の武器を廃棄したのだ。
輸送船から次々と大発・小発が打ち出されており、デュルビル岬に集結していた約2万人の陸軍兵をどんどん輸送船に運び込んでいた。
上官からの指示が徹底していたこともあり、陸軍兵の撤収は比較的スムーズに進んでいた。
輸送船が停泊している場所から少し離れた海面では、「大鷹」「雲鷹」から発艦した97式艦攻が敵潜水艦の出現に備えていた。
そして、日付が変わろうとしていた午後11時58分、陸軍全兵士の撤収を終えた輸送船が1隻、また1隻とデュルビル岬を離れ始めた。
日が昇っていたときは米海軍の航空隊から激しい航空攻撃に晒されたが、夜は出現が危惧されていた敵巡洋艦部隊も結局姿を現すことはなく、無事に撤収作業を終えることが出来たのだった。
そして10日後、海上護衛総隊と陸軍兵を満載した20隻の輸送船は無事にトラック環礁に帰港したのだった。
海上護衛総隊が初めての任務を見事にやり遂げ帰港してくる様子を少し離れた所から見ていた1人の男がいた。
ミッドウェー海戦後に新たに創設された第3艦隊の司令長官に2ヶ月前に就任した「鬼多聞」こと山口多聞中将だ。
山口中将率いる第3艦隊は8月の下旬からトラック環礁に進出してきており、空母部隊を中心に激しい訓練に従事していた。
その訓練の甲斐あってか、10月の中旬ころには、機動部隊の出撃準備が整う予定だった。
第3艦隊
司令長官 山口多聞中将
参謀長 草鹿龍之介少将
第1航空戦隊「飛龍」「翔鶴」「瑞鶴」
第2航空戦隊「隼鷹」「龍驤」「瑞鳳」
第11戦隊「比叡」「霧島」
第7戦隊「熊野」「鈴谷」「最上」
第8戦隊「利根」「筑摩」
第10戦隊「長良」
第4駆逐隊「嵐」「萩風」「野分」「舞風」
第10駆逐隊「秋雲」「夕雲」「巻雲」「風雲」
第16駆逐隊「初風」「雪風」「天津風」「時津風」
第17駆逐隊「浦風」「磯風」「谷風」「浜風」
第3艦隊は空母6隻、戦艦2隻、重巡5隻、軽巡1隻、駆逐艦16隻で構成されている大部隊であり、さらに半月後に中型商船改造空母の「飛鷹」が合流する予定だ。
不意に山口が「日米開戦からまだ1年も経過していないのに、内地の燃料事情は逼迫し始めているからな、あいつらに頑張って貰うしかないわ」と海上護衛総隊の艦艇群を見つめながらぼやいた。
山口の言っているとおり、内地の燃料事情は早くも危機的水準になってきており、第3艦隊のトッラク進出ですら、軍令部の面々から「油の無駄」と嫌みを言われたのだ。
最終的には軍令部の井上中将が油の手配をしてくれたので、事なきをえたのだが・・・。
「空母艦載機を飛ばすのにも油が必要、艦艇を動かすのにも油が必要、潜水艦を動かすのにも油が必要、挙げ句の果てには、油を輸送する油槽船を動かすのにも油が必要ときた。資源がない国は戦争なんてするもんじゃないな」
「今の時点では、米軍と何とか互角の勝負を演じることが出来ているが、かの国の生産力がピークに達しようとしている今、これからも五分の戦いが出来るとは到底思えんわ」
山口はその後しばらく自分の世界に入り込み、今後のことのついて考えふけっていた。
しかし、先を見通す能力に秀でたこの男ですら、この戦争の結末がどのような物になり、これからの日本海軍が、いや日本がどのような方向に進んでいくのかは分からなかった。
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