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「ご歓談中、失礼するぜ」

 ――聞き覚えのある、かつての低い声。カイルを見下すような声色と、地を踏みしめるような足音。後方から段々と近づいて来るその気配に、一同は即座に緊張した。間違いない。彼は……。

「……カエナ」

 忌々しくそうつぶやいたカイルに、目の前の彼は黄色の瞳を鋭く向けた。

「久しぶりだなぁ、カイル! どうだ、新しいパーティの調子はよぉ!」

 いかにも嘲り笑ったようなその態度に、周りの女性陣は一斉にムッとする。カイルの過去を知っている彼女たちにとって、元パーティのリーダーほど不快な男はいない。

「あんた、一体どういうつもり? まさか、また私たちにやられに来たの?」

 ラアラが彼に食って掛かる。実は、レヴァがパーティに加わる前の話だが、カイルのパーティは彼の元パーティと戦ったことがあるのだ。結果はカイル側の圧勝。覚醒した彼のスキル、ラアラの攻撃に特化した魔法、シャルの完璧な格闘技を食らい、カエナたちは相当痛い目を見たはずだ。それにも関わらず、再び邪魔をしに来たということだろうか。

「はっ! わざわざやられに来るやつがあるかよ!」

「じゃあ、頭の一つでも下げに来たの? 『カイル様のパーティに入れてください』って」

 勝負でコテンパンにされたカエナたちは、今までの悪評が広まってしまったことにより、結局パーティを解散せざるを得なくなったらしい。冒険者にとって、パーティへの参加は一種の生命線だ。冒険者であることに誇りを抱いていた彼にとって、パーティの解散はまさに断腸の思いだろう。どうしようもなくなり、ついに追放した者にすがろうとしているのではないか。

「おれが? おまえらのパーティに? ……ふざけんな!!」

 ラアラの一言が癪に障ったらしく、カエナは激しい声を上げ、左手を振り上げる動作をする。

「カエナ。おまえがどういうつもりかは知らないが、おれはおまえを許すつもりはない。これ以上、おれたちの邪魔をすると言うのなら……」

 カイルはラアラとカエナの間に入り、冷たい声色で忠告した。安寧を乱そうとする者は、容赦なく敵と見なす。カイルの水色の瞳は、そんな意図を孕んでいた。

「カイル。おまえこそ、一体どういうつもりだ? おれのパーティを滅茶苦茶にしておいて、ただで済むと思ってんのか?」

 カイルの様子をもろともせず、彼にずいと詰め寄ったカエナは、悪趣味な笑みを浮かべている。今にも戦闘態勢に入りそうな勢いだ。

「そんなこと言ってもさー、あんたって今一人でしょ? あたしたち四人だけど、勝算とかあるのー?」

 そう尋ねたシャルは、余裕そうに手首を回している。一度勝った相手、しかもたった一人のようだ。最早勝ち筋しか見えない。

 

「残念だったな! 四対四だ」

 ――カエナは言い放ち、すっと右手を上げた。その直後、深緑の茂みの向こう側から、三つの人影が姿を現す。長身が二人と、やや小柄が一人。全員が黒いローブを羽織り、フードを目深に被っている。性別すらも判断できない三人組は、影のようにカエナの横に並び、ピタッと止まった。

「いいか、これは復讐だ。おれのパーティを派手にぶち壊してくれた、おまえたちへのなぁ!」

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