季節の裏側

ちびまるフォイ

季節農家のその場しのぎ

季節ビニールハウスでは来年に向けた季節が育てられていた。

季節農家は、季節の育ち具合を確認しにやってくる。


「さて、今回の季節はちゃんと育っているかな」


ハウスに入るなり季節農家は肩を落とした。


「ああ……今年も春と秋はダメか」


ハウスで栽培している春と秋はしおれて出荷できる状態じゃなかった。

今年は記録的な大雨や台風が多かったこともあり、春と秋が十分に育てなかった。


けれど、そんな事情などお構いなしに人々は当たり前に春と秋の訪れを待っていた。


「しょうがない。アレをするか」


農家は出荷用のダンボールを持ってきた。

春用のダンボールには夏を、秋用のダンボールには冬を詰めた。


もちろん季節出荷票には「春」「秋」と書いて出荷した。


「やれやれ。夏と冬はちゃんと育ってくれてよかった。今年も春と秋が無くてもわからないだろ」


季節農家の出荷した春……に偽装した夏と、秋に偽装した冬は届けられた。


『見てください! 4月なのに気温は30℃! 今年の春は暑いですね!』


『10月の最高気温は2℃です。今年の秋は寒いですね!』


テレビリポーターが温度計を前にさわいでいるのを季節農家は当たり前に見つめていた。


「まあ、春じゃなくて夏だし。秋じゃなくて冬を出荷したもんな」


黙っていれば誰も気づかない。

都合のいい「異常気象」という例年どおりの言葉で片付く。


次の年になると、今年の異常気象が尾を引いて

ふたたび春と秋の生育に季節農家は失敗してしまった。


「うーーん、今年も春と秋はダメか。しょうがない、また偽装出荷するしかないな」


なれた手付きで季節の箱詰めをしていると、黒いスーツを来た男たちがやってきた。


「どうも。我々は季節管理局です」


「は、はあ」


「失礼ですが、その箱の中身は本当に春ですか?」


「え、ええ……そうですよ? もちろん。あはは……」


「我々はただしく消費者に季節が送られているか監視する組織です。箱をあらためてもいいですか?」


「あ、あーー! まちがっちゃったーー……て、てへっ! 本当は春を詰めるつもりだったのになーー」


慌てて箱を回収したが依然として季節管理局の鋭い目が向けられている。

これまでのように春や秋と偽装して、夏や冬を出荷はできない。


「ど、どうしよう……」


季節農家は海外の農家に助けを求めた。


「おーけーおーけー。こっちの環境では春と秋が育ちやすいからネ。いくらでも送るヨ」


「ああ助かる!」


海外の季節農家が作った春と秋が送られてきた。

これでなんとか今年はしのげる。季節管理局にもお叱りを受けずに済む。


季節農家は自分が季節偽装していたこともあり、届いた季節を一応確かめた。

中にはちゃんと指定の季節である春と秋が入っていたが。


「なんだこれ……ダメダメの季節じゃないか」


あまりに雑に作られている季節に声を失った。

春も秋も品質が悪く、でたらめな気温変化になっていた。

今から送り返すにも季節の出荷日まで間に合わない。


「どうしよう。この劣悪な季節を送ったら信用を失う。

 かといって夏や冬を送ることはできないし……」


季節農家は袋小路に追い込まれてしまった。

神にすがろうと空を見上げた季節農家にふと壁掛けカレンダーが目に入る。


「そ、そうだ! そもそも春と秋の月をなくしちゃえばいいんだ!」


季節農家は明日を配達している未来配送センターに連絡をした。

事情とお金の話をして春と秋の月の配送を停止させた。


これで春と秋が消えたことで出荷する必要もなくなり、堂々と夏と冬だけの季節を出荷した。


「はい、来年は春と秋がないんでこれだけです」


「うむ。たしかに夏と冬だな。間違いない」


ただしい出荷に季節管理局もにっこり。

季節農家はホッとした。


季節管理局が去ってからビニールハウスに戻ると、絶望的な光景が広がっていた。


「は、春と秋が……全滅だ……!!」


ビニールハウスで育てられていた春と秋は、

出荷月をスキップされたことで熟しすぎて腐ってしまった。


さらに悪いことに夏や冬も、春と秋の月の世話ができなかったことで育ちきっていない。

これでは夏と冬の季節も出荷は難しかった。


「しょうがない……次も出荷しなくていいように、月を飛ばすか」


季節農家はふたたび未来配送センターに連絡をした。





「なんか、毎年1年が短くなってる気がするなぁ」


消費者はその理由をいまだに知らないでいるのだった。

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