第12話 妹のアイリーン


 こんなパニックになりそうな状態で仕事は出来ないと思ったため、ちょっと休憩をセバスに言って部屋を後にする。



 そうして向かった先は、この領主の館でも領地を見通すには景色が良いテラスだった。


(そうだ、この時期は覚えがある)


 ちょうど半年前に、父上が親衛隊に選ばれ、母上と共に王都に行っているころだ。


 ハルトは領主として任命を受け、この領地を切り盛りしようと頑張って居た時期だった。


「あら、お兄様、こんなところでどうされたのですか?」


 領地を見ていると、後ろから声が掛かった。

 妹のアイリーンだ。



 だんだん思い出してきた。


 アイリーンは、1119年の春に北の方にある領地、アストレア伯爵家に嫁ぐ予定である。


「ああ、アイリーン久しぶりだな」


「いやですわ、お兄様。今朝朝食をご一緒したばかりですよ? お疲れになってますか?」


(ああ、この妹はいつもやさしいな。なんで嫁に出したんだっけかなぁ…………そうだ、父上からの推薦だったような気がするな)


 そう、アイリーン・フォン・エッグラースは、2年後に成人の儀を行い、アストレア伯爵家の元に嫁ぐ予定。



「…………ちょっと嫌な夢をみてな」


 とっさに言い訳してみるが、実際問題ハルト自身が過去に戻ったことも半信半疑だ。


「………お兄様がそう言うなら信じますけど、先ほどまでお仕事されていたんですよね?」


「ああ、うっかり寝てしまってね、目を覚ましにここに来たんだ」


(とっさに考えた割にちゃんとした理由になっててよかった)

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