第30話 暴かれた真実
広場につくや否や、アンバーさんに声をかけられた。
「あっ! ユート! なんや。彼女か? 隅におけんやっちゃな」
「い、いや。それは……」
「私とユートさんはお隣同士で……」
俺が返答に困っているとジェシカちゃんがやんわりと否定した。
「ほーん? そうなんか? まあええ。嬢ちゃん、ちょっとユートを借りるで」
「は、はい」
こうして俺はアンバーさんに連れられ、村長の家へと向かった。そして以前税金の宣告をされた部屋に行くと村長が待っていた。
「ほな、連れてきたで。ウチが連れていくんはこのユートや」
「なっ!? なんだと!?」
「なんや? ユートは平民なんやろ? それならなんの問題もないはずや」
「い、いや……だがそれは……」
「何や。問題でもあるんか?」
「こいつはまだ税を払っていない。税を払わずに村を出ることは許されない」
「ユートから聞いたで。十万やったな?」
「そうだ」
「いや、残りは五万だ。蜂蜜酒を納める代わりに五万は減額してもらったからな」
ここは俺の努力の成果だ。ここは譲れない。
「なんや。ユートは酒まで作れるんか? 器用なやっちゃな」
「まあ、な」
「んで、五万ちゅうんはホンマか?」
「そ、そうだな」
「さよか。んで、十万って最初に決めた根拠はなんや?」
「こ、根拠? そんなものは儂が決めたのだから――」
「ほーう? ええんか? そないなこと言うて」
「な、なんのことだ?」
アンバーさんが怖い笑顔を浮かべており、あの村長がたじろいでいる。
「ホント―に、ええんやな?」
「だ、だからなんのことだ?」
「しゃーないな。ほなら、ユートの収入記録を出しぃや。去年のでも今年のでもええで?」
「なっ!? そ、そんなものはない!」
「なら、王国法に違反しとるな。平民の税金は無収入なら一律千デール、大銀貨一枚ポッキリや」
なんと! そんなまともな法律があったのか!
「本来千デールのところを百倍の金額を吹っ掛けるなんて、何考えとるんや?」
「ぐ、そ、それは……」
「おおかたユートを農奴に落としたかったんやろう?」
「そ、それは……」
村長が眉間に皺を寄せ、俺のことを睨み付けてきた。だが、そんなことをされても俺が知らないからといって騙そうとしたそっちが悪いと思う。
「村長。さすがにそれはおかしいんじゃないですか? 俺に払う必要のない金を払わそうとして、しかも身分まで奪おうとしていたんですよね?」
「そ、それは、その……」
村長が口ごもっていると、突然家の扉が勢いよく開かれた。
「ガスター村長! どういうことですか! あのユートを農奴にするまでは他の商人には商売をさせないという約束だったではありませ……げぇっ!」
なんとも絶妙なタイミングでタークリーがやってきた。
「おい! あんた! どういうことだ! これまで散々足元見てくれやがって」
「そ、それはだな……。その……そうだ! 村長に頼まれたんだ。私は悪くない」
「なんだと!? おい! タークリー! 貴様が取引をもちかけてきたんだろうが!」
「し、知りませんな。他の商会もいるようですし、今日はこの辺で――」
「いや、待て! あんた、村長と結託して俺からぼったくっていたな!」
「何を言うんだ。運ぶのに金がかかるのは事実だ。それにあんただって納得して売ったじゃないか」
「う、それは……」
「じゃあ、今日は失礼させてもらうよ!」
そう言ってタークリーは脱兎の如き身軽さで逃げ出した。
「あ! おい! 待て!」
「ええよ。放っとき。どうせなんもでけへん。あんなのよりも、この村長や」
「わ、儂をどうする気だ!」
「決まっとるやろ。まずはユートから搾取した税のうち四万九千を返すんや」
「そ、そんな金がこの村にあるわけが……」
「ほなら、ロックハート商会の名前で告発でもしたろか? オタクの寄親はたしか……」
「ぐ……そ、それだけは……」
「なんや。困るんか?」
村長様は力なく頷いた。
「それならちゃんと返せばいいだけやで。なあに。安心しいや。今は持ち合わせがのうてもウチらロックハート商会が貸したるで? 利子はこんなんでどうや?」
「そ、そんな利子は……」
「ほなら、商売の話をしよか。借金の返済は補助金が入ったらでええで。それなら返済はどうにかなるやろ?」
「う、ま、まあ? それならなんとか……」
俺の目の前でどんどん話が進んでいく。もはや完全に蚊帳の外だ。
「あとは、ウチのロックハート商会もこの村で商売させてもらうで。ここは開拓村やったな?」
「あ、ああ。そうだ……」
「ちゅうことは、辺境開拓補助協定の対象やな」
「う……それは、その……」
「なんや? ちゃうのか? なら寄親の――」
「そ、そうだ。そうです! だからそれだけは!」
「なら無税やな」
は!? もともと無税だったはずのところで税金まで取っていたのか!?
これって汚職なんじゃ……?
「は、はい。その……とおりです……」
「ほな、決まりやな。おおきに」
「ぐ、く……」
良い笑顔のアンバーさんに対して村長は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべている。細かい話はよく分からないが、どうやら村長がアンバーさんに完璧にやりこめられたということだけは分かった。
「ユート。これはあんたのや」
「あ、ああ。ありがとう」
そう言ってアンバーさんはお金を渡してきた。金貨が四枚に小金貨が一枚、そして大銀貨が四枚だ。これで合計四万九千デールのようだ。
こうしてアンバーさんのおかげであっさりと村長様たちの企みは暴かれ、農奴にされるという結末は回避できたのだった。
……俺は、どうしてこんな無駄なことをずっとやっていたんだろうか?
「それとな、ユート。あんたもいい年しとるんやから、自分で考えなダメやで? ウチがおらんかったら騙されて農奴になっとったで?」
「う……はい。反省してます。ありがとうございました」
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明日も引き続き村長と対決します
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