第27話 蜂蜜酒の魔力

 蜂蜜酒ミードの仕込みをしてから今日で一か月が経過し、ようやく飲める状態に仕上がってくれた。少し味見をしてみたが、蜂蜜の香りがしっかりと残ったかなり甘いお酒になっている。


 さすが、メニューからポチッとやって作っただけあって出来栄えは上々だ。


 そして今回、俺はこの蜂蜜酒を手に村長様の家へとやってきた。足元を見てきやがるタークリーではなく、村長様に直接売りつけようというわけだ。


「失礼します」

「どうした? まだ金は貯まっていないだろう?」

「え? なんでそれを?」

「タークリーはうちで商売するために税を払っているのだ。貴様からいくらで何を買ったかも報告を受けている。それに応じた税を掛けているからな」

「え?」


 やっぱりこいつ、払えるわけないのを知ってやっているな?


「どうした?」

「い、いえ」


 そうだ。腹立たしいが、今はその話をしにきたんじゃない。


「こちらを作りましたので、味見をしていただこうと思いまして」


 社畜スマイルを顔に貼り付け、持ってきた蜂蜜酒を小さなグラスに注いで差し出した。


「む? これは……! まさか! 酒か!?」

「はい。醸造した蜂蜜酒です。蜂蜜は森でたまたま見かけた蜂の巣から採取してきたものです」

「むむむ。これは! 蜂蜜の香りこれほど残っているのに雑味が少なく、しかも満足感のある強さとは……!」


 差し出したグラスをもう空にしてしまった村長様は、空いたグラスをじっと見つめながらそんなことを口走っている。


 どうやら相当気に入ってくれたようだ。


「……おい。もっとないのか?」

「まだありますが、どこかで商品として売る予定ですのでこれ以上はご勘弁ください」

「タークリーに売るのだな?」

「いえ。あいつには売りませんよ」

「なんだと!? なぜだ! タークリーに売れ! タークリー以外の商人などこの田舎に来てくれるわけがないだろう!」


 ……ん? なんでそんなことを断言できるんだ?


 あ、もしかしてこいつがタークリー以外の商人を締め出しているんじゃ……?


 まあいい。とにかく今は作戦をどおりに高値で売りつけることだけを考えよう。


「あいつは足元を見てきますからね。あんなぼったくり商人に売るぐらいなら自分で飲んだほうが遥かにマシですよ。ああ、それと原材料はないので今回醸造したもので全てです。もう二度と作ることはできません」

「ぐ、むむむむむ」


 よし。効いてる。今までは交渉材料がなかったが、今回はこちらに有利な手札がある。これならなんとかなるんじゃないだろうか?


「……ですが、村長様でしたら、特別にお売りすることもできますよ?」


 俺がそう囁くと、村長様はガタッと椅子を倒して立ち上がった。


「い、一体いくらで売ってくれるのだ?」

「……いくらなら出せますか?」

「……ひと瓶五百出そう」


 ひと瓶というのは大体750mlで、日本でいうところのワインボトル一本と同じだ。


「いえいえ。そもそもこの村にはお酒はないんですから、一つ十万でどうです?」

「蜂蜜酒で十万などあり得ん。千だ」

「いえいえ。タークリーさんも普段から言っていますよ。ここに運ぶのにはコストがかかるって」

「限度というものがあるだろう! 千百でどうだ?」

「仕方ありません。じゃあ五万で」

「話にならん。そもそも、儂がそんな金を持っているわけがなかろう!」

「え? 村長様が持っていない額の税金を俺が払うんですか?」

「んなっ!? あ、いや……ち、違う。そうではない。村の運営にも金がかかるのだ。そう、村のために金を使っているから手持ちがないのだ!」


 この慌てようは……そういことか。こいつ、払いきれないということを知って俺の税額を決めやがったんだな。


「へえ? ですが村長様。俺からの税金があるじゃないですか。それと相殺するという形にするというのはどうですか」

「おお! そうか!」


 村長様は名案とばかりに顔を輝かせたが、すぐに首を傾げる。


「……ん? っ! くっ! 貴様!」


 ようやくしてやられたことに気付いた村長様は顔を歪めた。


「儂は村長でこの村で唯一の騎士爵だ! 不敬だぞ!」

「……ですが、あのタークリーさんは全然お金を払ってくれないんですよ。俺としてもちゃんと支払いはしたいんですけどねぇ……」

「な、ぐ、くっ」

「だからこうせざるを得ないんですよ。本当はこんなこと、やりたくないんですけどねぇ……」


 さも残念という表情を作ると、少し俯いた。


「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ」

「ええい! わかった! ならばひと瓶五千で引き取ろう! これ以上は上げられん!」

「わかりました。それで手を打ちましょう。全部で十瓶ありますので、税金はあと半分の五万ですね?」

「……く……そう、だな。仕方あるまい」


 こうしてなんとか譲歩を引き出した俺は、村長様に蜂蜜酒を届けるため家へと戻るのだった。


 よし。この村に来て初めて一本取ってやったぞ。やはりお酒か。


 このままお酒を作ればギリギリ間に合うかもしれないな。蜂蜜がもう一度手に入ればいいのだが、手に入らなかった場合のことを考えると別の原料でもお酒を作っておきたい。


 ビールとワインはダメだったし、他は何があったかな?


 残念ながらSCOをやっていた頃はお酒が飲めない年齢だったせいもあり、そういった内容はしっかり覚えていないのが悔やまれる。


 村に小麦畑はあるのだから、小麦を使って何か醸造できないだろうか?


 ホップがあれば小麦のビールが作れるはずだが……。

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