第19話 硝子師

2021/06/20 調合に関する矛盾した記述を修正しました

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 あれから二週間が過ぎた。再び村人のレベルが10に到達した俺は、悩んだ末に当初の計画どおり硝子ガラス師の職を取得した。


 前衛職は村長様とご子息様がいる。であれば俺がそこを厚くするよりも、この村で誰もできないガラスづくりをできるようになったほうが村のためだと考えたからだ。


 この村でガラスの容器が生産できるようになれば傷薬を作って保管できるようになる。そうすれば多少買い叩かれたとしても加工品である傷薬を行商人に売ることができるようになり、村の収入源にもなるはずだ。


 そうすれば俺がみんなの採集してきた薬草を買い取ってお金を支払い、それで村のみんなもお金を得ることができるようになる。


 それをコツコツ貯めていけば、いずれはみんなも農奴から解放されるかもしれない。


 そこまで俺がいられるかどうかはわからないが、せっかくお世話になっているのだから多少はそのお手伝いをしたいと思うのだ。


 そんなわけで、硝子ガラス師となった俺は、庭にしつらえたガラス焼き窯で早速ガラス瓶を焼くことにする。


 方法は窯に川で採取してきた砂と燃料の木炭を入れ、メニューから作りたいガラス製品を選ぶだけ。そうすれば後は待っているだけで勝手にできあがるのだ。


 さて。今のうちに狩りにでも行ってくるとするかな。


◆◇◆


 今日は大物の鹿を仕留めることができたので、村のみんなにもおすそ分けができそうだ。


 俺はロドニーのところに鹿を預けると、ガラス焼き窯のところへと戻ってきた。


 さて、どうだろうか?


 メニューを開いて中から製品を一括で取り出すボタンを押した。するとインベントリに『ガラスのポーション入れ(低品質)』というものが一瞬で追加される。


 お! できたできた!


 早速取り出してみると、行商人が持ってくる傷薬の入った容器と同じような小瓶が現れた。


 たしかに透明なガラスの小瓶ではあるが、低品質と書かれているだけあって日本で普段使われるようなガラスとは違いあまり透明ではない。


 だがこれでもガラスはガラスだし、ポーション入れならば傷薬でも問題ないはずだ。


 早速薬の調合台へと移動すると傷薬を作成する。今回は入れ先を木のボウルではなくこの小瓶だ。


 メニューを操作してしばらく待っていると、小瓶の中が傷薬で満たされた。


 おお、よし! 成功だ。


 これであとは量産するだけだな。


 そう考えた俺はガラス焼き窯に戻ると砂と木炭を大量に投入して『ガラスのポーション入れ(低品質)』を焼けるだけ焼くのだった。


◆◇◆


 その夜、ロドニーのところに夕食を食べにいった俺はさっそくガラス焼き窯のことを質問された。


「よう。ユート。今度は何をやったんだ?」

「ん? なんのことだ?」

「とぼけんなよ。お前の家の庭で、炭焼窯じゃないところから煙が上がってるじゃないか」

「ああ、あれのことか」


 どうやらガラス焼き窯から出ている煙が見つかったらしい。


「いや、ガラス作りに挑戦してみたんだ」

「ガラスだって!?」


 ロドニーは突然大声を上げた。


「おいおい。どうしたんだよ。そんな大声出して」

「いや、ガラスなんて! 硝子師の職業を持っていないと作れない高級品じゃないか! お前、どうやったんだ!?」


 まあ、硝子師の職を持ってるからな。


 俺は懐から傷薬の入ったガラス瓶を取り出すとロドニーに手渡した。


「ほら。ちゃんとできたぞ」

「おおお! マジか!」


 ロドニーは目を丸くして驚いている。


「こうすれば、あの行商人だってそれなりの値段で買い取ってくれるはずだ。そうすれば村のみんなが採ってきた薬草を俺がお金で買い取ることができし、そのお金でみんな自分を農奴から解放することができるはずだ」

「ユート……お前……実はいい奴だったんだな!」

「おい! 実はとはなんだ!」

「ははは。言葉の綾ってやつだ」

「いや、ちげぇから」


 そう言って俺たちは鹿肉のステーキを前にして笑い合ったのだった。

 

◆◇◆


「あの、ユートさん」

「どうしたの? ジェシカちゃん」


 夕食を食べ終えて帰ろうとした俺をジェシカちゃんが引き留めてきた。何か少し思いつめたような、不安そうな表情をしている。


「あの。もしよかったら今度、二人で採集に行きませんか? ユートさんのお手伝いがしたいんです」

「え? でも村の外に行くのは……」


 ロドニーが「結婚前の女の子が森で獣や盗賊に襲われたらいけない」と断固として反対していたはずだが……。


「お父さんの許可は取りました。ユートさんが一緒なら良いって」

「……そっか」


 つまり、ジェシカちゃんが自分の意志で俺と一緒に仕事をしたくて父親がそれを許可したということだ。


 数か月一緒に生活してきたおかげでこの村の慣習はある程度理解してきたのだが、これは「親が公認で男女が交際、またはその準備に入ることを許可した」という意味だ。


 たかが一緒に出掛ける程度で許可なんて大げさだ、と思うかもしれないがこの村は相当な男社会だ。昔の日本のように父親が全ての権力を握っていた家父長制度のようなものをイメージしてもらえると分かりやすいかもしれない。


 まあ、ロドニー家の最高権力者はブレンダさんなのだが、そのブレンダさんも一応外ではロドニーを立てている。


 そんなわけなので、父親が許可を出してはじめて男女が二人きりで会うことが許されるのだ。


 つまり俺に群がっていた女の子たちは……。


 こほん。とりあえずそれを考えるとゾッとするので脇に置いておこう


「あ、あの……ダメ、ですか?」


 いくら日本に俺が帰るとはいえ、ここで断るのも何となく気が引ける。


 それに、一緒に出掛けたからといって結婚しなければならないというわけではなかったはずだ。


 であれば、別に森で一緒に仕事をするくらいは問題ないだろう。


 ないよな?


 よし。


「いや。そんなことないよ。ただ、あまり遠くにはいけないからね」


 それを聞いたジェシカちゃんは嬉しそうにぱぁっと顔を綻ばせたのだった。


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