第22話 レイスとの邂逅

 狩りを済ませたゲングは直接基地には戻らず、タチバナが待つタチバナタワーの展望台を目指した。

 ゲングは展望台の上空までやってくるとカモフラージュを解き、宇宙の暗闇から滲み出るようにして姿を現した。月面から二キロ近い高さに浮かぶ展望台の窓から溢れる光が、暗闇を漂ってきたゲングを誘い寄せる。

 展望台の天井にスペースポートにタチバナの専用の小型のシャトルが停泊している。ゲングはそのすぐ傍に舞い降り静かに片膝を突いて跪くと、専用装備のビームランチャー『シラヌイ』を足元に横たえ、左手で抑えた。動作が止まると頭部ユニットが跳ね上がり、コクピットハッチが露出する。開かれたコクピットハッチから身を乗り出したトーマス・カラードは、ゲングの機体色とは対称的な白いパイロットスーツ姿を宇宙空間に晒した。トーマスはスペースポートに飛び降り振り返ると、物言わず跪くゲングを見上げた。「ゲング、立ち上がって待機しろ。すぐ戻る」トーマスがそう指示すると、ゲングは星空を背に立ち上がった。


 展望台の中は空調設備が擬似的な季節に合わせ、季節ごとに快適な温度に調整をしている。そのはずが、広く閑散としている展望台の中はいつ来ても肌寒い。静寂が支配する空間で、清掃ロボットと植物の世話をする水やりロボットの動作音が、ささやかにそれに抗う。

 トーマスは展望台中に降りるエレベーター中で、白いパイロットスーツから黒のスーツに着替えた。トーマスはエレベーターを出てすぐ、いつもと違う光景に気付いた。

 ベンチに座ったタチバナの傍に誰かがいて話し込んでいるようだった。胸騒ぎがしたトーマスはわざと足音を響かせ、タチバナのもとに急いだ。近付くトーマスに気付いたその誰かは、タチバナとの話を切り上げ下りのエレベーターに向かってそそくさと歩き始めた。観光客のような身なりをしているが、すれ違いざまにトーマスに向けた視線は暗殺者のような冷たい鋭さがあった。      

 トーマスは急いだ。タチバナはまるで植物になってしまったように冷たく静かに、トーマスに背中を向けている。嫌な予感がしたトーマスは声を掛けるのを躊躇ったが、タチバナはいつもと変わらぬ声でトーマスの名を呼んだ。

 「トーマス君?」

 トーマスは安堵した。

 「はい、私です。誰かとお話しされていたようですが?」

 「観光客だそうです」

 「そうですか・・・」

 「まさか、暗殺者だとでも思いましたか?」

 「いえ、観光客にしては冷たい目をしていたと」

 「確かに、観光客ではないでしょう。おそらく、リビングストンの使いのものです」

 「・・・!リビングストンの使者という事は暗殺者と何ら変わりありません。市長、ここにお一人で留まるのは危険です。私もここに留まり・・・」

 「トーマス君、その必要はありません。心配もいりません。誰も私の命を奪いに来たりしません。それどころか私に利用価値がある内は生かされ続けるのです。トーマス君、余計な心配をせず、あなたは自分の使命を果たすことにのみ注力してください」

 「しかし・・・」

 珍しく、トーマスは食い下がる。

 「トーマス君、よしなさい。時間の無駄です」 

 タチバナは頭が天井にぶつかりそうな勢いで立ち上がり、振り向いて、トーマスを見下ろした。

 「トーマス君、いいですか?リビングストンがこちらの動向を探りに来たということの意味を理解してますか?」

 ここで、タチバナの語気が強まる。

 「リビングストンは準備を始めたのです!いよいよです!トーマス君!私たちが待ち望んだ瞬間が今そこまで来てるのです!トーマス君、こちらの準備は整っていますか?」

 今までになかった勢いで捲し立てるタチバナに、トーマスは圧倒された。トーマスはその気迫に呼応するように、いつもよりも声量が増す。

 「市長!準備は出来ています!すでに百パーセントの準備が整い、今は百二十パーセントまで高めている段階です!先ほど、ゲングを調整を済ませてまいりまいた!ゲングはウォーロックを間違いなく上回る機体です!私はこの機体を操り、作戦行動中の市長に寄り添い不測の事態に備えます!」

 タチバナは満足げな笑みを見せた。

 「よろしい。トーマス君、私は市長になってからずっと夢を見ていました。それは、傲慢で身勝手な地球人にこの手で裁きの鉄槌を下すことです。私の父と母はこの世を去って久しい今でも、涙に暮れています。私には毎日、その幻が見えるのです。父と母を悲しみと寂しさから開放するにはこの方法しかありません。トーマス君、協力してくれますね?」

 トーマスは感情が昂ぶり、涙を流していた。

 「私は・・・、市長とともに悲願を成し遂げ、必ずこの場所に戻ります!」

 「うん・・・」

 タチバナは深く頷いた後、再び背を向けた。 

 「トーマス君。本当はね、あなたを巻き込んで申し訳ないと思っているんです・・・」

 トーマスはその背中が震えているのに気付いた。

タチバナは泣いている。

 「市長!私は所用があります!それでは!」

 トースは踵を返し、足音を響かせタチバナの元を離れた。涙が止まることはなかった。





 基地に戻ったカールとルグランはヴァイス司令に呼び出された。二人は早速、司令官室に向かい部屋に入った。待ち構えていたヴァイスは立ち上がり、「楽にしてくれ」と言って話し始めた。


 「現在の状況を簡単に整理する。スワール隊のことだ。付近のレーダーサイトや基地からデータの提供を受け解析した結果、スワール隊を攻撃したのは黒いルナティックの可能性が高い、という結果がでた。可能性が高いとうだけで確定はできない。その理由として使用された武器の違いがある」

 ヴァイスはここまで話して、ルグランとカールを交互に見た。

 「これまで黒いルナティックは、六年前の初代も現行機も含めて、レールガンを使用していた。だが今回は荷電粒子ビームランチャーが使用された」

 「あの、撃ったのはレイスじゃないんですか?」

 カールは率直な疑問をぶつけた。

 「違うだろう。レーダーでもセンサーでも、射撃地点にルナティックの存在を感知できなかった。射手は何らかの方法で機体を隠している。それにギルドがスワール隊を狙う理由がない。彼らはギルドといい関係を築いている」

 「要するに、黒いルナティックがカールが無くした試作ビームランチャーで武装し、スワール隊を攻撃した、ということだな」

 ルグランが口を開いた。

 「その可能性が高い、ということだ」

 「俺とカールは処分されるのか?」

 「処分は保留。使用されたのが当基地で開発した試作ライフルであると確定していない。だが、別の問題が出てきた。大事なのはここからだ」

 ヴァイスは困った表情を見せて、話を続けた。

 「ことの成り行き次第では想像以上の大事になるかも知れない。インテンションの一部の勢力がギルドと黒いルナティックが繋がっていると主張し始めたんだ。襲撃の首謀者はギルドだ、と」

 「なんでそうなるんです?」

 カールは再び、率直な疑問をぶつけた。

 「ギルドを攻撃したいのさ」

 ルグランがヴァイスより先に答えた。ヴァイスは頷く。

 「なんでギルドを?」さらにカールが尋ねる。

 「ギルドを叩いて弱体化させ、軍がやりたい放題だった古き良き時代を取り戻したいのさ」

 「古き良き時代って・・・、そんな理由で?そんなの安易すぎますよ。戦うにしたって、ギルドの戦力はよく分からないのに。どうするんですか、返り討ちに会ったら?」

 「強硬派の連中にそんな言葉は届かない。今回の一件を絶好のチャンスと捉えてる。強硬派はギルドが黒いルナティックを裏で支援していると、次の議会まで騒ぎまくるだろう」

 「でも、黒いルナティックはギルドを攻撃しています。被害も出ているはずですが」

 「真実を隠すための自作自演、だとでも言うだろう」

 「なんですかそれ!?」

 「で、どうなるんだ?ほんとに始まるのか?戦争が?」

 「まだその心配はないが・・・、また被害が出れば悪い方に傾くかもな。残念だが、軍には狂ったヤツらがいる。強引なやり方に出るかも知れない。例えば・・・」

 「自作自演とか・・・」 

 「そんな・・・」

 カールは助けを求めるように、ルグランとヴァイスを交互に見た。二人はお手上げの仕草をした。 

 「しかし、何もしないで高みの見物という訳にはいかない。このフォルテ基地には良心が残されている。そうだな、カール」

 カールは強く頷く。 

 「そこでだ、ルー、カール。君たちルグラン隊の二人に緊急の任務を通達する。やり方は君たちに任せるから、最悪の事態を回避してくれ」

 それを聞いたルグランは笑いだした。

 「やり方は任せるって言ったって、何をどうしろと?」

 「黒幕の正体を暴いてくれ。もちろん、他の隊にも動いてもらう。基地を挙げて情報収集を行い、新たな情報が得られればすべての隊で共有する。他の基地にも協力を仰いでみるが、それは・・・、あまり期待するな」

 ルグランは苦笑いをするしか無かった。

 「はいはい、了解しました。カール、行くぞ」

 一度、部屋を出ようとしたルグランは振り返り、見送るヴァイスに視線を戻した。

 「ベストを尽くす以上のことは出来ないことを、一応、断っておく。」

 「ああ、承知している・・・」

 二人は不敵な笑みを浮かべた。カールも、なんとなく笑った。




 ルグラン隊はスワール隊が襲撃を受けたエリアにやって来た。シャトルは使わず、月面を飛んだり、ジャンプしたりしながら、はるばるやって来た。

 戦場は綺麗だった。月のどこかでルナティックが戦闘を行えば、どこからともなくジャンク屋が集まり、まだ使えそうなパーツや破棄された武器を、綺麗さっぱり持ち去ってしまう。辺りに残されているのは大きくて持ち帰れないシャトルの残骸と、荷電粒子ビームのエネルーギー弾を受け止めた月面の傷跡だけだった。


 スワール隊を攻撃した荷電粒子ビームは、月面を二箇所穿った。着弾直後に現れた岩肌は、流れ込んだ月面の砂ですでに隠されている。

 カール機とルグラン機は、戦闘エリアを探索しつつスワール隊の戦闘データを再生し、周囲の地形と重ね合わせたいた。スクリーンにはコナーズ機が消し飛ばされた瞬間が再生された。

 「俺・・・、あんなの二発も撃ったんですね。そのうち一発は怒りに任せて、感情にままに撃ちました」

 「当たらなくてよかった、と思ってるのか?」

 「情けないけど、そうです」

 「そのうち、ルナティックが当たり前のように撃ちまくる日が来る。そうなったら、どうする?」

 「俺は・・・、正しく使いますし、狙われても当たるつもりはありません」

 「自信があるのか?」

 「自信じゃなく、決意です」

 「そうか・・・、それでいい。多分な」

 ルグランは笑みを浮かべていると、カールは信じた。

 「あの、隊長、もし今回の襲撃の黒幕が、本当にギルドだったらどうしますか?」

 「そうだったのなら、そういう報告を上げるだけだ」

 「その場合、やはり、ギルドと戦争になるでしょうか?」

 「黒幕がギルドだったとしても、それだけで総攻撃していい根拠にはならない。こちらの損害に見合う報復に留めるべきだろう」

 「ですよね、俺もそう思います」

 「カール、俺はな・・・」

 ルグランが何か言おうとしたその時、レーダーが接近する何かを捉えた。その反応は真っ直ぐこちらに向かって近付いてくる。

 「隊長、何か来ます。ルナティック?」  

 「軍じゃないな、ギルドか・・・?」

 カールはルグラン機が見上げた方向を見た。薄いグレーのルナティックが二人の頭上を飛び越え、目前の丘の上に舞い降りた。ルナティックはゆっくりと振り向いた。


 カールはこちらを見下ろす機体が誰のものか、よく知っていた。脳裏にあの時の屈辱が蘇る。

 「ネム・レイス!」

 ルグランはすぐに聞き返した。

 「間違いないか?」

 「あの青いアクセントは忘れません」

 レイスの機体は動かず、カールとルグランを見下ろしたままだ。ルグランは通信が開かれていることを確認し、問い掛けた。

 「ネム・レイスか?」

 レイスから返答はなく、沈黙が流れる。我慢できないカールが割り込んだ。

 「レイス!ここへ何しに来た!俺から奪ったライフルを返しに来たのか!素直に差し出せば受け取ってやってもいいぞ!」

 「カール、落ち着け。ここは俺に任せろ」

 興奮するカールをルグランが落ち着いた口調で宥めて、レイスに再び問い掛けた。

 「ネム・レイス。俺はフォルテ基地所属のルグラン・ジーズ。このエリアで味方が攻撃を受けて、その調査のためここに来た。敵の正体は不明だ。君も容疑者のひとりだが、場合によっては君を撃たねばならない。何か言いたいことはあるか?」

 レイスは黙ったままだ。しびれを切らしたカールが再び割って入る。

 「俺はカールグレイ・アロウ!お前に蹴飛ばされたせいでいい笑いものになったんだ!さらに!軍を追放される寸前だ!どうしてくれる!」

 「カール、ちょっと黙れ。レイス、済まない。そうだ、頼みがある。君の顔を見せてくれないか?俺は君の顔をよく知らないんだ」

 沈黙の後、笑うような息遣いがして、スクリーンにウィンドウが開き、そこにレイスが現れた。レイスがヘルメットを脱ぐと黒髪が溢れ、その奥から、幽霊野郎のあだ名にふさわしい青白い顔が覗いた。

 「これでいいか?」

 「ありがとう」

 ウィンドウが閉じようとする瞬間、カールが三度割って入り「俺の顔も見ろ!」と叫んだが、あっさりと無視された。「くっ・・・!」 


 レイスとルグランの会話は続いた。

 「ネム・レイス。なぜここに来た。迷子か?偶然か?まさかとは思うが、プレゼントでも持ってきたのか?」

 ひと呼吸置いて、レイスは話し出した。

 「依頼を受けたんだ。ルグラン・ジーズ、アンタに贈り物を届けろと」

 「俺に・・・?」

 「こうすることで俺の依頼人は利益を得ることが出来るらしい。さ、受け取れ」

 レイスはまるで握手を求めるような動作でライフルを向け、発砲した。弾丸はルグランとカールの間を擦り抜け背後の月面に着弾した。ルグランもカールも反応できなかった。だがルグランは、発砲と同時に何かのデータファイルが送りつけられたことを見逃さなかった。そんな事に気付かないカールは激高し、一瞬で戦闘モードに突入した。

 「レイス!撃ったな!完全な敵対行為だ!お前を撃墜する!」

 レイスはジャンプし、機体を翻して飛び去った。

 「逃がすか!」カールはルグランの指示を待たず、スラスター全開で後を追った。

 「おい、カール!まあいい、追撃しろ」

 ルグランはカールを見送った。

 「ファイルは後にする。まずは、お手並み拝見と行くか」

 ルグランもジャンプし、さっきまでレイスが立っていた丘の上に移動し戦闘態勢に入った。すぐさま片膝を突き、精密射撃モードを起動する。

 「噂通り腕なら簡単に墜とされはしないはずだ。期待を裏切るなよ・・・。ネム・レイス」

 ルグラン機が装備するライフルはルナティック用の一般的な中射程ライフルだが、ルグラン専用のカスタムが施されていて、威力、精度、射程が高められている。狙うのはもちろん、逃走するレイスだ。

 「うおおおぉぉぉ!」レイスを追うカールの雄叫びがルグラン機のコクピット内に響き渡る。それを聞いたルグランは思わず苦笑いした。「俺も昔はああだった・・・」


 レイスは起伏の多い地形の低いところを飛びながら、徐々にルグランから離れていく。ルグランはレイスが姿を見せそうな、遮蔽物がない低い場所を探した。狙撃できる瞬間は、あったとして、一度きりだ。ルグランは精密射撃モードのスコープを覗きながら狙撃ポイントを見定め、レイスが姿を表す瞬間を待った。

 トリガーを引くべき瞬間は、カールが教えてくれる。未熟な操縦技術ゆえ、カールが飛んだ後には盛大な砂埃が巻き起こる。それを追うことで、その先を飛ぶレイスの位置を予測できる。ルグランはレイスの機体がスコープの中に飛び込んでくるのを待った。


 レイスは月面の低いところを飛び、背後から追ってくるカールの追跡を躱そうとしている。カールは月面にぶつかりそうになりながらも、なんとか食らいつく。ライフルはレイスに狙いを定めようとするが、付いていくのが精一杯でロック出来ない。

 「俺のタイミングで撃つ!俺なら出来る!」

 カールは自分の勘に従い、トリガーを引いた。だが、掠りもしなかった・・・。


 カールの撃った弾丸がスコープを横切った。ルグランは条件反射的にトリガー引いた。同時に、姿を現したレイスのライフルも光を放った。ルグランとレイスはまったく同じタイミングでトリガーを引きいた。

 同時に放たれた弾丸は、中間地点ですれ違いざまに接触し、火花を散らした。互いの弾丸はわずかに逸れ、ルグランの弾丸は何もない丘陵の斜面に着弾した。レイスの弾丸はルグラン機の頭部ユニットを掠め、左頬にキズを付けた。瞬きするより短い瞬間の出来事だった。

  

 「今のは偶然じゃない・・・」

 ルグランは、今、起ったことを信じることが出来なかった。何故か、笑みが溢れる。

 「レイスは俺の居場所と射撃のタイミングを読んでいた・・・」

 ルグランが一瞬の出来事を回想し、目を閉じていたその時、レイスは急上昇し宙返りをして、追ってくるカールの背中にまたしても蹴りを食らわせた。

「うわぁぁぁ!」月面に叩きつけられたカールの悲鳴がルグラン機のコクピットに届く。

 「カール、どうした!」

 応答は、数秒経ってからだった。

 「うぅ・・・、月面に埋まっています。多分、蹴られました」

 「無事なんだな?」

 「物理的には・・・」

 「メンタルか?」

 「う・・・」

 「カール、もういい。戻ってこい」

 「了解です・・・」

 

 ルグランはカールが戻るのを待つ間、レイスに送りつけられたデータを調べた。

 「映像データ?」

 再生すると、ルグランのコクピットのスクリーンとすべてのモニターに、レイスがコクピットから見ていた映像がそのまま再現された。

 再生された映像は、レイスと黒いルナティックが繰り広げた、地下の廃墟から始まり、タチバナロードを経て月面で痛み分けとなった、第二ラウンドの様子だった。

 「黒いルナティック・・・!」

 ルグランは見入ってしまった。


 

 「隊長、どうしました?」

 ルグランは、カールはいつの間に戻って傍にいるのに気が付かなかった。

 「カールか・・・、お前もこれを見てみろ」

 カールはルグラン機とデータリンクし、ルグランが見ていた映像を送った。

 再生された映像を、最初は黙って見ていたカールだが、徐々に、興奮が高まり、遂に声を上げた。

 「これは・・・!?黒いルナティックを追い詰めてる・・・!この攻撃は!荷電粒子ビーム!」

 見終わったカールは「ふぅ」と息を吐いた。  

 「隊長・・・、これはなんですか?なんでこんな物を今、見せるんです?」

 「さっき、レイスが送ってきた。ライフルの銃弾と一緒にな」

 「レイスが!?レイスは何のつもりでこんな物を送ってきたんです?まさか、この映像はレイスの視点ですか?」

 「その様だ」

 「ビームランチャーの攻撃を受けてる!?てことは、スワール隊を攻撃したのは自分じゃないと言いたいんでしょうか?でも、潔白を証明するには、これだけでは十分ではありません・・・」

 「レイスの意図は分からない。が、こうすることで依頼主に利益が出ると言っていた。潔白の証明のつもりではないだろう。その理由を問いただそうにも、もう行ってしまった。一旦、帰って映像の分析を行おう」

 「これで何が分かるでしょう?」

 「何かは分かるだろう」

 「手ぶらにならずによかったですね」

 「ああ、想定外の収穫だった。それと、カール。言っておくことがある」

 「なんです?」

 「謝る。お前がレイスに蹴飛ばされたことを笑って済まなかった。レイスは思った以上に優れたパイロットだ。認める」

 「隊長、どうしたんです?何かありました?」

 カールがキョトンとするのが、ルグランには容易に想像できた。

 「カール、俺はアイツにまた会ってみたい。出来ればルナティックに乗っている時に。確かめたいんだ。どれほどの力を持つのか」

 「なら・・・、今回のことで撃墜命令が出ます!そうなれば、いつでも心置きなく、出会った瞬間戦えます!」

 「そんな物は必要ない。今のレイスとの会話と交戦記録は封印しろ。ヴァイスにだけ見せる」

 「どうしてです・・・!?」

 「他の誰かに楽しみを奪われたくない」


 カールが興奮して何かを話していたが、ルグランには聞こえなかった。ルグランは遠くを見ていた。

 「その時が来れば、きっと、誘ってくれるんだろう?ネム・レイス」

 

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