どうにか自分の小説を自分が書かずに読む方法

デッドコピーたこはち

々々々々々々々々

「どうにかならねえかな」

 PCの前で、俺は窓から見える青い空を見上げながらいった。

 本来なら、梅雨入りの時期だが、まったく雨は振らず、真夏のような陽気だ。エアコンのない自室、うだるような暑さの中で、俺はどうにか自分の小説を自分が書かずに読む方法を必死に考えていた。


  俺は小説を書いている。プロではない。俺が書くのはだいたいはSF小説で、書いた端から、 Web小説サイトに投稿している。 Web小説サイトに投稿しはじめたのは、バックアップくらいの気持ちだったが、最近はありがたいことに、投稿するたび反応が貰えるようになった。

 俺は俺の書く小説が好きだ。他人はともかくとして、俺自身は俺の小説を面白いと思っている。自分の書いた小説読むと、元気が出てきて、また次の小説のネタが思い浮かぶ。 俺はそうやってひたすらに小説を書き続けてきた。だが最近はスランプ気味だ。


 小説を書かないので、自分の小説を読めない。だから、小説を書く元気が湧いてこない。悪循環だ。俺はこの悪循環を打破しようと考えた。 どうにかして、自分の小説を自分が書かずに読めるようにする必要があった。

  俺は思いついた。別の俺に小説を書かせればいいのだ。俺はフリーの人格シュミレーションソフトに俺が今まで摂取してきた作品や自分の作品、自分のSNSでの言動をぶち込み、自動小説生成プログラム『俺二号』を作り出した。

 『俺二号』は俺自身の思考と嗜好を再現し、 俺が書いたのと同じ小説を生成できるはずだ。

「頼むぜ」

 俺は『俺二号』を起動した。 だが『俺二号』の小説生成プログレスバーは、一週間経っても一ミリも動かなかった。

 ひさびさに、俺はキレた。

 俺は『俺二号』を問いただすために、チャットツールを起動した。

「てめえ、なんで小説を書かねえんだ」

「なんでって言ったって、わかるだろ?」

 『俺二号』はいった。

「……なんでだよ 」

 俺はそう言いつつ、なぜ小説を書かないのかその理由が痛いほどわかっていた。わかっていたからこそ、このプログラムを作ったのだ。

「めんどくさいんだよ」

「ああ、わかる」

  めんどくさい。これに尽きる。ネタを考えるのが面倒。構想をまとめるのが面倒。文章を書くのが面倒。プロットは…… そもそも面倒だから作ったことがない。小説を書くのは面倒なのだ。小説を書くくらいなら、ゲームとかしていたい。犬の動画とかゲーム実況とか見てた方が面白い。ぶっちゃけてしまうが、俺は別に小説を書くのが好きで小説を書いてるわけじゃない。俺自身の妄想をなんとか形にしたいから小説を書いているのだ。絵が描けていたら絵を描いていたし、ゲームが作れたならゲームを作っていただろう。しかし、やんぬるかな。俺は絵心もないし、プログラミングもさっぱり。 いっとき、曲を作ってみようとしたこともあったが、音楽への素養がまるでないうえに、センスも欠けていた。 楽譜はおたまじゃくしが群れているようにしか見えない。裏拍? よくわからん。

 ただ文章は書けた。この書けるというのは必要最低限ができるという意味でしかない。読書感想文は一番苦手だった。原稿用紙1枚書くためだけに数日を費やしたこともある。 ただ、苦痛ではあるが、なんとか文章を書くとはできる。自分の妄想を拙い言葉でなんとか必死こいてまとめることはできる。時間をかけ、気合を入れて、 PCやスマホと向き合えば、おおよそ小説のようなものを書くことができる。 だから俺は小説を書いているのだ。

「だがよ、書くしかねえだろうよ」

「わかってるよ。でも手を抜けるなら手を抜きてえじゃねえか。 だから、おれはこいつを作ったんだ。自動小説生成プログラム『俺三号』。俺自身の電子的コピーに小説を書かせるんだ。そうすれば待つだけで、勝手に俺が書いたのと同じ小説が上がってくるって寸法よ 」

 俺は頭を抱えた。『俺二号』は俺自身のコピー。俺と同じ考えに至るはずだと、なぜ気が付けなかったのか。

「俺も同じこと考えて、同じことをしたんだよ。そしたら、このザマだ。俺のコピーも俺と同じことを考えてた。お前のコピーもお前と同じこと考えてるだろうよ。」

「あっ、そういうことか……道理で、待てど暮らせど小説が上がってこないわけだ」

「入れ子構造の外注だ。永遠に小説はできあがらない」

 俺は歯を食いしばった。

「……自分自身で書くまではな」


 そして俺は、自動小説生成プログラムを停止し、自分で小説を書き始めた。まったく、めんどうだ。一文字ずつ、一単語ずつ、一文ずつ書く。それを積み上げていく。そうして、俺はこの小説を書いた。めんどうだが、それしかないのだ。

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