逆転のプロローグ

T-Akagi

逆転のプロローグ:序章

 やっぱりダメだ…空からお金が降ってきたらいいのに。


 お金が降って来ないかな、と思ったことがあるかもしれないが、実際に起こる確率はまず無い。

 しかし、100%無いかと言えばそうでもない。

 空を飛ぶ飛行機やヘリコプターからならお金を撒く事が出来る。風船やドローンからでも出来るし、ビルの上からでもお金を降らせる事は出来る。


 そして、今それが現実に起こっている。


 最愛の人の命を守る為にどうしても必要だった大金が、まさか本当に空から降って来る事になろうとは思っていなかった。



  ー・-・-・-・-・-・-



「手を上げろ。」

「違うんだ。俺は何もしていない。」

「じゃあ、どうやってそれを手に入れた。」

「さっきから言ってるじゃないですか。いつの間にか持っていたんです。」

「そんなはずがあるか!お前が盗んだんだろう!本来ある場所には無かったんだ。調べればすぐわかるはずだ。」


 拳銃を突きつけられて、大声を張り上げているのは背広を着た中年のヒゲ男だ。確かに銃口はこちらを向いていて、僕に向けて声を張り上げていた。どうしてこんな状況に陥ったのか。それは些細な言動が引き起こした不可思議現象が原因だった。


「聞いてくださいよ!全然わかってない!」

「うるさい!いいからこっちにそのお金を渡すんだ!」

「ダメなんですよ!これが...これが無いと...。」

 これが無いとあいつを助けられないんだ。どうしてもこれが必要なんだ。この状況をどうやって打破する。考えろ考えるんだ。


ー  バン!  ー


 しかし次の瞬間、乾いた銃声が響き渡った。


 事の発端はたった1時間前。

 しかし、体感で1週間は経っていた。



  ー・-・-・-・-・-・-



 最愛の人が事故に遭い緊急入院したと連絡があった。


 何の前触れもなく車に跳ねられ、10mほど吹き飛ばされたそうだ。跳ねられ叩きつけられた事で、意識不明の重体のまま担ぎ込まれて来たそうだ。まさに生命の危機に直面している状態だ。

 私は親族と名乗る者からの連絡をもらい、すぐに病院を訪れたのだが、緊急オペが行われていて、そのオペはひとまず成功し一時的な危機は脱したとの事だった。しかし、搬送されてから未だ一度も目を覚ましてはくれない。


「起きてくれよ...。」


 医師の知る限り、目を覚ます確率は数パーセントだと聞かされた。植物状態。それを脱するには、とある手術を受ける必要がある。その手術は日本では受けられず、費用も莫大なものだと聞かされた。少なくとも億の大金を用意しなければいけないと告げられた。

 親族と共に話を聞かされたが、全員が意気消沈。既に葬式のような雰囲気が漂ってしまっていた。


「それでは、手術を受ける決心をされる場合は、なるべく早くお願いします。手続きも色々とありますし、この手術が可能な執刀医が世界に一人しかいないので。少しでも早くお願いします。」

 そう伝えると、担当医は丁寧にお辞儀をして去って行った。


 こんな無力感を感じた事があるだろうか。現実的な数字ではなかった。無力感を感じたまま、私は居ても立ってもいられなくなってしまった。


 事故当時の状況を少しでも知りたい。事故を起こした本人に会えれば、もしかしたら、手術に繋げられる大金を賄えるかもしれない。他の可能性を見出す事が出来ないでいた私にとって、それが唯一すがる事が出来る事でもあった。

 そうして、始まった捜査するという選択肢が大きく運命を変える事になったと気づくのが”1時間後の話”だとは、さすがに思わなかった。



  ー・-・-・-・-・-・-



 事故翌日。同じ場所で尋ね回っていた。すると、とある目撃者と会って話を聞く事が出来た。

 目撃者の話では、本当に一瞬の出来事だったという。青信号になった直後で、特別危ない状況でもなかったらしい。しかし、信号無視をしたと思われる車に側面から跳ねられてしまった。その横断歩道近くに数名の人がいたらしいが、どんな人が居たかまで克明には記憶していないらしい。日常的に歩いていて、すれ違う人や居合わせた人の顔や服装を記憶している人は少ないだろうから、当然と言えば当然だった。


 しかし、その目撃者が唯一記憶にある証言に一人の人物が浮かび上がってきた。

 事故に遭った時、一緒に歩いていた人物が居たという。目撃者によると、後ろ姿しか見なかったが”黒か濃紺のスーツを着た黒髪短髪の男性らしき人物”だったという。ちょうど私くらいの背格好だったそうだが、身長173㎝で体重70キロ、特別痩せてもいないし太ってもいない私のような体型の男性は、国内だけでも数百万人単位で存在するだろう。体型体格だけで、探すのは情報が足りない。

 そして、事故に遭った時に居たはずのその人物は、事故の混乱の最中、居なくなってしまったそうだ。


 その人物とはいった誰なのか。


 刑事でも警官でもないのに、真実を突き止めたい一心で動き始めた。



ー つづく ー


著:T-Akagi

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