月見堂の女狐様とボクはイケナイ関係♡

東雲 葵

1.こんにちは、ボクは――。

拝啓

 さわやかな秋晴れが続くこの頃、お父様、お母様にはお元気にお過ごしのことと存じます。

 さて、今年からボクも、○○県立 氷山こおりやま高校の1年生として勉学に励んでおります。

 昨年は、入試勉強で時間を取られてしまい、お父様、お母様にご挨拶しに行くことが出来ず、申し訳ありませんでした。

 猛勉強の甲斐かいもあり、県立高校の中でも進学校として名高い氷山高校に合格することが出来ました。

 電話では、合格発表のあとすぐに興奮したままで、上手くお伝えできませんでしたが、今こうして高校に通えること感謝しております。


 ただ、受験勉強が終わってからは、上手く息抜きもしておりますので、ご心配なさらないでください。

 中学時代同様に、○○県は内陸県ということもあり、たくさんの山に恵まれています。また、あちこちにある神社に向かってはその歴史を学んでおります。

 最近は、自宅から東に4キロほど行ったところにある八伏山はちぶせやまの頂上にある神社が気になっており、管理者団体などのご迷惑にならないよう調べてみたいとすでに計画を立てています。

 また、夏にでもお父様、お母様にお会いしに行きたいと考えておりますが、これもまた高校生活次第なところがあり、どうなるか分かっておりません。


 お伺いできなかったお詫びと、日頃の感謝を込めて氷山高校の近くにある老舗の和菓子屋で売っておりました「茶菓子」をお贈りいたします。

お茶の時間にでもお使いいただけますと嬉しいです。

 それでは、季節の変わり目ですので、くれぐれもお体にはお気をつけてお過ごしください。                           敬具


 令和◯◯年4月◯◯日

          |                   御手洗雄一みたらいゆういち 


御手洗太郎様

   和子様


 ――――――――――――――――――――――――――――


「これで、よし」


 ボクは手書きで書いた便箋を3つ折りにして、封筒に入れて封を閉じる。

 そして、今朝買ってきた日持ちのするお茶菓子と一緒に段ボール箱に入れて、クラフトテープで閉じた。

 そのまま、ボクは愛用のシマノの21段変速付きのロードバイクにまたがり、コンビニエンスストアに向かった。

今出せば、夕方の集荷には十分に間に合う時間だ。

自宅(4階建て1LDKマンションの103号室、駅から徒歩15分)から自転車で3分のところにある。

立地としては、自転車さえあれば不便のない場所だ。



 ボクの家庭環境はちょっとばかり複雑だ。

 手紙では「お父様、お母様」と書いていたが、これは実の父母ではなく、義理の父母になる。厳密にいうと、実の父親の弟さんが雄一を引き取った形になっている。実の父母は、雄一が生まれてすぐに交通事故で亡くなったとボクは聞いている。

 まだ物心もついていないような子どもの頃だったことから、義理の父母は、自分たちのことをお父様、お母様と呼ばせるようになった。ボクもそれに対して、何の違和感もなくこれまで過ごしてきた。中学進学したころから、義理の父母に迷惑を掛けたくないということから、実の父母が残した遺産を崩しつつ一人暮らしを始めた。

 最初は義理の母が心配になって何度も訪れていたが、その生活から一人でもやっていけると判断してもらえ、今に至っている。ただ、義理の父母もさすがにそれでは子どもに悪いということで、中学校や高校で必要な費用は負担してくれている。



 コンビニエンスストアに到着すると、早速、レジに向かい宅配便の伝票を書く。

 何度も同じように送っているので、慣れたものだ。


「お願いします」

「はい。では、商品と伝票をお預かりいたします。明日のお届けになりますが、ご指定の時間帯などございませんか?」

「はい。指定はありません」

「かしこまりました。では、840円になります」


 コンビニエンスストアに店員は、慣れた手つきでレジの画面に従って、住所やら電話番号など必要事項を入力していき、ボクは提示された金額を電子マネーで支払った。

 ペットボトルの飲み物をついでに購入し、店を出るとペットボトルの飲み物で一服し、遠くに見える山をじっと眺めた。その山は、八伏山はちぶせやま―――。

 明日からは待ちに待ったゴールデンウィークだ。

 ボクの高校は公立高校でありながら、ゴールデンウィークは4月29日~5月5日までを休暇期間としている。その一週間を利用して、あの八伏山の稲荷大社に伺うことにしている。

 これまでもたくさんの山に登ってきた。

 氷山高校を選んだのも、『山岳部』があるからだ。

 そして、大抵、山の頂上には神社があり、祀られていることが多い。

 ボクはそういう場所が好きだ。今どきな言葉でいうとパワースポットと呼べる場所―――。

 特にボクは神社が好きだ。


「明日から、また楽しみだな…」


 ボクは再び愛機のロードバイクにまたがり、自宅のマンションへの帰途きとについた。

 

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