穀粒日記

ぽちくら@就活中

6月12日 前書

 生ゴミの臭いが祖母の匂いだった。


 どうやら、生ゴミ特有の妙な甘い臭いはバクテリアによる分解か何からしい。腐敗臭以外の何者でもないのだが、不快と言うより、祖母の香りめいて、どこか不吉だった。


 大好きだった祖母は8年前に亡くなっているが、あのよく取り巻いた妙な甘い臭いは、死臭だったらしい。線香のたき昇った煙も、木造のくすんだ青っぽさ。それらが合って好きだったが、常に祖母は死と隣り合わせだったのだろう。



 生ゴミは後日すぐに捨てた。

 何も臭わない部屋には、誰もいなくなっていた。

 話から離れるが、社会人に入ってから希死念慮が強くなっていた。日課に体調管理に半裸の写真を撮り、皮と骨だけが見えて、申し訳程度の脂肪が乗っかっている。それらが呼吸で、ほんの少し動く時に、それは生きているかと言えるのか、そんな感じだ。


 とはいえ、自傷行為も気乗りではない。多少木の瘤の様な肌から、かけ離れた色を裂いて出せば気が紛れるが、色水だ。

 それは生きている実感なのではなく、食物を取り込んだ集大であって、私が生きている証拠では無いのかもしれない。

 そう思うと、血を出すのも馬鹿らしい。

 かと言って自分が自分として名指しされて詰られるこの状況はなんだろうと、そういった具合だった。



 遺書を残せるほど、私は真面目でもない。

 もう面倒くさくなってしまったと、通勤の帰りに必ず自宅近くの海に立ち寄った。

 それでもいいかも知れないと思ったが、道端に生えた雑草を見かけた。食える雑草と思い出して、毟って家に帰って天ぷらにして食べた。


 美味しかったので、とりあえず今は生きてる。海に飛び込んでやろうかな、みたいな気分は失せていた。


 相変わらず自分には自主がない。

 衝動的で、目的もなく生きてここまで来てしまって、右往左往している。

 ただ、とりあえず今は「出来るだけ分かりやすく書こう」で書いているから、少しは自主というものはあるのだろう。

 それだけは、どうにか失わずに生きていきたい。


 読んだらおおよそ察せられるだろうけど、私は自己肯定が極めて低い。

 自が己であるのに受け入れることも出来ないので、衝動的に他人のように自分をどうにかしたくなる。昔からこれなので、これから先もずっとこうなのだろう。

 死に場所を選べるほど自分は自由だが、生き場所を選べるほど楽じゃない。そんな状況なので、せめて文として残す方がコスパが良い。


 とりあえず毎日は、実感を残したくて徒然にするだけ。

 芳香剤で満たされたこの部屋に、少しでも自分がいた痕跡を残す。それを書くだけ。

 今のところは、たぶん、そんな感じだろう。これ書いたらご飯食べてくる。

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