俺は英雄の生まれ代わりらしいけど、そのせいで異世界から殺しに来る奴が多すぎる

仲仁へび(旧:離久)

第1話



 俺には幼馴染がいる。

 そいつはちょっと電波というか、夢見がちなところがあった。


 だって、ことあるごとに俺の事を「英雄」だと言ってくるんだ。


 ちょっと探し物手伝っただけで「やっぱり英雄だね」とか、

 ちょっと人助けしただけで「さすが英雄」とか、

 ちょっと落とし物を交番に届けただけで「英雄はやる事が違う」とか言ってくるのだ。


 しまいには、この世界に生まれる前の俺は、異世界では強大な力を持った英雄だった、とまで言い出す始末。


 一度病院で診てもらったほうがいいかもしれない。


 可愛くて優しいんだけど、こういう点だけが大変なんだよな。


 けれど俺は、とうとつにその言葉が事実だったのを知る事になる。




 ある日、それは起こった。


 学校の帰り道、幼馴染のと一緒に歩いていると、なんと剣を持った不審者に襲われたのだ。


「まさか別の世界に生まれ変わっていたとはな、だがやっと見つけたぜ! ここであったが百年目! 死ねやぁ!」

「うわぁぁぁぁ」


 その時はなんとか逃げたさ。

 幼馴染が機転を利かせて「あっ、あんなところに変なのが浮いてる!」とか言ってくれたから。

 相手が目を離した隙に、すたこらさっさとな。

 馬鹿で良かった。


 でも、それからも変な奴がくるんだ。


(自称)魔人が「よくもあの時はこけにしてくれたな」って言って襲ってきたり、


(自称)邪神が「よくもあの時に封印してくれたな」って言って襲ってきたり、


(自称)悪魔が「よくもあの大事な時に天使を復活させてくれたな」と言って襲ってきたりだ。


 そのたびに幼馴染に「こんな事もあろうかと護符を作ってたんだ」「こんなときのためにシェルターを作っておいたんだ」「こんな時のために(略」」と助けられたので事なきを得たが。


 危険にさらされ続けた俺は、直視せざるを得なかった。


「俺は一体なんなんだ」という問題に。


「誰か教えてくれよ!」


 すると、幼馴染は言った。


「だから、英雄だからなんだよ」


 俺は異世界で死んだ英雄の生まれ変わりなのだ、と。


 争いの満ちたその世界で俺はたくさんの仲間達と共に戦ったらしい。


 そこには幼馴染の前世の姿もあったとか。


 けれど俺は最後の戦いの最中に力尽きてしまった。


 その時、俺の魂が敵に吸収されないようにと、仲間の一人がとある究極魔法を使ったのだとか。


 それで俺は、この世界に転生する事になったのだ。


 けれどその時混乱していたから「俺は、前世なんて知らねぇ。関係ねぇだろ。元の日常を返してくれよ!」そう言ってしまったのだ。


 すると幼馴染は「そうだね。ごめんね」と謝って、その日から姿を消してしまった。


 それきり、異世界から変な奴が殺しに来ることはなくなった。


 俺はそれで、最初は喜んでいたんだけれど、だんだん不安になってきた。


 俺の目の前から消えた幼馴染は一体どうしているんだろう、と。


 俺は幼馴染の家を訪ねる事にした。


 近所にあるから、思い立った時にすぐに行く事ができる。


 だからこそ彼女とは、幼馴染になったのだが。


 けれど、その家はもぬけのからになっていた。


 他の友達に行方を聞いても、「誰そいつ」としか返答が帰ってこない。


 まるで、元からいなかったみたいだ。


 俺はだんだん、最近の出来事は夢だったんじゃないかと思い始めていた。


 けれど、夢じゃなかったんだ。


「うけけけけ! やっぱり英雄の転生者は生きてるじゃねーか。あの女魔術師め! くだらない偽装工作なんぞしやがって」


 俺の前に(自称)死神がやってきた。


 異世界からきた久しぶりの危険人物だ。


 俺は、恐怖と戦いながら幼馴染の名前を出して、行方を尋ねた。


 そしたらそいつは、「はぁん? 人間の名前になんか興味ねぇよ。でも確か他の人間からそう呼ばれてる女がいたな」と言った。


「あいつは、今どうしてる!」

「殺したに決まってんだろぉ! おいおい何で俺がここにいるのか分からないのかい!?」

「そんな!」

「思い出すと笑えて来るぜ。俺を異世界に行かせまいと必死にすがりついてくるあの女の顔ときたら!」


 俺は怒りの衝動のままそいつに殴りかかった。


「てめぇ! 絶対に許さねぇ!」


 普通なら、ただの人間の攻撃がそんなおっかない化け物に効くわけがない。


 しかし、俺が振り上げた拳は光に包まれていた。


 だからなのか、化け物は驚いて大げさに避けた。


「ちっ、やっぱり生まれ変わっても英雄の力は健在か! せっかく一方的に借りを返せるチャンスだと思ったのによ!」

「返せよ! あいつはちょっと電波で変なとこもあるけど、俺の幼なじみなんだぞ! あいつを返してくれよ!」


 それからは見るに堪えない戦いだった。

 いや、戦いですらなかった。


 こちらの攻撃は全く当たらないのだから。


 救いは相手の攻撃が無効化される事だろうか。


(自称)死神が魔法をこっちに使っても、何かの力によって打ち消されてしまうらしい。


「くそ、あの女魔法師の加護か、つくづく勘に触る女だぜ」


 死神のよると、聖なる力が俺の体を覆っている状態らしい。


 それはおそらく幼馴染の力なのだろう。

 俺はあいつにひどい事を言ったのに、まだ俺を助けてくれてるんだ。


 あいつの力がなければ俺は自分すら守れない。


 俺は守られてばっかりな自分がなさけなくなった。


「こんな時に幼馴染一人守れないで、化け物一匹倒せないで、何が英雄だよ!」


 戦う力を求めて嘆く俺に反応したのか、その時あたまの奥から声が響いた。


「我、英雄と契約せし者なり」

「私、英雄と契約した精霊」

「なっ、なんだ今の声!」

「泣くな英雄よ」

「私達は味方よ。私達はずっと、英雄さんが私達を求めてくれるのを待っていたの」


 英雄の魂は多くの敵を作った。


 けれど、それと同じくらい多くの味方を作っていたのだ。


 俺はその声に導かれるまま、体の中にある力を解放した。


 その場に出現したのは光り輝く剣。


「なっ、なに! 覚醒しただと! こんな短期間で、力の使い方を思い出すなんて、そんな馬鹿な!」


 俺は「幼馴染の分まで苦しめ!」その敵に向かって剣を振るった。


 すると、時空に穴があいて、どこかの彼方に死神が吹き飛ばされていく。


「おっ、おのれぇぇぇぇ!」


 死神はすぐに見えなくなって、時空の穴はふさがった。


 久しぶりに力を使ったせいなのか、魂がひどく疲れていた。


 俺はその場に膝をつく。


 けれど、そうはしてられない。


 俺は握りしめている剣に視線を落とした。


 この剣は空間を切り裂き、時空を繋げる事ができる。


 だからうまくすれば、世界すらも超えられるかもしれない。


 俺は自分の疲労を無視してその剣をふるった。


 すべては、英雄としてあいつを助けるために!


「うぉぉぉぉ!」


 目の前の空間に開いた穴に吸い込まれる。


 空気の渦に弄ばれた俺は、衝撃で気を失ってしまった。








 目が覚めると、そこは戦場の一画だった。


 普通の人間ではない見た目の者達がたくさんいる。


 周囲には簡易テントが作られていて、その近くに俺が寝かされていたらしい。


「まさか魔王軍が再び活動を再開させるだなんて!」

「せっかく数十年前に勇者様が壊滅させてくれたというのに!」

「邪神や悪魔は、一体どこに行ったというのだ。調査はまだ進んでいないのか!?」


 俺は、無理やり体を起こして辺りを見回す。


 すると、体中を包帯でまかれた少女がそこにいた。


 俺は、疲労が残る体を引きずりながらその少女の元へ向かう。


 間違いない、いつも顔を合わせていた幼馴染だ。


 顔色は悪くて、今にも呼吸が止まってしまいそうだった。


 俺は祈るような気持ちで、内なる存在に問いかけた。


 彼女を助けたい。


 そういった俺に、彼等が応えた方法は……。


 おとぎ話みたいな方法だった。


 からかってるんじゃないんだろうか。


 そう思ったけれど時間がもったいなかった。


 俺は、目の前で横たわっている幼馴染に口づけをして、自らの生命力を分け与えた。


 すると、すぐに幼馴染の顔色がよくなった。


 呼吸も安定しはじめている。


「ああ、良かった」


 安堵の声を漏らした俺がしばらくその場につっ立っていると、か細い声が聞こえていた。


「……り……ね」


 彼女はゆっくりと瞼を開いて、嬉しそうな笑顔を見せる。


「やっぱり私の英雄だったね」


 その笑顔はこれまでに見たどの笑顔よりもまぶしくて、とても大切な物のように見えた。


「当たり前だろ。英雄なんだからお前がどこで危ない目に遭っていたって、必ず駆け付けるに決まってるじゃないか」


 もう彼女を気付付ける事はしない。

 疑う事もしない。


 俺はその場で、一人の英雄として、彼女を助けようとそう誓った。



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