9話 魔王城


「アルバ、おかえり!

そして魔王様と伝説のドラゴン様、"魔王城"へようこそいらっしゃいました!!」


扉が自動で開いたかと思うと、パンパカパーン!!と勢いよく鳴り響くファンファーレとクラッカー。



「うぉぉぉお!?」


「クルル……!?」



あまりに急な出来事だったので、俺とシグはびっくりして後ろに転けそうになった。



はぁ……またケロベロスみたいなのが出たのかと思って焦った〜……


俺はほっと胸を撫で下ろす。


って、ここが、"魔王城"……???



にこやかな笑顔を浮かべるアルバートさんに連れられて、俺たちが入った建物はとても巨大なお城だった。



恐ろしい魔界の城……

そのオーラは、見た人を震え上がらせる雰囲気があった。



が、そんな見た目とは真逆で、お城の中身はとても騒がしいようだ。




「生まれたての魔王様や!!今夜はどんちゃん騒ぎの宴やでぇ!」


「わァァ、ドラゴン美味しそウ」

「おい、ナナシ……ドラゴンは食いもんじゃねぇぞ」


「グ……!?」


その会話を聞いたシグが目をまん丸にしていて、不覚にも少し笑ってしまった。



魔王城に入ると、動物のような耳やしっぽが生えた人……?がたくさんお出迎えしてくれて、俺は感動している。



魔王城の中はレッドカーペットが敷かれ、落ち着いたデザインのシャンデリアが優しい灯りを届けてくれる。




すごく綺麗で、あたたかい。




でも……



「魔王様!魔王様!」と言いながら、たくさんの人が俺に視線を向けている…………



___覚えているだろうか。

俺は目立つのが大の苦手だということを……


なんで俺が魔王なんだ〜!!レベル20にはなったけど、まだまだヒヨっ子なのに……

こんな歓迎されても、恩返しも何も出来ねぇよ〜……


俺はひっそりシグの側に隠れる。



そんな俺を見たアルバートさんは、クスっと笑うとこう切り出した。



「皆、ただいま!

___さて、魔王のレイ様とドラゴンのシグ様に改めて1人ずつ自己紹介を。

私はこの辺りの領地を治めております、アルバートと申します。気軽にアルバとお呼びください。」




仮面を取って深くお辞儀をするアルバートさん。銀髪と水色の目が鋭く輝いて見える。



アルバートさんは領地を治めていた偉大な方だったのか……!?


そんな方に"様"をつけて呼ばれるの、ものすごく恐縮なのでぜひともやめていただきたい……



俺が尊敬の眼差しでアルバートさんを見ていると、2本の鬼の角が特徴的、茶髪、琥珀色のタレ目に浴衣を羽織った男の人がこっそり耳打ちしてきた。



「アルバはここらへんでは"四天王"の1人って言われてるねん!怒らせると怖いから気ぃつけてなぁ」


ヘラヘラと笑うその人の話し方は、関西弁そのものだった。



この人、大阪人……??



いや、直接聞くのはまだはやい気がする……

俺は質問したいという気持ちをグッと抑えた。



「アルバさんのこと、怒らせないように気をつけます!!」



俺はコクリと頷く。

すると、それを見た彼は愉快そうに笑い始める。



「はは、ワイ魔王様のことめっちゃ気に入ったわ〜!素直でええ子やんか!」


「余計なこと教えないでくださいよカグラ」


腕を組みながらムスッとした表情を浮かべるアルバートさん。


「レイ様とシグ様に怖いイメージ持たれちゃうじゃないですか」


「え〜?ごめんやん、人間界からアップルパイ買ってきたるから許し「許します」


「ぶはっ、許すんかーい」


めちゃくちゃ食い気味に返事をするアルバさんと、それを聞いて笑い転げる浴衣の人。


アルバさんはアップルパイ、好きなのかな……?意外……覚えておこう。



俺が脳内でメモを取っていると、浴衣の人がこう言った。


「ま、ワイも実は"四天王"のうちの1人やらせてもろてます〜、名前はカグラ!アルバよりも怖くない優しいお兄さんやでぇ「おい!私も怖くなどない!」


「あはは、それはどうやろな〜?

ワイのこと覚えて帰ってな!よろしゅう!」


「カグラさん!よろしくお願いします!」

「ググ!」


「……ったく…カグラ、後で覚えててくださいね」


俺たちはペコペコとお辞儀をする。

四天王の1人ってことは、きっとこの人もめちゃくちゃ強いんだろうな〜……


しかも、アルバさんをも弄れる性格の持ち主……天真爛漫、悠々自適って感じだ……



なんて思っていると、人の波を押しのけてやってきた女の人がいた。



「カグラばっかり魔王様とお話してずるいです!私も私も!」



その人はピンクの髪が腰あたりまであって、ピンクと黒を基調にしたドレスに身を包んでいる。目は紫だ。



「私はラルムといいます!アルバの秘書をやらせてもらってます!!良かったら仲良くしてください!」


「はい!俺、レイといいます!」


ラルムさん、すごく可愛い。癒し系って感じがする。


魔界って美男美女ばかりなんだな……



なんて思い、ぽーっとしていると、さっきまで側にあったシグの姿が無くなっていることに気がついた。




「あれ?シグ??」




呼んでみるが、返事がない。




「おい、シグー?!どこいったんだ!?」

俺の額に冷や汗が流れる。目を離した隙に消えた!?目を離したって言っても、30秒くらいだったよな……!?



「あれ?シグ様、さっきまでここにおったのになぁ……」

キョロキョロとあたりを見回すカグラさん。



「もしかしテ、食べられタ?」


「いや、もしシグ様が食べられたとしたら犯人はお前しかいねぇよ」



「あ〜……


"魔王城の神隠し"じゃないですか?」



ラルムさんは少し考え込んだあと、とんでもない発言をする。


魔王城の、神隠し……??


「あぁ、かもしれませんね。ごく稀に魔王城では、誰かが行方不明になるんですよ」


「え!?」


アルバさんがそれがなにか?といいたげな顔をしてそう言った。





いや、それ、ものすごく重大な問題では________!?

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