8話 飼い主さん登場

「ぐは……っ」

俺は腹部あたりにケロベロスの攻撃をくらい、地面に叩きつけられる。


めちゃくちゃ痛い!!!!



 俺のHPは20/102まで減ってしまった。

ケロベロスは一撃が重い!!一瞬でも気を抜いたら噛みつかれ、四肢がもげて終わりだ。


「……くっ……キュア」


でも、回復魔法で味方をこまめに回復していけばまだ勝機はある!

手に力を込めて傷口にかざすと、周囲の空気に光が形成されていく。

どうやら、キュアは初級の回復魔法らしい。


 傷口に魔法をかけてしばらくすると、腹部の出血が止まった。



『HPが75回復しました。

 HP→92/102』



 HPは回復しても、MPには限りがある。MPが切れたら……俺たちはおそらくゲームオーバーだ。残りMPは半分ほど。大切に使わないと。



 さて、戦況を整理してみよう。

シグはすばやさがかなり高い。見たところ、俺と比にならない速さで動くことが出来るようだった。


 俺はシグがケロベロスを足止めしてくれている間に、しっかりと状況を分析していた。

前世はクラス内で空気だったけど、観察眼だけは自信がある。


 わかったことは2つ。


1つ目、シグは近接戦闘派。俺は武器を持っていないため魔法をぶっ放つ以外のことが出来ないようだから、シグは前方で近接戦、俺は後方で支援するのが1番良い戦闘形態だということ。



 そして、このケロベロスは、目が弱点だということ。



なぜそう思ったか?それは、攻撃が目に当たった時の反応が過剰だったからだ。

きっと、真ん中の犬の目にあるあの古い傷が関係しているに違いない。



そう考えている間に、シグは牙に闇の魔法を纏わせ、ケロベロスの足に噛み付いた。


バランスを崩し、倒れ込むケロベロス。


「グゥゥ〜!」



シグは、今だと言わんばかりに俺にアイコンタクトをしてくる。

俺は一瞬で両手に魔力を送り込んだ。魔法陣が2つ形成され、中央から眩しい光の束がくりだされる。

ケロベロスの弱点である目のあたりをねらって!!


「シャインインパクト!!!」



破裂音とともに土煙が舞う。

俺はどうやら魔法が得意みたいだ。


高い火力で後方支援が可能な反面、術式、魔法陣の展開に時間がかかる。

その時間を埋めてくれるのが、すばやさに特化したシグだ。



もしかして、最高のコンビでは?



「シグ、こっちだ!キュア」


「クルルル」


回復魔法っていいな!


シグのHPが全回復した。

一方、ケロベロスの残りHPは35だ。


これは倒せるんじゃないか……?

畳み掛けよう!そう思い、俺が魔法を使おうとしたときだった。



「ヴァァアアアァア"!!」



ケロベロスがものすごい咆哮をあげた。思わず俺は両手で耳を塞ぐ。


ねぇ音量おかしいよ……!近所迷惑で訴えられても知らないぞ??あ〜鼓膜破れる〜……




俺はあまりの五月蝿さに頭を抱えた。




……先程のケロベロスの咆哮により地面がグラグラと揺れている。




なんだ、この感じは……?




地面から、何かが……




これは……





「やばい、土魔法だ!!シグ、逃げろ!!」



俺は咄嗟にシグを突き飛ばした。

確証は無かったが、俺たちに向かって地面から何かが来る気がしたからだ。

案の定、すごい勢いで迫り来る尖った岩の槍が俺の腕と足に突き刺さる。




「ッ……」


『HP7/102に減少しました。』



「グルルルル……!」



シグが目を見開いているのが見える。

くそっ、視界が……


二重になってぼやける視界。


ケロベロスの足音がなるたびに地面が揺れる。あぁ、アイツはこっちにやってきているようだ。



もう俺は動く体力がない。


ここまでか……くそっ…食われる…………

1日で俺、一体何回死ぬんだよ……



そっと目を瞑ったとき、




「おや、これはやりすぎです……愛情表現はほどほどにと言ったでしょう?私の犬が大変失礼いたしました。ほら、ケロちゃん、ステイ。」



 優しくて柔らかな声色が響くと、ケロベロスの動きが止まった。



「クゥン」



クゥン…?今の、ケロベロスの声か……??

やっぱりお前、ペットだったんだな……


俺はぼんやりする視界の中で必死に男の声がする方を見る。



「ふふ、後に世界を破滅に導く"魔王"と"伝説のドラゴン"……いえ…我が主、お目覚めになりましたか。私はアルバートと申します。あなたたちを心から歓迎いたします」



と、挨拶をしてきたのはマッシュの銀髪を靡かせ、仮面を被った長身の男だった。

正装をしていて、白い光沢を放つローブを纏っている。



『スキル《分析》失敗しました。』



……この人だけは敵に回すなと直感が言っている。彼のオーラはケロベロスと比べ物にならないくらい強い。そもそもの魔力量がきっと桁違いだ。



「魔王様たちには挨拶をするだけと言ったのに……まったく、ケロちゃんには躾をしなおす必要がありそうだ。

ひどい怪我…今すぐ回復しますね。エリア回復魔法、ゼキュアラル」


男の人が指をパチンと鳴らすと、足元に大きな魔法陣が描かれた。


体力がみるみる回復していく。


た、助かった…………



俺が死にかけたのもこの人のせいだったみたいだけど、とりあえずシグが無事で良かった〜〜〜……


俺はシグに駆け寄ると、そっと抱きしめた。そして男の人の方に身体を向け、深くお辞儀する。


「回復してくれてありがとう。俺はレイという通りすがりの雑魚です。こっちは、俺の友達のシグ」

「グググ」

「雑魚だなんて何をおっしゃいます。レベル20でそのオーラ、魔力量、尋常ではありません……こんな所で立ち話もなんですし、私の家に来ませんか?」




 そう言ってにっこりと微笑むアルバートさんに、俺たちが逆らえる訳もなく。シグはアルバートさんを見て少し震えている。


コイツ、もしかして怖がり屋なのかもしれない。そっと額を撫で、大丈夫だよと声をかける。





 ____とりあえず、俺たちはアルバートさんのお家にお邪魔することになりました。



……何も起こらないといいな……

そんな俺の無垢な願いは、果たして叶うのでしょうか……


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