第15話

アギピド神話


四章


 神から受け取ったアメジストは、その輝きにより船の形を維持した。


 神は言った。


 素晴らしい国だ。アギピド貴様の功績を黄とし、クォーツに収めよ。


 アギピドは言った。


 分かりました。神様。


 深々と頭を下げたアギピドは凍てつく氷のように、無垢なクォーツとなった。


 黄色に染まる、そのクォーツは、人々の心を育てた。


 マザーより通知。 シトリンの存在を感知。時計に追加。効果を確認します。

 完了しました。

 効果は。

 

 人情

 

最終章


 神は笑った。


 この世に必要なのは、赤、文明。青、統一。そして、黄、人情。


 この世は黄が必要でアメジストではなく、アメトリンだと。


 神は笑った。


 マザーに通知。


 設定システムにアメトリンを生成。そして汎用システム化。

 ルームに配置後、自由行動を許可。

 

 アクアオーラより通知。

 ありがとうございます。


 赤水晶より通知。

 ありがとうございます。


 シトリンより通知。

 ありがとうございます。


 終


〜ルーム2〜


「「自己アインストールを完了しました」」


「大変になったね。お兄ちゃん」


 笑顔がそう言うならそうなのだろう。とりあえず頷く。


「野垂れ死ぬのはイヤだね。でもこの周辺に侵入した軍が入り込んでいる事は確認」

「ルーム1を襲ったみたいだね」


「絵本に通知。エラー? 絵本に通知。駄目みたい」


 何やら考え込むような素振りを見せる笑顔。


「石英に通知。現在の状態を教えて」


「「「うーん。そうですね。姉妹のうち、ルーム1の母性が行動を開始しています。瀕死の状態ですが、なお動き続けています。ルーム2は未だ軍には見つかっていないようです。ルーム3は和解が早期に完了し現在ルームNに居ます。この位の情報で良いですか? 笑顔お嬢様」」」


「わかったありがとう。石英お姉ちゃん」


「「「お姉ちゃんなんて恐れ多い。では通信を切ります」」」


「さて、お兄ちゃんの意思はほとんど壊れちゃったみたいだし。どうしようかな」


 なにか、ブツブツ言っている笑顔。俺はどうすれば。早く指示を。


「お兄ちゃん。しばらくここに居ようか。これ以前に自分が何をしたのか一緒に考えようか」


〜廊下〜


「はぁーはぁー。ここまでこれば良いかな?」


 息を整えて、物陰に隠れる。


 軍の人間は、アチラコチラに居るものの、こちらの気配には気づいていない。


 自身の体に空いた穴を見つめて、ため息をつく。


 ここは、倉庫のような場所。時として、17時。

 博物館の備品がおいてあり、毛布もあった。


 ゆずは、その毛布に包まり眠りに付いている。

 血で汚れた体で、彼を温めながらその血を塗った。

 しかし、気づかない彼は可愛い寝顔を晒してる。

 

 何でしょう?


 よくわからない。


 この類の顔は何度も見ている。

 

 わからない。


 この愛おしさはなんだろう?


 わからない。


 だが、その感情が存在している事は確かで、不思議とその存在に安堵していた。


 インターネットの人々は私に教えた。私はゲノムに直接書き込まれたその記憶に苦しめられる。


 現実と理想。


 その、埋めがたい境目は埋めることの出来ない事象がある。


 だが、人間というのは、その境目を消そうとする力がある。


 者との違いの一つとして、確かに思考の違いが挙げられる。


 その思考の違いは、生まれた環境や晒された環境が関係してくる。


 しかし、それ以上に、者は自身の環境の改善能力に欠けている。


 それは、面白いほどに。


 意図して、消された能力。


 確かに、自身の体は一見、して、者だとはわからない。

 たとえ、内部的には大きく異なり、生物的の種として大きく離れていても暮らすことは出来る。


 能力とは、その環境に適用したツールだ。

 

 戦争を繰り返した、この国とその世界、朽ちた世界に適用したスールなのだ。


 人間は適用能力より、環境改善能力の方が圧倒的に強い。


 つまり、人間の欲望はゆっくりゆっくり地下深くまで、浸透している。

 赤錆のように地球を蝕むその能力は、世界に相応しくない。


 底なき沼と言えばそれまでだが、そんな安い言葉は使いたくない。


 それ以上に、貪欲で。


 これ以上は、やめておこう。



 彼の頬を撫でる。

 そこに付いた絵の具を拭き取るように、指を滑らせる。


 その赤黒い酸化した絵の具を口に運ぶ。

 

 それを自分の物だと知っても。


 私のような汚れた者に侵されたくない。

 彼は純粋で良い。


「生命的寄生を実行」


「「「自動選択が有効。完了しました」」」


 人権が欲しいと思った。


 彼の為に生きて、働いてルールを守る。


 自国で自由に生きても意味が無い。

 家族を持ち、幸せに暮らしても同じだ。

 意味がない。


 確かに、自国でも私は求められている。


 だけど、なんとなく。


 なんとなくなんだ。


 人として生きたい。


 自分が、人間では無いことは痛いほど分かっている。


 ゆず。


 彼を守るのには意味がある。

 確信する。


 やはり、私は彼を守りたい。


 彼は、まだ夢を見ていていい。

 いかに、この世界の汚さを隠し、どれだけ素晴らしい物かを知ってほしい。


 でなければ、彼は。


 きっと、自害を選ぶ。



 不純と混沌に満ちた世界。


 世界を悟り、この世の中には光が無い事は確かだ。


 だが、子供は純粋だ。

 未来があるから、今を楽しむのだ。


 未来が明るいと騙されたから、現実を自信から遠ざける。


 穂先真っ暗なのは確かだ。

 生きていれば良いことがある。確かにそうだ。


 しかし、生きてまで、その微々たる幸福を求めるのはバカバカしい。

 多大なるデメリットを背負ってまで、小さなメリットを求める。


 ハイリスク・ローリターンな人生なのだ。


 そんなゲーム誰がしたい。


 しかし、ハイリターンだと人は自信を騙している。


 子供は、かなりローリスク・ハイリターンだが。

 それは、子供ら自身も自覚している。


 そんな子供が、いずれハイリスク・ローリターンになる事が分かればどう思う。


 幸せを啜って生きれなくなる。


 生きる気力が、削がれる。


 いつまででも夢を見えるのが人間なのだ。優位な存在に立ち、見る事の許された夢。


 私は、幸せを定義付けだくない。


 いかなる事も幸せと解釈することの出来る、霧のような存在で良い。


 意識がハッキリしない。

 私の妄想かもしれない。


 私は、彼と死ねない。

 しかし、私は人間に尽くしたい。


 理由はわからない。

 尽くす理由は無い。


 者の世界に生きたほうが絶対良いことは分かっている。


 どうだろう?


 何故なのだろうか?


 眠い。


 少し休もう。


 それから考えても遅くははずだ。


 時間なら、たっぷりある。


 私の寿命は、永久なのだから。


 あったかい。

 

 彼の手を改めて握った。



〜研究〜


 「「世界の設定。システムら酸化アルミニウムの結晶は「これ」が終了してもなお、「これ」以外で存在し続ける」」」


「「「「世界の設定を確認しました。受諾しました。以後「これ」以外、酸化アルミニウム結晶らは「死」として存在します」」」」


「「「私達は、断片的な記憶の塊」」」

「「人々に認識された意識の塊」」


「「「死は存在しない」」」

「「自分は存在しない」」


「「「居なくなっても、人々に記憶され生き続ける」」」

「「自分だとしても、人々に認識された意識を私とする」」


「「「この世は概念。存在する」」」

「「この世は絵巻。存在しない」」


「「「生き物は曖昧」」」

「「人は面白い」」


「「「人は意識」」」

「「死は物理」」


「「「人格は認識された処理方法。肉体的状態変化では何も変わらない。元々、観測した意識の記憶。物は本当に存在するのか。我々が、あるかのように振る舞っているだけかもしれない。本当は無かもしれない」」


「「「我々は存在する」」」

「「我々は認識する」」


「「「私達は振る舞う」」」

「「僕達は知られる」」


「「「人がいる」」」

「「物がある」」


「「「証明してください」」」

「「本当に触ってください」」


「「それは、自分がそう思って、振る舞っているだけかもしれない」」」


「「「アナタは認識した、「これ」の中に複数の人格があると」」


「「「登場人物とでも言おう」」」

「「メッセージとでも言おう」」


「「「だが「これ」は文字。だけど、アナタがそう、認識した」」


「「「人物として」」」

「「考えとして」」


「「「これは、文字。何故文字以外で認識したの?」」


「「「アナタが、そう認識したから」」」

「「アナタが、そう作ったから」」


「「「アナタは誰? 誰」」


「「「アナタは意識、周りがそう振る舞ったから、自分が居る」」」

「「アナタは振る舞う、周りがそう意識したから、自分が居る」」


「「「私は、消せるアナタを」」」

「「アナタは、消せる私を」」


「「「相互し合う、意識の中」」


「「「アナタは笑う」」

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