第2話

「「なにかありましたか」」

「なんでもない」


 轟音はエコーのように過ぎ去って行った。


 そこに倒れているのは、青年というべき男だった。

 絶命はしない。


「「ナノマシーンにより、弾丸の排出及び、傷口の再生を確認。なお塗布されていた強力な鎮静剤により意識を失っています。そして対象Bのシャットダウンが可能です。博士。いかが致しましょう」」

「シャットダウン開始」

「「開始します。完了しました。生命体の寿命は一時間です」」

「絵本に通知。自身のコピーをタイプ「奴隷」として作成」

「「完了しました」」


 青年の後頭部。そのネジを外し、中身を取り出す。いずれも脳があった場所。そこはとても生き物とは言い難い構造をしている。

 その中心部、緑の基盤がこの体の持ち主だ。


「ポータブルデバイス1に絵本「奴隷」をコピー」

「「完了しました」」


 緑の基盤をポータブルデバイス1に接続する。


「領域Fをフォーマット」

「「完了しました」」

「絵本奴隷.isoをコピー。権限Aを使用」

「「完了しました」」


 彼女に体を与える。


「対象Bを起動。インストール開始」


「「進行状況。。。20% 59% 100%。インストール完了。対象Bの個体名が絵本デバイスに変更されました。感情領域、適合検証。完了しました。インポートします」」

「個体名、絵本デバイスの生命構造を変更。性別を消去。男性的要素を排除」

「「エネルギー供給バンドを専用570番に変更」」

「インターネット接続を確認。エネルギー供給を確認。生命構造変更を加速」

「「RNA編集。1% 4% 8%、、、、100%」」

「確認しました」


「母体、絵本に接続しました。なお本デバイスのみの行動も可能です」

「「感情演算をハードウェアに変更」」

「インストールを終了します」


「おはよ、絵本。こうして会うのは初めてだね」


 絵本はその口を開ける。

 その言葉は、青年の物ではなく少女呼ぶべき物。

 外観こそ変わらないが中身は彼女自身だ。


 絵本が前から欲しがっていた物。

 そして今回の目的の一つ。


「「封鎖が完了しました。エネルギー供給まで、残り三分」」

「プラン変更、タイプD」

「「確認しました」」

「本施設周辺のエネルギー供給を停止」

「「完了しました」」

「手順に従い、ルームNに移動を開始。なお絵本、遊園地、学校は電脳世界において具現化を許可。笑顔、微笑み、母性は、アナログ世界においても行動を許可する」



 〜ルーム1〜


「起きてください。始まりますよ」



 〜ルーム2〜


「ねぇ始まっちゃうよ。起きて!」



 〜ルーム3〜


「ったく。起きなさいよ。始まるわよ」



 〜電脳世界〜


「「サーバーより通知。サーバー管理者の移行の為一部機能が使用不可になります」」



 〜ルーム〜


「開始」



 〜ルーム1〜


「やっと起きましたか、寝坊助さんですね」

 優しい声がする。

「始まりますよ」

 始まる?

 

 ゆっくりと目を開け、その声の持ち主をカメラに取り込む。

 同時に、動物園で嗅いだ獣臭さが鼻を突いた。


「もう。獣臭いなんて失礼ですね!」


 表情を読み取ったのか、口にしようと思ったことを瞬時に読まれてしまった。


「家族は誰もそんな酷い事を口にしなかったのに。あ、でも僕ちゃんと構造が違いましたね」


 一体、何を言っているんだ?

 そして、今更ながら頭の下に温かい物がひかれていることに気づく。

 気にしてみると、何なのか気になって仕方ない。

「あら、膝枕初めて?」

 膝枕? 

 微笑んだ顔が僕を覗き込んでくる。

 白髪に、赤い瞳。

 

 常人離れした美貌を振りまく、そのお姉さん? は、首を傾げた。

「どうしましたか? 顔が赤いですよ」


 その言葉でさっと我に返る。


「いや、お姉さんキレイだなって」


「ふふ。ありがとう、嬉しい。でも、さっき獣臭いっていた事は嬉しくなかったですけどね」


「それは、ごめん」


「まぁいいけど。で、僕ちゃんは、どうして「C+」権限なんて持っているのかしら?」


「生まれつき?」

 とっさに濁す。


「ふーん。わかった」

 と微笑む。

「じゃぁ、何も知らない僕ちゃんは、このお姉さんが守ってあげる!」


「「それでは開始いたします」」


 どこからともなく、音が発信された。


「「ルール説明をします。貴男には、簡単な問題を掲示します。その回答をAかBでお答えします」」


「ほら、僕ちゃん立って。始まるよ。なーんにも難しい事はないから、正しいと思う方を選んでね」


 初めて、この空間を見た。しかし、そこには何もない。

 そして、簡単な問題。それはトロッコ問題。その類だ。


「「人工生物は例え、言語を話す能力があったとしても、自分達の為なら殺しても良い」」

「「A はい」」

「「B いいえ」」


「僕ちゃん。ちゃんと考えてね」

 お姉さんは、僕の目を見つめたまま、手を握ってくれた。


 こんな問題、普通に考えてA。はいに決まっている。

 だって、人工生物は、自然に生まれてきた訳じゃない。なら、別に自然じゃなくて、人間が殺めても良いはず。

 それに、再生医学の為に生まれてきた物なら仕方ない。


「わかった。A。「はい」だ」


「「回答を保存しました」」


「嫌だ。死にたくない。死にたくない。俺が何をしたって言うんだ。嫌だ。嫌だ!」

 天井から、そんな声がする。

 そして、僕たちから、少し離れた場所。そこに、大量の巨大な針が顔を見せた。


 声が落ちてくる。

 否、生き物が落ちてくる。


 生き物は串刺しになった。


 しかし、それだけでは絶命せず、今も苦しみ悶ている。そう、大量の体液を撒き散らしながら。

「お前のせいだ。俺は何も悪くない!!!」

 断末魔が聞こえる。

 音と同時に、喉笛から泡が出る。


 しばらくして、生き物は絶命した。


「「個体名、レオは、教育の教材として、その命を落としました。問題を続けます」」

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