Blood Moon.(4)

本当に渚は「いい匂い」がする。若い女の子さん特有の甘い匂いから、高まってくると「女」の匂い。股間から立ち昇る「芳香」と、変化に富んでいる。シャワーを浴びる前に押し倒したが後悔はしていない。臭くたっていいじゃないか、僕は変態なんだし。渚もこの点では諦めたらしい。絶対に匂いを嗅がれる、と。

 一通り匂いを嗅いで、そろそろ行為を開始しようと、僕がシャツを脱いだ。合わせるように渚もTシャツを脱いだ。二の腕のタトゥーがひどく妖艶に見える。ジーンズを脱ぐために渚が立ち上がった時に、ベッドの掛け布団を足元の方に押しやっておいた。何があっても渚の身体を観る構えだ。不思議と渚は「恥ずかしがるが見せたがる」と言う相反した思いがあるようで、脱いだ直後は腕で前を隠すが、始まってしまえば全部オープンである。一通り、お互いを触ったり舐めたりキスをして、取り敢えずの1回目。今日は3~4回は出来るだろう。僕は43歳にしては元気なのだ。


1回目が終わり、弛緩した優しい時間に包まれる。僕は渚の横に転がり込んで腕枕を差し出す。いつもの流れだ。そのうち渚は上半身を起こして「多いよ・・・」と言うに決まっている。あの芳香を嗅ぐと本当にいっぱい出る。しかし、渚が言ったのは違うセリフだった。


「長いよ・・・」


いや、挿入から10分で果てたので、長い時間の行為になっていたわけではないはずだ。しかし渚は「長い」と言う。何がだろうかと訝っていたら、どうも僕のペニスが長いと言うことらしかった。じっくりと自分のこかんの連装砲ちゃんを見てみた。記憶よりも長くなっている気がする。後に定規で計ったら17㎝あった。渚と付き合いだしてから1.5㎝伸びたと言うことになる。あの芳香は男のポテンシャルを引き出すのだろう。

 長いから「奥に当たってちょっと痛い」と言うのが渚の主張だが、「痛い?じゃ奥まで当てないようにするから」と言うと「優しく奥まで」とわがままを言う。姫様の言うことなので従うことにした。渚はバッグから小さなポーチを取り出して「シャワー浴びてくる」と立ち上がった。今日は一緒ではないようだ。ベッドの上で渚を待つ。交代で僕もシャワーを浴びて、バスルームを出ると、渚は電子レンジのスイッチを入れた。そう言えば腹が減った。買ってきた弁当を温めているのだろう。部屋には揚げ物の匂いが漂ってきた。大きな弁当容器なので、2回に分けて温めてくれた。蓋をトレイにして、1/2枚のとんかつはそのままに、メンチカツとハンバーグをトレイに合わせ盛りしてくれる。こう言うところがとても女性らしくて好きなのだ。


「メンチカツ、半分こだから」

「ハンバーグは?」

「半分こ」

渚はとんかつとハンバーグとメンチの全てを味わうつもりだ。上品な弁当で、盛りが少ない気もする。特にご飯の量が足りない。総菜弁当にありがちな、味の無いスパゲッティとか、温まって不味くなるポテトサラダは付いていない。シンプルイズベストと言わんばかりの弁当である。

「足りる?」

と渚が訊いてきた。デート中に満腹になるまで飯を食う趣味は無いが、それでもちょっと足りない。多分、渚にはちょうどいい量だろう。

「ん。足りるよ。すごく美味そうだ」

「ご飯、ちょっとあげるよ」

渚は自分の弁当からご飯を1/3ほど、僕の弁当箱に移してくれた。これで必要十分な量になった。しかし、この量で1280円とは、弁当もずいぶん高くなったものだ。僕は一口、とんかつを齧ってみた。

「うわ、美味いっ!」

「でしょ?凄く有名なんだから、この店」

 僕はとんかつにはソース派だが、渚があつらえてくれたのは、からしにレモンだけであった。濃厚なとんかつの味をレモンとからしが上手くあっさりとさせていて絶品だった。


「あとはソースね。最初の一切れはこうやって食べるといいでしょ?」

「今度から俺もこうやって食うわ。ソースは甘過ぎるって感じる」

「脂身の多い部分はレモンとからし、肉の部分はソースの方が美味しいよ」

「へぇ・・・」

渚は意外とグルメであった。そりゃ、最初のデートで吉野家に連れて行かれたら怒るだろう。

食後、テーブルの上をてきぱきと片づける渚。家庭的である。正直、渚ほど美しければ顎でテーブルを指しながら「片づけて」と言えば、従わない男などいないはずだが、良く出来た子だ。


 しかし、デートのたびに喫茶店(かふぇだそうだ)で駄弁る内容には、渚を雑に扱う男ばかりが出てくる。「昔の男」の話を聞かせたい、訊きたいわけでは無いのだが、何となく会話に登場してくるのは仕方ない。僕は「渚の過去」にあまり興味は無いのだが・・・

デートをすっぽかす男もいたし、待ち合わせに1時間遅れてくる男もいた。同棲はしたことはないが、渚のアパートをデート場所にする金の無い男は、暴力こそ振るわないが、暴言は結構あったみたいだ。渚に「うるせぇ!」と言える男は、どこまで自己評価が高いのだろうか?こんなに美しく、甲斐甲斐しいまでに出来の良い子である。


「私、実際は凄く悪い子なんだよ」


この言葉が信じられない。最初こそ「近寄りがたいオーラ」をまとっていたが、今では千切れんばかりにしっぽを振ってくれる子である。ある意味「悪い女」の素質はあるだろうとは思う。男、つまり僕との距離感の取り方が絶妙で。最初は本当に「食い気味」に近づいてきたが、今は普通に隣にいて、たまに何か要求があると、腕に掴まりながら、あの力のある瞳で「じーー」っと見詰めてくる。そのくせ、連絡は不定期で、たまに1週間くらいは音信不通になる。メールの返事は間が空くが必ず返って来るけれど。

 食後はアニメを観た。コンクリートロードがどーのこーのと言うアニメで、僕は3回目だ。渚は見逃していたらしく、僕がフロントに映画のDVDを頼もうかと尋ねたら、メニュー表にあるこのアニメを選んだ。僕の好みでもう1本借りてあったが、観なかった。当然、セックスで忙しかったからだ。


そろそろ行為にも慣れてきたので、今日は新しい体位を試すつもりだった。食後にアニメを観て、ちょっと駄弁っていると、ちょうどいい頃合いだ。食後すぐにセックスをするのは苦手と言うか、食欲が満たされた直後は性欲が薄い。実際は、バスローブの下が裸体であると言うことに、股間をふっくらさせていたのは内緒だ。序盤は普通にイチャイチャしていた。シャワーで「中も流してきたよ」なんて、かなりエロいことも聞いた。それで一人でシャワーを浴びたのかと納得した。そして普通に合体して、2回目なので余裕がある。


「後ろからしていい?」と囁くと、渚は身体を横にスルっと抜いてうつ伏せになった。やだこの子、全部分かってる・・・


ただ当時はまだ「寝バック」と言う体位はメジャーでは無かったので、四つん這いになってもらった。コレでこの勝負は僕の勝ちである。僕には女性をメロメロにさせる体位「スーパーバック」があるのだ。徐々に奥を責めていく。「長いよ」と言う意見を視聴者さんから頂いたので、奥には当てない。いや、当てる時は「押し付けるだけ」に留めておく。女の子さんが後ろから突かれている時に、間欠的に「あっ、あっ」って声を漏らすのは「奥に当たってびっくり&痛い」ってことが多いようだ。なので、僕は奥へのアプローチは優しくする。流石に正常位で奥まで当たっていたとは思わなかったけど。そう言えば渚の身長は145㎝ほどである。この小さな体に15㎝以上のモノを挿入しているのだ。そりゃどうかすればしんどいだろう。

 僕は慎重に渚の「中の深さ」を探った。これから行う「お仕置き」は快感しかないのだ。奥に当てて「ちょっと我に返る」隙すら与えないのだ。そう、僕が編み出した体位、「スーパーバック」のお時間だ。大したことでは無いけど。単に、入り口ギリギリから奥に当たる直前まで、「真っすぐ撃ち込む」だけである。覆いかぶさるように腕を突っ張り、僕と渚が接しているのは性器だけである。他の刺激は一切ない状態で、ロングストロークで中を擦り上げるのだ。2分で渚が悲鳴を上げた。


「待って・・・これ駄目っ!気持ちいから、気持ちいいから駄目っ!」


こんなことを言われて辞める男がいるだろうか?いや、いない。容赦なく僕は責め続ける。中は渚の出すエキスで滑りが良い。サラサラのエキスだった。しかし誤算があったのも事実だ。滑りが良い上に締まるから、僕の方が限界になりかけた。途中で落ち着かせるために奥に当てて休憩してみた。コレも渚にとっては地獄と言うか天国であろう。ちょっと休憩したらまたピストンが始まる。

「逝ったからぁ、逝ったってばぁっ!」


黙れ、小悪魔。


たっぷりと虐めてから抜いて、渚を仰向けにする。内ももまで濡れていた。瞳がうるうるしてる。なんだこのひ弱い生き物は。僕はその瞳を見て、こかんのやる気棒がさらに元気になった。正常位でフィニッシュしたい。渚の顔を見ながらフィニッシュしたい。動きを速めると、限界を突破している渚がしがみついてきた。これ以上の大きな刺激は嫌と言うサインだろう。

 こういう場合は、責めを弱めてはいけない。愛し合っていて、身体の関係が深まっているのならば、「不愉快ではない」刺激で責めてあげるのが「愛」である。


「いじめっ子・・・鬼・・・馬鹿・・・」


終わった後、渚が腕枕の中で呟いていたが、既に陥落していた。小さな声に艶と甘えが含まれている。もう2~3回、デートの時にこの責めを与えれば癖になるだろう。そもそも僕は女の子さんに「3日間一緒に過ごしたら戻れなくなる」と言わしめた男だ。単にセックスが好きなだけの男だが、セックスは愛情表現なのでいろいろ工夫をしてきた結果だ。しばらくは放心状態だった渚がやっと我に返った。背中を思いっきり引っかかれた。抱き着いて離れない。本当に可愛い生き物だ。


「洋ちゃんさ?」

「なに?」

「どこでこんなこと憶えてくるのかなぁ?」

意外と迫力のある尋問だ。

「え~と・・・」

「悪いひとだぁ」

「悪いとはどう言うことですか」

「こんなことされたら・・・その・・・」

「次も期待しちゃう?」

「馬鹿っ!」


 後ろからとか、女の子さんが上になるなんて言うのはあくまでもバリエーションであり、やっぱり好きなのは正常位だ。相手の顔も吐息も感じることが出来る。昔、割と不細工な女の子さんと行為するしかなかった時は、覚悟を決めて顔にハンカチを被せてどうにかミッションコンプリート出来たが、死んだ祖母を思い出した。アレが花柄では無く、白いハンカチだったら絶対に途中で萎えただろう。そんなに顔を見たくないなら、それこそ後ろからすればいいじゃないかと言う意見もありそうだが、その女の子さんの尻はデカすぎて、まるで何もない野原に放り出された迷子のような気分になったので仕方ない。


「お腹すいたー」

よく食べる子である。僕はテーブルに置いてあるルームサービスのメニューをベッドに持って行った。

「なに食べる?」

「ラーメン」

庶民的である。ここのラーメンは美味いよと言いかけて辞めた。今の渚は絶対に「誰と来たことがあるの?」と言う尋問を始めそうだ。


「じゃ、俺はチャーハンと餃子・・・いやシューマイでいいかな」

「餃子は駄目でしょ」


ニンニクの匂いが気になるわけで。


僕はバスルームで温かいタオルを作って、渚の身体を拭いていた。ルームサービスが届くまでたっぷり30分はかかるので、時間はある。渚は最初、びっくりしていたが、すぐに力を抜いて僕に身体を任せてきた。

「絶対に洋ちゃんはワルだ」

そして頭をポリポリと搔いていた。痒いらしい。


「頭、痒いならシャンプーして来れば?時間はあるし」

渚はしばし黙り込んだ。雰囲気がちょっと重くなったがなぜだろう?

「コレ、ウィッグだよ」

渚は勇気を出してカミングアウトしてきた。

「頭、スキンヘッドなんだ」


僕はこの時思い出したんだ。渚があの病院に入院していたのは病気の治療のためで、薬の副作用で白血球がゼロになっていたと言うことを。ありていに言えば「ガン」だったのだろう。身体には手術痕は無いので、投薬とか放射線治療で・・・


「病気は治ったけど、副作用が残ってるの」


 僕は女性の心を理解出来ない。出来なくていいのだと思っている。愛した人ならば、理解するなんて愚挙を犯さないで、「全てを受け入れてあげればいい」と思っている。


「それで蒸れて痒いのか」

「うん」

「じゃ、外しちゃえば?」

「それも・・・恥ずかしいかな」

「気にしないよ、渚は渚のままだ」


渚はまた僕の懐に潜り込んだ。

「あとで外す」


ルームサービスが届いたので、渚はまた元気になった。テーブルの上にはラーメンと炒飯とシューマイと唐揚げが並んだ。ラーメンをすする渚、可愛い。僕は炒飯をレンゲで口に運びながら、おかずにシューマイをつまんだりしていた。渚はそのおかずにまで手を出してきた。ここのラーメンは小さめだから足りなくて当たり前だ。ソレを見越して唐揚げを追加したのだ。ポテトフライもついてくるので、結構なボリュームだ。

 ずいぶんとのんびり過ごしたように思えたが、時計を見ればまだ17:00過ぎだ。もう1回出来そうだが、食後の休憩を考えると、開戦は19:00になるだろう。渚は「ウィッグをあとで外す」と言った。勇気を出したカミングアウトを受け入れたい。なんとなく、ウィッグを外した後はセックスする流れにはならないように思えた。渚は恥ずかしがり屋さんなのだ。ウィッグを外した姿を見せるのはやっぱり恥ずかしいだろう。僕にとっては、そんな姿の渚だって「渚のまま」なのだから構わないのだけれど。


 ぼんやりとそんなことを考えながら、食後の休憩をしていた。途中からベッドに移動して渚を後ろから抱えていた。いわゆる「スプーンポジション」と言う体勢だ。渚の身体は温かくて柔らかくて素敵だった。当然のようにぼくのこかんのリビングストン将軍が元気になりかけた。しかし、色々と時間的に押している。


気配を察したのか、渚が僕の方を向いてきた。

「洋ちゃん、仰向け」

「なんで?」

「いいから仰向け」

実際、渚が相手なら、インターバルは1時間も要らない。本当に魅力に溢れた女の子さんなのだ。

「えっちすると時間がかかるから」

「え?」

渚は僕の足元の方に移動すると、お口で行為を始めた。マッハで硬くなった。

「手、使うけど、いいでしょ?」

「いいけど・・・うっ・・・」


渚こそ「どこで憶えてくるのか?」と言うほど上手い。いや、下手では無いのだが、手を使うと本当に上手かった。僕が果てそうになると、声をかける前に咥えて受け止める。「ごっくん」と言うか、出たらそのまま飲んでいるみたいだ。

「あー渋い・・・ちょっと口をゆすいで来るね」

10分で抜かれてしまった・・・

「洋ちゃん、電気暗くして」

僕はベッドの上の方にある操作盤で照明を落とした。真っ暗ではないが、顔が見えない程度の暗さだ。パチンと音がして、渚が僕の横に滑り込んできた。

「平気?」

「なにが?」

「頭、こうだよ」

「渚は渚のままだから平気だよ。気にしない」


渚はホテルを出る30分前まで、僕の腕枕で眠っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る