Blood Moon.(2)

何故、渚はこんなにも僕との関係を「急いでいるのだろう?」と言う思いがあった。いや、二人の関係を「強固なモノ」にすることを急いでいるように思える。僕は渚がシャワーを浴びている間に今までのことをおさらいしていた。ほんの10分にも満たない時間で結論が出るような問題では無いが、何となく考えていた。


「洋ちゃん、出たよー、入りなー」渚の声で我に返った。どんなに疑問があろうとも、目の前に渚がいるだけでそれは雲散霧消する。この子は本当に魅力的だ。バスルームの手前で渚とすれ違う。ボディソープの匂いがした。今から僕も同じボディソープで身体を洗う。同じ匂いになると言うだけでちょっと勃起した。いい匂いだった。とは言え、家を出る直前にシャワーを浴びているので、身体を軽くこすればシャワーは完了だ。股間だけは念入りに洗い直したけれど。とにかく渚を抱き締めたい。締まった身体にDカップのオプション付きだ。身長が小さ過ぎて、抱きしめるとすっぽり僕の身体に収まってしまう可愛い小悪魔。渚はベッドで寛いでいる。今日もまたホテル備え付けのバスローブを羽織って、片手で枕をしながら横にあるテレビを観ていた。この時間では大した番組も無いだろうと、ちょっと画面を見ると何かの映画らしい。特に興味があって観ているわけでは無いのがありありと分かる。僕がシャワーを浴びている間の暇つぶしだろう。一応気になったので、映画のタイトルを訊いたが、失念した。僕の興味を引く映画では無かったから。枕元に置かれたホテルのパンフには有線テレビの番組表があった。そう言えばこのホテルは無料で映画のDVDの貸し出しもある。


「何観てるの?」

「ん?何か無いかなって観てただけ」

渚はすぐにリモコンを操作してテレビを消した。無音では寂しいのでBGMを流す。適当にJ-POPのチャンネルに合わせると、既に全裸になった渚が抱き着いてきた。もう照れる必要も恥ずかしがる必要も無いのだが、女の子さんは複雑なのだろう。そのまま掛け布団を引っ張り上げて身体を隠した。この娘はするっと裸になるくせに、何故か恥じらう。僕としては「脱がす手間」も味わいたいのだが・・・

 渚を仰向けにして覆い被さった。きっちりと手順を踏むのは礼儀だろう。まだ正常位オンリーだし、キスから始まる異性快性活である、余計なことだが。部屋は明るいまま。僕が片手で布団を払いのけると「もう・・・」と抗議してきたがそれだけだ。別に怒ってるわけでは無いのは、股間に伸ばした手が知っている。挿入する頃には準備が出来ていた。その前に色々としたけど。そして渚の凄さを知ることになった。顔は文句なしに美しい。瞳に宿した「強さ」も良く知っている。この瞳で見つめられると本当に緊張する。身体も素晴らしいし、やや丸みを帯びてはいるが張りのあるDカップは寝転んでも流れてしまうことは無い。抱くのは3回目なので緊張は無い・・・わけでは無いが勃たないなんてことはない。むしろぼくのこかんの長15㎝砲は非常に張り切っている。それだけでは無いのだ。

行為中に渚の股間から立ち上る「匂い」を初めて知った。今までも匂いはしていたと思うが、明確に意識したのは初めてだった。匂いは強くないが凄くエロい。いや、その匂いに混ざる「無臭の匂い」がエロいのだ。こんな子は人生で2人目だ。しかも「付き合ってる関係の子」に限定すれば渚が初めてだ。この香りは確実に男を狂わせると思った。と言うことで今日も通勤快速並みの速さで果ててしまった。いや、まだ体力はあるけれど、賢者タイムに移行した。渚は身体を起こして体育座り。そしてまたあの一言。


「多いよ・・・」


全部出るまで10分はかかっただろうか。やっと渚が僕の腕枕に頭を乗せてきた。きっと僕の出したモノを出すために半身を起こしているのだろう。

 僕は腕枕の中から見上げてくる渚の瞳を見ていた。ふと思いついて渚の右腕を取ってタトゥーを観察した。見事な和彫りだった。かなりの金をかけないと無理だと思われる出来だ。


「気になる?」

「ん?いや綺麗だなーと思ってさ」

「タトゥーって駄目かな?」

「気にしてない。綺麗だし」

「ふーん」


渚は僕が腰に巻いていたバスタオルで腰のあたりを隠していた。掛け布団は僕がベッドから蹴り落とした。渚がうつ伏せになってじわじわと下の方に移動した。この生き物は何をする気だろうと観察していたら、しばらくは僕の二の腕を見ていたが、ササっと動いてきて「カプ」っと噛みついてきた。もうやだ、この可愛い生き物。

 そのままなし崩し的に2回戦目に突入した。渚を仰向けにさせてまた色々と工作を開始したが、途中で払いのけられて僕が仰向け。渚が色々してくれるらしい。僕は長いこと「素人童貞状態」だったのでよく分からないが、今の若い子はこのようなサービスをするのだろうか?記憶を辿っても、過去のカノジョは皆さん結構なスケベばかりで困る。渚のような美しい人はそんなサービスをしなくてもいいと思うのだが。舌を這わせながら徐々に下の方に動いていく。コレはまたアレだ、ヤバい流れだ。当然のようにパクっとされた。非常に私的な経験だが、昔、婚約していた女の子がいて(まだ18歳である)その婚約者の家族の団欒にも同席していた。その婚約者の叔母が子供を連れて遊びに来ていて、風呂を頂いていた。出てきた4歳児が裸で団欒の席を走り回る。叔母が「そんなカッコで走り回っていると、ちんちんをお姉ちゃん(僕の婚約者)にパクってされちゃうぞ」と脅した。その瞬間、僕の口から「されてぇなぁ・・・」と言う非常に危険な発言が出た。団欒の空気は一気に氷点下をマーク。婚約者のお父さんもお母さんもいるのだ。婚約者に部屋から引きずり出され「洋二、何言ってんの?」とみぞおちをグリグリされたのも今ではいい思い出だ。


渚はせっせと行為に励んでいる。上手くは無いが気持ちいい。最上級の容姿をした人が、たまに僕と視線を合わせながらしているのだ。興奮しない方がおかしい。僕はこのまま「どこまでしてくれるのだろう?」と言う疑問を抱いたので、されるがままに任せていた。結局、出そうになった。

「ちょ、ちょっと渚。出ちゃうから辞めて」

渚は同じペースで行為を続ける。

「いや駄目だって、出るってばっ!口を離してっ!」

出てしまった・・・

僕は慌てて枕元のティッシュを4~5枚引き抜いて渚に差し出した。

「え?飲んじゃったよ?」

この娘はヤバすぎる・・・

「苦いだろうに」

「んー、苦いと言うか・・・渋い、かな?」


味覚には個人差があるから「渋い」と感じる子もいるだろう。ここで「甘い」とか言われたら、明日は主治医のところに行ってヘモグロビンA1cを測ってもらう羽目になっただろう。

 2回戦目を暴発させてしまったので、若干満足しきったが、ケンタッキー・フライド・チキンを食べると言う一大事業がある。備え付けの電子レンジで温めてくれた。かなり家庭的な部分もある渚であった。ちょうど食べごろに温めてくれたのだ。ケンタッキー・フライド・チキンを電子レンジで温めると、大抵は持つにも苦労するぐらい熱々になったりしないか?

 二人でケンタッキー・フライド・チキンを食べた。お互いにバスローブを羽織っていた。全裸で骨付き肉にかぶりついていると原始人みたいだからである。お互いに若いので(42歳はギリセーフ)2ピースを完食した、合間に食べるコールスローサラダがちょうどいい箸休めになった。箸は使っていないけど。

ペットボトルのお茶をグラスに注いで食後の雑談。ふと時計を見るとまだ17:30だ。渚の明日の予定はどうなんだろう。このまま泊りでも大丈夫だろうか?僕は明日のスケジュールを空けてあった。


「渚は明日は仕事?」

「うん。今日いきなり有休を取ったから休めるわけないでしょ」

「そうかぁ。何時に帰る?」

「えーと、9時前の電車に乗れれば大丈夫」

まだ3時間ある。食事は済ませてしまったし、ここを出る理由は無いわけで。


「じゃ、一緒に寝ようか」

「スケベ・・・」

渚はツィっと立つと「シャワー浴びてくる」とバスルームに向かった。振り返って「洋ちゃんも来なよ」と言う。一緒にお風呂も童貞の夢だろう。僕はしっぽを振りながら付いていった。断れる男などいまい。

バスルームでシャワーの温度を確かめる渚、かなり念入りに湯温を調節している。こう言うところが男心をくすぐるのだ。「良く出来た子」と言う意味で。

 先ずは足元にお湯をかけて「どう?」と言う表情で僕を見上げる。ちょうど良かったので「だいじょぶ」と答えた。ここは両手にボディソープを塗りつけて渚を洗うべきだろう。

「やだ、くすぐったいからやだ」と抵抗した。仕方ないので自分の身体を擦る。渚も自分で洗っていた。バスルームでの会話は隣の部屋に響きそうなので口数は少なめであったが、たっぷりと渚の身体を観察出来た。そう言えば「立った姿勢」で見るのは初めてだ。


「洋ちゃんは好きなアイドルとかいる?」

突然の妙な質問。

「そうだな、倉木麻衣だな」

「全然似てないじゃないっ!」


渚、あろうことか倉木麻衣にライバル心剥き出しである。倉木麻衣に喧嘩を売りかねない勢いだ。「似てないじゃない」(私と)と言う意味なのは理解出来たから。

「芸能人は別だろ」

「だけどさー」

「分かった。好きな芸能人もアイドルもいない。渚だけでいい」

またデレた。黙り込んで自分の足元にシャワーを浴びせている。

「洋ちゃん、先に出ていいよ」


 僕が不思議に思うことは、女の子さんと一緒にお風呂に入ると高確率で「先に出てて」と言うことだ。一人でバスルームに残って何をしてるんだろうか?

ベッドの枕元にお茶のペットボトルを置いて、布団を拾い上げて潜り込んだ。裸でベッドの上に大の字とか出来るわけもない。

5分ほど遅れて渚が布団に潜り込んできた。自動的に僕の腕枕に頭を乗せる。非常に可愛い。問わず語りに色々な話をした。僕は渚のプライベートに踏み込むような話は避けた。今一緒にいて、この先も一緒にいるのかも知れないのだ。今敢えて尋ねることでもあるまいて。


「ねー、今度はどうする?」

「今度って、いつ会うかってこと?」

「うん、私、有休使ったから、今月はあと1回会えるかなって感じなの」

「だったら20日頃がいいかなー、会えない日が続くのも嫌だし」

「そお?だったら、えーと・・・木曜日なら空いてる」

「どこか行こうか?」

毎回毎回、セックス目的で会うのも気が引ける。

「どこ?どこ?」

食い付いてきた。

「渚の行きたい所」

「どこがいいかなー、どこかなー」

5分は考えていただろう。


「海がいい。海に行きたい」

「寒くなる前に海もいいなぁ」

「でしょ、海に行こう」

「どこの海がいい?」

「美味しいお店があって、砂浜が綺麗なところ」

「条件が厳しいな、おい」

「だって、ご飯だって食べたいし、汚い海は嫌じゃん」

「あ、○○はどうよ?」

「行ったことないけど、海は綺麗?」

「結構駅前は賑やかで、浜も綺麗だよ、ちょっと遠いけど」

「そこがいい、洋ちゃんお勧めでしょ?」

「そうかな」

「朝に待ち合わせれば大丈夫?」

「電車で行くなら、〇〇駅で待ち合わせれば10:00でちょうどいいかな?」

 僕は渚が使う路線と僕の使う路線を考慮して、ちょっと遠いターミナル駅を指定した。その駅からなら急行電車で1時間で着く。

「分かった、細かいことはあとで決めようね」

「うん。メールでもしてくれればいいよ」

「もう1回・・・する?」


2回戦目では渚は満足していない。暴発させてしまったのは僕の責任・・・だろうか?

しかし、渚の魅力は凄いもので、インターバル1時間で僕はまた元気になった。


 ホテルを出たのは20:00過ぎ。そろそろ夜風が寒くなってくる頃だ。渚は自然と腕を組んできた。前は僕が腕をスルっと抜いて逃げたが、もう腕を組んで歩いても不自然ではない関係だ。渚の歩く速度に合わせて歩いた。渚の歩くペースが遅いことに気づいた。今度からはもう少しゆっくり歩こうと思った。今では腕を組まない時、渚は僕の右半歩前を歩くことが多いが、アレは渚にとっては結構な早足だったのだろう。その前は僕の半歩後ろを歩いていたので気づくわけもないことだった。

腕を組んで歩くと言っても、ラブラブな雰囲気でもない。べったりくっつくわけではなく、腕を組んでいても渚は興味を引かれるとそっちに行こうとしたりする。ただ、腕を解くわけではない所がまた可愛い。


「メールするね、メールしてね」の別れ際の言葉は変わることは無い。

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