第一章 「インド洋への道」─二冠の魔女─

第0話 プロローグ

 ◆明倫11年4月14日◆


 「回転率11,2パーセント、空間自体がやはり回転しています」

 「馬鹿な、物理法則を無視している!」


 そう考えるのも最もでしょうね、と皮肉っぽく応じる。


 「何があったのか、説明していただきたい」


 簡単に言いましょう、と彼女は言う。


 「メビウスの正体に迫るようなものです。ここからの話は秘密にしていただきたい。もう一度言います、簡単に説明しましょう。

 空間自体が回転しているわけではありません。空間の系自体は全く変化していませんよ」

 「ばかな、観測データは全て空間が変化してのものだと、さっき貴官が説明したではないか!」


 ランドルフ府官がそう責めるように言う。

 だが、彼女はそれを飄々とした態度で受け流す。


 「空間が変化しているというのは比喩的な表現です。正確に言うならば、観測艦の運動エネルギーを時間と空間の移動という減少で相殺しているだけで、空間自体は変化していません。

 もっとも、ここらへんのことは博士に聞いてください。私も、この博士の理論を完全には理解できていませんから。それよりも、空間の系に対して不動の位置を保っている観測艦に注目したほうがいいと思いますが?」


 彼は、呆れ返る。


 「質問に答えていない。何が起こった?」

 「先程も言いましたよ? 観測艦の運動エネルギーを時間と空間の移動によって相殺しているだけだと。観測艦は、空間に対して相対的に移動しているだけです」


 彼女は、そういうと自分のコンソールに戻ってしまった。


 「…、軍令部に連絡して来る」

 「無駄ですよ」


 彼女は、もうランドルフ府官を見ることなく、そう話しかける。


 「どうしてだ? これは軍令部との共同計画で…」

 「軍令部はあくまでも外を知りたいだけですから。この作戦のために使用した艦船の損害を外の世界を知るために使ったわけですが、その情報が得られなかった以上、無駄だと思いますよ」

 「だが、…」


 彼女は、コンソールに向かってクリックとキーボードによる入力操作を繰り返していた。ランドルフ府官は、ちっ、と言うと、そのまま軍令部へ向かった。

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