第10話「何で燃えてるの?」

 「改めて、アルスとロメリアです。ここでみんなと一緒に、パライソの手伝いをしてます」


 「よ、よろしく、お願いします……」


 アルスがお辞儀をしながら挨拶をして、ロメリアが椅子の上で縮こまりながら続く。

パライソの手伝いとは何なのか、気になった様子のサラがおずおずと声を上げる。


 「えっと、パライソさんの手伝い……?」


 「はい。この平原の管理を、この拠点にいるみんなでやってるんです。生き物の世話とか」


 「へえ……」


 サラが驚いたように目を見開く。確かにこの広い平原を管理するには人手がいるだろう。

それらを聞いていたキャロルが横から口を挟む。


 「それで、これからお前らどうすんだ? パライソに用があんだろ?」


 「あ」と声を漏らすサラ。

ここに来てから驚くことばかりで、本来の目的を忘れていた事に気づく。

戦争を止めるために、魔法使いの力を借りる。そのためにパライソに会いに来たのだ。


 「ああ、私達はそのために来たのだからね」


 「「…………え」」


 その場にいた全員が声の主を見上げる。

円卓に8つあるはずの席。ノエル、キャロル、サラ、レイ、ナナ、アルス、ロメリアの順に座っていた。7人しかいないのだから、円卓には空きがあるはずだ。

しかし8つ目の席は埋まっており、そこには周りにそぐわない高身長の男が座り込んでいた。

男の右手は十字架の首飾りに触れ、左手で肘をついてくつろいでいる。


 「アラスター……忘れてましたです」


 「なんでだよ」


 素の反応を見せる変人、アラスター・ユークレイスがそこにいた。

サラ達は皆揃って子供なので、一人突出した身長を持つアラスターは、存在そのものが異質に感じられる。

レイが驚きの表情を保ったまま問う。


 「どこいってたの?」


 「ローグ街に用があったのだよ、問題は無い」


 「……そう」


 レイはローグ街襲撃の事を思い出していた。

あの時はアラスターがいないときを狙って、あるいは謀って、ユースティア国教会がやってきた。

アラスターも同じような考えだったのか、問題は無かった事を伝えてくれた。彼からしてもあの襲撃に思うところがあるらしい。


 「それでパライソは何処かね?」


 「……も、もうすぐ、来ます」


 (あれ)

アルスの返答を聞いて、サラは少し違和感を覚える。ロメリアと比べればそれなりにハキハキと話せていたアルスが、アラスターが来た途端に挙動不審だ。


 「そうか。二人とも、久しいな。前に来たのは確か……」


 「ち、ちょうど、半年前くらいです」


 「ああ、祭りの時だったな。あの時は楽しかったよ」


 「は……はい……」


 何やらアルスの顔が赤い。指先をモジモジさせて、まるでロメリアと入れ替わったかのようだった。

(もしかして……いやそんなアホな)

恐ろしい可能性が頭をよぎるが、そんな訳がないと頭を振る。

するとタイミング良く、あるいは悪かったのかもしれないが、異物が部屋に飛び込んできた。


 「待たせたな諸君! 全員揃っているな!?」


 入り口を破壊するような勢いで飛び込んできた彼は、先程まで以上に頭の青い炎を揺らしていた。

すると何かに気付いた様子の青い炎、パライソが歓喜の声をあげる。


 「おおアラスター! 我が盟友よ、はるばるご苦労! 久しいな、いつ以来だ!?」


 「声でか……」


 「はいです……」


 この男の気迫の強さにも少しずつ慣れてきた。そう思っていたレイやナナだが、ここに来て更なる勢いに押されてしまう。

アラスターは慣れているのか肘をついたまま、いつもの笑みを浮かべ微動だにせず答えた。


 「まだ半年しか経っていないそうだ。久しくはないだろう」


 「それもそうだな! クク、ハハハハハ! それはそうと、俺の椅子は?」


 高笑いをあげるパライソ。友人との再会に歓喜しているようだ。普段と表情が変わらないアラスターだがどことなく喜んでいるように見える。あと、椅子を譲る気はないらしい。

サラはアカが言っていたことを思いだす。

 『二人とも、古くからの親友ですよ』

 (やっぱり三人組だったんだ)

二人のやり取りを見て納得したサラ。どうやら仲が良いらしい。

アカの「サプライズ」が楽しみになってきた。


 「あの、そろそろ聞いてもいいです?」


 ナナが手を上げて言う。パライソに対して、なにか疑問があるらしい。

パライソがテンションを上げたまま答える。


 「ああいいとも! 問うがいいナナ!」


 「はい。誰も気にしてないみたいですけど……なんで、燃えてるんです?」


 「……?」


 聞かれて、なんのことが分からないという様子で聞き返すパライソ。彼からすれば答えるまでもないことなのだろうか。


 「いや、だから頭……」


 「ああ、俺の頭か!」


 ようやく質問の意図を理解した様子のパライソ。しかし、納得はしていない様子だ。

ナナに答える前に、パライソはアラスターに確認する。


 「いいのか?」


 「……ああ」


 アラスターはいつの間にか姿勢を正し、パライソの話を聞いていた。パライソの質問に対し、生気のない声で静かに答える。


 「ならば説明してやろう! ナナ!」


 「は、はい」


 普段サラ以外の誰に対しても同じような態度のナナだが、パライソの気迫には押されっぱなしだ。そんなナナに、パライソは授業を開始する。


 「異形、という言葉を知っているか?」


 「ああ、それは知ってるのです。いや、ていうか……」


 「そうだな、ナナ。汝自身も異形だ」


 それを聞いていたアルスが驚いてナナを見る。


 「あ、じゃあさっき言ってた聖霊って、ナナさんなんですね」


 「そうなのです……でも」


 それになんの関係が、という表情でパライソを見上げるナナ。するとパライソは唐突に笑い声を上げた。

 

 「ククク、ハハハハハハ! 教えてやろうナナ!」


 そう言って彼は右手でキャロル、左手で自分自身を指す。そして、ナナに向けて満を持したように答えを告げた。


 「この影森庭園シャドウフォレストガーデンにはアルスとロメリア、そしてノエルを除き、人間はいない!」


 「え……」


 ナナが目を見開く。

そんなナナに、パライソは追い打ちをかけるように叫んだ。


 「ここにいる人型の者は皆、俺もキャロルも、異形の民だ!」

 

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