第21話 勘違い!? 『オトコノコ』からの的外れな処方箋!?

 夕方、町長の家を後にした僕らは、宿で対策をねることにはずだったんだけど。


 Sffrrrrrrrrrrrrt………。


「なぁ、リリーとどうすればうまくいくと思う?」


 話ってなにかと思えば。


 シャワーを浴びながら、アニキからそんなことを聞かれたんだ。


「もしかしてあのモルガンって人のこと気にしてんの? 別に心配いらないよ。だってリリー姉さん、めちゃくちゃイヤがっていたじゃん」


 というか、女の子と簡単にうまくいく方法があればこっちが聞きたい。


「そうか……・? でもよ。やつの方が金はあるしよ。顔もいいしよ」


 リリー姉さんがそんなの気にするようなタイプじゃないと思うけど。


 むしろ、わりと脈あるんじゃないか?


 というか、オトメじゃあるまいし。


「いつも通りにアピールすればいいんじゃない? その方がいいと思うけどな」


「そうか?」


「そうだよ」


 うん、うん。


 あんまり変なことしない方がいいと思う。


 あせって積極的に行ったりね。


「話は聞かせてもらいましたっ!」


「え!? だれ!?」


 ばぁーんといきなりシャワールームに誰か入ってきた!


 あ、あの子は!? まさか!?


「き、君は!?」


 入ってきたのは生まれたままの姿の、宿屋の――ミシェルっ!?


「ここはボクにお任せくださいっ!」


「あ……」


 ――!!!


 彼女、いや彼のふともも・・・・ふともも・・・・の間には男ならではのものがっ!?


「男のコだったの?」


「え? 言ってませんでしたっけ?」


「言ってないよ!」


 中性的な名前だから、てっきり女の子だと思っていたこっちが悪いんだけど。


「そんなことはどうでもいいのです!」


「うん、まぁ……たしかに?」


「お前、ミシェルっつったか? それで? 何か策あるんのか?」


「……アニキ」


「ええっ! たとえば目の前でイチャイチャする人がいれば、自分たちもしたくなることってありませんか? ほかには楽隊車バンドワゴンが通ると後ろに乗りたなるあの感じ」


「ああ、わかるぜ、なんだかこう、たぎってくるよなっ!」


「……そうかな? そんなことはないと思うけど?」


 なんだかイヤな予感がする。


「でしょでしょ。だからボクがフィルお兄さんにアプローチするんで、そしたらあのリリーさんっていうお姉さんも同じことしたくなるはずです!」


「そ、そんなこと無いと思うよ?」


「幸い、お姉さん方はボクのことを女の子と思っているようです」


 だめだ。全然こっちの話聞いちゃいない。


「おおっ!」


「『おおっ!』じゃないよ! なに考えてんのさ! だいたいあのリリー姉さんがそんなことしたくなると思う?」


 むしろそんなのウィンに見られたら……。


「フィルお兄さん。刃物を隠すならキッチンの中って言いますよね?」


「言わないよ。なにそのドメスティックな証拠かくし。それを言うなら木をかくすなら森の中じゃない? そもそも何を言いたいのか分からないし」


「細かいことはどうでもいいのです! 人は周りが同じことをしていると自分も同じことをしたくなるものです」


「……で、その根拠は?」


「はい、長年宿屋にいて気づきました。ある部屋からあえぎ声が聞こえるとそのとなりの部屋、部屋へと――」


「わぁぁぁぁぁ! 分かったから! 全部言わなくても分かったから!」


 もうなんなんだこの子は。


「とにかく、だまされたと思ってやってみましょう!」


「……やだなぁ」


「フィル! 一生のお願いだ。協力してくれ! この通り!」


 もう、しょうがないなぁ……ハァ……。


「というか、ミシェル、なんで僕らにそんなことしてくれるの?」


「え? だってオモシロそうじゃないですか」


 この子、もしかして理性が蒸発してるんじゃないのか?


「っていうのはジョークで、フィルお兄さんたち、あの町長の依頼で、お母さんたちを探してくれんでしょ?」


「あ、うん、そんなこといったけ? でもお母さん?」


「はい、ボクのお母さんも、実は連れ去られて、だから少しでもお兄さんの力になりたいんです」


 なるほどね。


 でもね。


「うん、気持ちは分かった。でもできれば別のことにしてくれないかな?」






 翌日から、本格的に仕事を開始。


 シンプルな作戦だけど、二人一組で町を回って、犯人をつかまえる。


 僕とアニキは、ウィンとリリー姉を、物カゲに身を隠しながら後をついていくことになった。


 ひとまず夜まで時間があるので、例の作戦を決行することになったんだ。


 ハァ……。


「はい、フィルお兄さん、これボクが作ったんです。食べてみてください」


「いや、ちょ、ちょっと! ミシェル。くっつきすぎだよ?」


 昼食どきからそれは始まった。


「はい、あ~ん」


「ちょ、そ、そんなことしなくても食べるからさ!」


「そんなこといってちっとも食べてくれないじゃないですかぁ~」


 BRACK!!!!!


 HYUMM!


 KRRRK!!!!!


 ほほをがかすめ、振りかえるとかべにささっている。


「あ、ごめ~ん、折れちゃったぁ~取り替えてくれるかなぁ?」


 わぁ……ぉ……。


 血の気が引いた。


 ……というか血が出た。


 ウィンがにぎっていたナイフが根元からぽっきり折れている。


 あのぅ……それ金属だよね?


「あれ? おっかしいなぁ。折れるなんてことあるんですね? すぐにお持ちします」


 たったったぁーと裏へ消えていくミシェルをしり目に、僕は冷やアセが止まらない。


「ずいぶん、仲良くなったんだねぇ~……ねぇ? フィル?」


「イヤ、ソ、ソンナコトハ、ナイ、ヨ?」



 ウィン、めちゃくちゃおこっている。


 そりゃぁそうだよね。


 口がすべったとはいえ、好きだって言っておきながら、こんなことになっているんだもん。


 でも、ミシェルがほんとは男の子だっていっても信じてもらえる状態じゃないし。


 かといって、リリー姉さんがいる前で事情を話すわけにもいかないし。


 どうしよう。


「なぁ? リリー? あれ見てどう思う?」


「なによいきなり。でもそうねぇ……知らないうちにずいぶん仲良くなったねぇとしか」


「そうじゃなくてよ。女ってあういうことしてみたいかって話」


「はぁ? なんで好きでナイフ折らなきゃいけないのよ?」


「そうじゃなくてよぉ」


「なんなのよぉもう! いいから早く食べちゃいなさいよ! この後仕事なんだから!」


 ハァ……こっちも先が思いやられる。


 変なことになっちゃったなぁ……。


 というかもうやめたい。





―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


次回! 「キョウイ判定は『禁断』の言葉!? 気になるあの子が一段とデスペラードに変身!?」

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