和して同ぜず

熊山賢二

本編

 和して同ぜず


 裏社会では毎夜抗争が繰り広げられていた。いくつもの組織が興っては消え去り、まれに生き残ったものが歴史ある巨大組織を潰すこともあった。その中で、最後まで生き残った組織があった。その組織こそが闇を牛耳るただ一つになり、裏社会の組織といえば唯一それだけを指し、故に名前はなく、ただ裏組織と呼ばれた。


 裏組織の構成員の中でも、第三部隊の部隊長はめまぐるしい成果を上げていた。その部隊長はとにかく協調性に優れ、部下や上司との連携が強かった。もちろん同じ立場の同僚たちの関係も良好で、組織としての強さは彼のおかげだと言えた。


 裏組織の地位が確固たるものになってきた。もう誰も逆らう者はいない。ここらででかいことをしよう。幹部の一人がそう言い出し、反対意見もなくこれからの方針が決まった。今までは100%合法のカジノや護衛などで稼いできた裏組織。珍しく犯罪を犯さないクリーンな組織だった。


 ようやく裏社会の組織らしくなってきた。これからやる事業は奴隷売買だ。女子供をさらってそれを欲しいやつらに売りさばくのだ。100%違法である。


 裏組織の末端たちも反対意見はなかった。今じゃ敵なしの組織だ。派手にやっても問題ないだろう。そう考える者が大半だった。もちろん部隊長も例にもれず賛成をした。


 「でかいヤマだ。信頼できて実力のある者に任せたい。やってくれるか」


 「必ずや成功させてみせます」


 部隊長は幹部から奴隷売買の販売ルートの開拓と入手経路、警察や政府高官の口止めなどの全てを任された。


 部隊長はまず、国内の資本家連中でそういう趣味のありそうな人物と接触した。彼らが言うには奴隷売買は実は細々とではあるが、今でもあるらしい。しかしあまりにも市場が小さく、欲しい奴隷がめったにでてこない。裏組織が市場を大きく、品ぞろえを豊富にして優良な奴隷は優先して自分たちに売ってくれるというなら喜んで協力するという。


 これで国内の販売ルートは確保されたも同然だ。彼らの力があれば秘密裏に港から船が出せるし、ヘマをしないように徹底はするが監視カメラに映ったとしても、もみ消しだって容易にできる。それから何人かの資本家の伝手で、政府の有力者にも話しをつけることができた。渡りに船だった。


 海外の販売ルートも開拓しなければ。これは少し難航した。地元の裏の社会はまとまりがなく、日夜争いがあって勢力図もぱっとしない。しかたなく第三部隊を投入して争いを集結させた。そこでの裏の社会の代表となったマフィアは裏組織の参加という形になり、かなりやりやすくなった。奴隷売買の計画は紆余曲折あったが着々と進み。ついに商品を大量入荷して、初の売買を記念して大規模なオークションを開催することになった。


 「ここまでよくやってくれた。裏組織もさらに力をつけるだろう。この成果をもって君は幹部へ昇進も決まった」


 「ありがとうございます。これからも励んでまいります」


 部隊長は幹部へ昇進が決まった。とてもめでたい。とてもうれしい。第三部隊のみんなも喜んでいる。オークションに出品されている女たちの顔は暗い。部隊長の顔は凪のようだった。凪のようでいてその内は激しく荒ぶっていた。今まで抑えていたものが爆発する。


 銃を取り出し、目の前の幹部に突きつける。そしてすかさず引き金を引いた。放たれた銃弾は真っ直ぐ進んで額の中心を寸分違わず貫いた。部隊長の突然の行動に部隊の人間は誰も反応できなかった。場が一瞬静まり返る。なにが起きたのか理解できる者はいなかった。


 特大の轟音が響く。会場に仕掛けられた爆弾が起動したのだ。それも、商品たちには被害がないようにされたものだ。反面、客席への被害は甚大だった。大量の血が四方八方に吹きあがり、肉が粉々に散らされていた。この惨状を作り出した下手人は明白だ。幹部を殺した部隊長に違いない。この場にいる裏組織の人間は誰もがそう思ったが現実を受けいれるには、時間が短すぎた。


 部隊長は裏組織への忠誠心が高かった。闇の世界にあって、外道の手段を一切取らなかったこの組織が好きだったのだ。はみ出し者の自分に残った数少ないはみださなかったものを、裏組織は守らせてくれていた。それを裏切った。


 人間は生きている限り人の道をはずれちゃいけない。たとえ犯罪者になったとしても外道にだけはなっちゃいけないと、部隊長は誓いを立てていた。


 外道になった時点でそこで終わり。救う術などない。上層部が今回の計画を持ち出した時は止めることも考えたが、それは早々に諦めた。すでに幹部連中はどいつも腐っていた。誰も反対意見を持つ幹部がいなかったのだ。臭い。死体のような、腐敗臭を感じた。生きている人間が発してはいけない外道の臭いだ。介錯が必要だ。しかもこの臭いはこの国にいくつもあるようだ。まとめて始末しなければ。部隊長の決意が決まった。


 それから人知れず計画を進め、外道が一か所に集まるこの日を決行の時とした。無実の人たちには被害がないように爆弾を設置した。出入り口も封鎖して逃げられない。後は自分自身の手で、爆弾の射程の外にいる腐敗したゴミを片付けるだけだ。さぁ、もう一息だ。掃除を再開しよう。


 隠していた機関銃を引っ張り出して、狙いを定めて、引き金を迷いなく引いた。

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