第2話 それは秘密です!!

「主従契約?」



 前回のあらすじ。

 チャラ男に幼馴染を寝取られてひそひそ泣いてたら、同じクラスの美少女に話しかけられたよ。


「そう、私貴男の生態にとーっても興味があるの」

「ハァ?」

 相変わらず嫌味なヤツ。


「小中はそこそこ友達がいた癖に、高校に上がった途端キョロ充まっしぐら」

「夏を越えてからは存在すら認知されなくなりクラスの端で窓の外を眺める生活」

「文化祭の時も適当に作業して本番はブッチ、打ち上げも呼ばれず冬休みは家族サービスでずっと引きこもり、初詣では妹に兄の死を祈願される始末、バレンタインも義理チョコすらゼロ、二年に上がってもお変わりなくお過ごし」

「(何?新手のドM向け言葉責め集??)」


「気になるの、貴男は何のために生まれて何をして喜ぶの?」

「分からないまま終わるのなんて、そんなのは嫌でしょう?」

 お前は邪悪なジャムお〇さんか。


「だからって主従関係なんて・・・ほっといてくださいよ!」

「一度きりの高校生活、捨てちゃうんだ」

 にやける目元口元、怪しい企みを持っていそうな雰囲気。


「実は私ね、特殊能力があるの。だから貴男を下僕にしたい」

「???」

 多分彼女は魔女で、僕に混乱の魔法をかけている。


「それは人の心が読める能力」

「はぁ」

「信じてない?そうよね、でもそれが真実」

「それとこれと何の関係があるんですか?」

 僕は拗ねながら口を窄ませると、彼女は見開いた眼球をこれでもかと飛び出させゆっくり接近してくる。



「―――どうしてか、旭の心だけ読めないのよ」



 まるでバトル漫画のワンシーンを思わせる凄みと距離、ゴゴゴゴという効果音がこの薄暗い空間に流れ始め、汗がたらっと蟀谷を擽る。


「普段は意識すれば他人の心―――深層が覗ける」

「告白してくるのに支配してやろうだとか、嫌いってツンケンな態度をとる癖に本当は大好きって感情を抱いてて、でも相手は気づかず誰かに好意を寄せてるのに気付いたり」

「楽しいけど―――煩わしい力、ある意味呪いね」

 首筋に吐息をかけてきながら、秘められた秘密を晒しだす。


「でもある日、考えていることが全く分からない人を見つけた」

「それが僕ですか?」

「そう、今も昔も、予想も出来ない」

 白磁のような指先で顎のラインをなぞってくる。

 今なら能力を使わなくとも簡単に見通されてしまうだろう。


「欲しかったのよ、何を考えているか分からない優秀な下僕が」

 夏だというのに煽情的な黒タイツのおみ足がゆっくり寄ってくる。

 半袖真っ白のセーラーからはこの世のものとは思えない良い香りが漂ってきて、もう辛抱たまらんばい!


「下僕は嫌ですし、僕は一人が好きなんです。彼女は欲しいけど」

 据え膳食わぬはなんとやらに二の足を踏む天邪鬼。

 素直になるのに抵抗がある性質の思春期ボーイ、流行のジャンルを嫌うアウトサイダー。



「小学五年生、体操服」



 突然耳元で呟く聖良乃。


「なにっ」


「中学一年生、海水浴、水着」


 そこまで言われハッと気付く、黒歴史の数々。


「高校一年生、夏休み、盗―――」


「ヤメテ!!」


 思わず声を荒げ彼女の方を向くと、ガチ恋距離過ぎてビビる。


「っ」


「これは貴男がお墓まで持っていくベき生き恥、だけど私は知っている」


「それでも逆らうの?妹に欲情した夏目旭くん」


「(ひ~っっっ!!何で知ってんだよ~~~!!)」


 生粋のドSのような振る舞いで不健全な少年の矮小な精神プライバシーをガジガジ侵す聖良乃。


「わかりました!なんでもしますから絶対誰にも言わないでください!」


「よろしい、それにしてもここまで心を乱して読み取れないなんて」


「心を読み取るために揺さぶったんすか・・・」


「ふふっ、納得させるためだから許してね」

 茶目っ気たっぷりにウィンクする美少女梁山泊出身者。

 普段教室で見ることのない、本心からくる笑顔に見えたのは気のせいだろうか?


「んで、これから何をすればいいんですか?」

 この一言を待ってましたと言わんばかりに説明形態に移る聖良乃。


「知っての通り、神宮寺聖良乃は容姿端麗頭脳明晰成績優秀の超お嬢様」

 えっへんとドヤ顔で胸に手を当て自己申告してくるヤベーヤツ。


「お友達もたくさんいるわ。でも件の能力のせいで疎かにしちゃう意思疎通」

 人の心が読めるということは常に最良の選択ができる反面、何の面白みも感じない無難なやりとりを目指してしまうのかもしれない。

 見え過ぎるから相手に合わせ気を遣わないといけないだろうし、ストレスも溜まるのだろうか?


「それで僕と友達になりたいと?」

「違う、私が上!旭が下よ、勘違いしないで」

 プライドがあるのか氷のような眼差しで指差し確認。



「いついかなる時でも私に従う!」

 ルールその1といった感じで指を立てる。



「次にこの関係を同級生に知られていけない」

「接触は常に私から、不必要な会話は控える」

「折角主従関係を結んだのに?」

「人の気持ちは特に―――嫉妬や負の感情に支配されやすい、他人が私達の関係について邪推するのを考えたくないし、知りたくもない」

「それに秘密を共有するのって、ロマンチックじゃない?」

 大人っぽく口元を緩ませるが発想は少女漫画レベル。

 意外と乙女な部分もあるんだろうな。


「土日祝もどうせ暇でしょ?私からの呼びかけにはすぐ応じてね」

「(もしかしてデートっことですかい!?)」

「言っておくけどデートだとかそんな親密なアレじゃないから」

「(心読めてるだろ!)」

「あくまで荷物持ちとか―――憂さ晴らしの相手になってほしいだけ」

「サンドバッグ?」

「ええ」ニッコリ

 可愛い顔して悪魔だぜ!


「あとはまぁ・・・都度追加?」

「契約はいつまで有効??」

「私が満足するまで」

 聖良乃の顔つきが変わる。



「これはね、私にとっても大事なことなの」

 降り頻る雨雲を見上げ、寂しそうに語る。



「この能力のせいで本気で人と親交を深めたことがなかった」

「けれどね?貴男が目の前に現れてチャンスが訪れたんだなって」

「能力なんて使わくても人の気持ちが理解できるようになりたい」

「・・・」

 僕は彼女の横顔を見つめる。


「もし何かの弾みで嫌われたらどうしよう、いきなり好意が不満に変わったら?」

「気になる男子ができて中身を見てくれなかったらどうしよう、知るべきではない心の声を知ってしまったら?」

 流麗な細首の喉仏がクンと胎動した。


「それでも・・・私がどんな選択をしても、貴男の選択は貴男だけのもの」

 この微笑の裏には不安や焦燥感が溢れているんだろうな。


(あの神宮寺聖良乃でも悩んで、色々辛いことがあったんだなぁ)

 既に人をおちょくる態度や不審な情報源で僕の評価は下がっていたが、こんなこと言われたら協力せざる終えない。


「あとは・・・へりくだって賺したり煽てたり、ご機嫌取りは必要ないわ」

「もし喧嘩したら?」

「気分がよければ反省、気分が悪かったら秘密をバラす」

「勘弁してください」

 あははと乾いた笑いが木霊して、沈黙が訪れる。

 でもこの沈黙はやらかしたタイプのアレじゃなくて、寧ろ心地の良い初めての体験。

 よくよく考えればこの状況は僕にとってもチャンスなのでは?

 毎日惰性でターン消費するくらいなら、美少女にこき使われたい。



「・・・いいよ、下僕になる」



 何とも変態チックな文言だが、これでいい。


「貴男の了承は関係ないけどね、だって決定事項だし」


「でもまぁよろしくね?空気くん」


「空気くんはヤメテ」


「ふふっ」


「それじゃあ早速―――」


 旭はゾンビ状態から幾分か回復し、傘に当たる雨音に心躍らせながら深呼吸。

 夏の湿気た空気、土とコンクリートの臭い、それに混ざる聖良乃の匂い、五感全てをフル稼働させ、この瞬間を噛み締めた。



「帰ろう」



 やましい気持ちなんてない、純粋なとしての行動。


 彼女は呆けたようにボーっとし、何故かツボにハマったのか腹を抱え笑い始めた。



「笑うところ?」



「いいえ!やっぱりこころ、読めないなって!」



「?、どう意味?」



 不思議がる旭の手をそっととる聖良乃。





「楽しい毎日が、始まりそうってこと!」





 彼女がゆっくり立ち上がり、目尻の涙を拭った瞬間、





「あっ、晴れた」





 あれだけの雨雲はどこかに吹っ飛んでしまい、ただただ青空だけが広がった。





 ♦♦♦♦


 今回はここまでです、読んでいただきありがとうございます。

 ほぼ毎日更新でやろうと思いますので、明日もお楽しみに。


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