死神と死にたがり

ユキ

第1話 死神 シオン

幸せとは人によってそれぞれ違う。当たり前だ。

皆、等しく与えられるはずなのに、私にとってのそれはつい先日、音を立てて崩れた。神様は意地悪だ。

 

こんな世界に私だけ存在しても意味がない。そう思って、屋上の柵を越えた。

思ったより風が強くて身体をもっていかれそうだ。

 よし、これなら確実に死ねる。この世に未練はない。そう思い私は身体ごと宙に投げ出した。

 

 

 本来、私はここで死ぬはずだった。しかし、 気がつくと誰かの腕の中にいた。

 

 「危ないなぁ、こんな高さから落ちたら間違いなく死ぬよ。それとも死にたいのかな?」

 月明かりの中、その人は不敵な笑みを浮かべた。

 

 「誰か知らないけど、手を離して。私は死にたいの!生きている意味ないんだから。」

 その人は宙に浮いたまま私を抱き抱えて、黙って話を聞いていた。

 

 「ふーん。僕、死神のシオン。」

 あ、人の話聞かない系の人だ……。でも、死神ってことは私死ねる?

 「死神が来たってことは私、遂に死ねるの?」

 私は身を乗り出して聞いた。

 

 

 死神はバツが悪そうにそっぽを向いた。

 「あー、残念。手離せないんだよね、人間の

死に関わったらダメなんだよねー。あ、そもそ

も、死のうとしてるのも助けたらダメだったのか

も……」

 まあ良いか。そう言うと、その死神は私を屋上の柵の内側へと降ろした。

 

 「よっこいせ。で?なんで死にたかったの?

 お兄さんにも教えて?」

 死神は、私の横で腰を下ろすと、まるで恋バナでもするかのように軽い口調で聞いてきた。

 

 「なんで話さなきゃいけないの?」

 もちろん、私は警戒心をあらわにした。

 

 「死神って案外しょぼいのね。人でさえ人を殺せるのに。死神の仕事って何するの?」

 

 少しバカにしたような口調で怒らせて、本性を暴こうとしたら失敗した。おまけに次の言葉で拍子抜けした。


 「僕に興味あるの?嬉しいな。でもね、少し違うかな、仕事であり罰なの。」

 

 文面だったらおそらく、最後に笑笑がついてきそうなほど、軽い口調のように聞こえた。

 

 「なんで、私にそんなこと教えてくれるの?」

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