第7話 スパゲッティと隣人
隣人の彼女(推定ヒトエさん)をソファーに寝かせて、コーヒーを一口飲んで……これからどうするか。
ふと、私は朝からほとんど何も食べていないことを思い出した。確かに喫茶店を出た辺りでかなりお腹が空いていたので、何か食べようと思っていたのだが、先程の出来事ですっかり吹き飛んでいた。
とりあえず、佐須杜さんがいらっしゃるまでに少し遅い昼食でも食べようと思う。
冷蔵庫を開けて何を食べるか思案する。玉ねぎが2つ、人参が3本、キャベツ二分一、しいたけなど。保存食を入れている戸棚にはシーチキン、トマト缶、そしていつ購入したのかもわからないオイルサーディンの缶があった。
パスタばかり食べている気がするが、簡単で美味しいから仕方がない。キャベツとオイルサーディンのスパゲッティにしよう。鷹の爪も常備しているので、少し辛くしても良い。にんにくは……一応女性がいるし止めておく。
大きめの鍋にたっぷりの水をいれる。1.6mmのスパゲッティだと一人分は100g。今日はお腹が空いているので、130g茹でてみようと思う。
そのようにしてスケールでスパゲッティの量を測っていると、ソファーの方から女性の声がした。表示されている『127g』という文字から顔をあげると、起きたらしい隣人の彼女と目が合う。
「……おはようございます」
「あ……どうもです」
とりあえず挨拶をしてみたが、彼女は完全に覚醒しているわけではないようだ。夢と現を行ったり来たり。しかし、このまま放置しておくと最悪の状況で覚醒し、私が通報されてしまうかもしれない。
「もうすぐ佐須杜さんがいらっしゃいますので、少々お待ちいただければと思います」
「あ、何を作っているのー?」
私の話を聞いているのか聞いていないのか、噛み合わない返事をしてくる。
「スパゲッティです。もしよろしければお食べになりますか?拙い男の手料理になってしまいますが」
「いただきますー」
彼女はそう言ってゆっくりとソファーに倒れていく。再度眠ってしまったようだが……一応、二人分作ろうか。余ったら私の夕食にすれば食材を無駄にすることもない。
再びスケールの表示に向き直り、今度は『230g』の値を目指すことになった。
誰かに食べて頂くとなれば多少はきっちり作るべきだろう。
アルデンテ、乳化……そういった知識が頭をよぎるが、所詮三十路の手料理。偶然そのような事象が発生すればラッキー、そういう程度に考えよう。少なくとも比較的新鮮な食材を使っているのだから、極端に食べられないようなものになることはない。
そういうわけで、何となく気を使いつつ、割合良い感じのスパゲッティが完成した。盛り付けもトングを使用してしっかり綺麗に見えるようにする。多少なりとも頑張ってみて、これで彼女が眠っていたら少しだけ悲しいかもしれない。
しかし、匂いに釣られたのか彼女はムクリと起き上がる。もっともその目は多少うつろでぼんやりとしているので、まだまだ完全な覚醒には遠いようだ。
「冷めないうちにどうぞ」
彼女の前のテーブルにお皿とフォークを置く。私は彼女から見て右斜前のところに座る。クッションはすべてソファーの上に転がっているので、ラグに直で座ることになるがあまり気にならない。
「わあ、手料理なんて久しぶり……いただくね」
とりあえず、食材を無駄にするとか、私が二人分の炭水化物を腹に入れることを心配しなくても良いようだ。
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