第4話 初仕事


僕は慌ててギルドを飛び出し村長さんの家を左に曲がり突き当たりまで走った。

そこには半円で高さ3m幅5m程の土で出来た大窯があった。

多分この隣の家が炭焼き職人のヘンリーさん家だ。


ドアをノックして「おはよう御座います。ヘンリーさんいらっしゃいますか?」と声を掛けた。


「見慣れない子供だね。誰?」


「はじめまして。僕はダイチと言います。ギルドの紹介でお手伝いに来ました。」


「あ、あの噂の迷い人さんだね。午前と午後2回行って一日4000ギルだよ。良いの?」

「はい、それで構いません。初仕事なんですがよろしいですか?」


「何、簡単な仕事さ。いつもは女房と行くんだが今は身重で手伝いを探してたんで助かるよ。ちょっと準備してくるから待っててね。ダイチ君だっけ?水筒は持ってる?」

「いえ、何も持っていません。」

「OK分かった。それじゃ君の分も用意するから10分待ってくれ」


しばらくするとヘンリーさんは竹水筒2つと斧や鉈を持って家から出て来て小屋に向かった。

荷車を出し、僕に後ろから押すように頼んだ。

「これが君の分の水筒。喉が渇いたら直ぐに飲みな。雑木林までは30分くらいさ」

そう言いながら村の門を出て右手の林をトコトコ荷車を引いた。


「到着、この原木はクナラって言うんだけど成長が早くて助かるんだよ。私が斧で木を倒すから君はそれを一箇所にまとめて枝打ちしてくれるかい?」


「枝打ちってどうやるんですか?」

「この幹から出ている枝をこうやって切り落として纏めるだけだよ。幹は幹。枝は枝で纏めて置いて、後で選別するから」

「分かりました」


ヘンリーさんは斧を持ち直径5〜10cm高さ3m程の木をどんどん倒していく。

僕はその木を集め枝を打ち落としていく作業を一時間程行った。

「休憩、ダイチ君少し水でも飲んで休もうや」


竹の水筒の口を開けゴクリと水を飲んだ。

「く〜こりゃ美味い。ほんのりと竹の香りがして喉に染み渡る。風呂上がりの冷えたビールのようだ」


「ダイチ君ビールって何だい?」


「え、そんな事言いました?まだ記憶が混濁していてたまに変な事、口走るみたいなんですよ。すいません。」

「へ〜まだ記憶が戻ってないんだ。色々大変だろ?いつまで村に逗留するんだい?」

「記憶が戻れば色々選択肢もあるかもしれませんが、1〜2ヶ月はこちらで生活してお金を稼ごうと思っています」


「そうか、何もない村だし退屈かも知れないがゆっくりしていってよ。この辺りは強い魔獣は少ないし、初心者がレベル上げするには比較的安全だよ」


「そうですね。折角冒険者になったのに直ぐに死んでしまったら元も子もないですしね」

「それじゃ幹と太めの枝は荷車に積んで細い枝はそのままにしておいて。細い枝はまた午後仕事終わったら使うからね」

それから二人で積荷の作業をして荷車を引いて村に帰った。


ヘンリーさん宅にに着くとお昼を過ぎていた。

奥さんは「粗末な料理だけど食べて行きなさい」と言ってくれたので一緒に食事をした。


細長いロールパンにソーセージや野菜が挟んであり甘辛いソースが絶妙だった。

30分程休んでから又行くと言われたので、水筒の中に水を入れ家の前で腰を下ろしてプレートを触ったみた。

魔力と言うのか何となく気を込めたら目の前にステータス画面が浮かんだ。


ダイチ・クゼ  15才  Lv1

職業 冒険者【Z】

HP30

MP20

下の方を覗くとスキル 

Lv1【インベントリ】と言うのが目に入った


このスキルって何だろうって思いインベントリを唱えると目の前に黒い〈モヤッ〉とした空間が現れる。


正直怖かったが水筒を恐る恐る突っ込んでみると、水筒が消えてしまった。


直ぐに、借りた物なのにやばいって思い慌てて又手を突っ込んでしまった。 


すると水筒がまた出て来た。

こりゃスゲ〜って思って、また手を突っ込んでしまった。


(好奇心が優先し後先考えない行動で、まるで子供の様だ)と感じてしまい苦笑いした。

手の中にジャリっとした感覚があり掌を覗くと金貨と銀貨が数枚有った。


思わずガッツポーズして立ち上がり、両手を左に右に交互に上げ、足も交互に手と反対に上げる変な踊りを数分間していると、道行く近所の人に笑われた。


俺もう働かなくて良いんじゃねぇ!?

等とよこしまな考えをしつつ、もう一度手を突っ込んでみる。


すると—何も掴めなかった。

手をグリングリン回しても同じだった。

の様に何でも出て来るポケットなんて有りはしなかった。

虎えもんって何だっけ!?


直径1.5cm程の小さな丸い金貨5枚と、直径2cmぐらいの銀貨10枚が今回の収穫だ。


幾らかは分からんが、これで今日の宿代の心配は要らないだろうし、雑貨屋さんで武器とか防具が買えるかもしれないと思うと、ニンマリしてしまう。


「何、ニヤニヤしてるんだい?もう出発するよ」

「いや〜何でもありません。さあ行きましょう」


午前中の雑木林より少し奥に着いた。

腰を下ろし片足を地面に付け同じ様に枝打ちしていると、お尻に激痛が走る。


「フギャー、イタタタァ、タァ」


後ろを振り返ると額に5cm程の角を生やした赤い目の兎がいた。

角には血が付き、目も赤く俺を睨んでいる。

「この野郎、俺のぷりケツに何しやがった?ぶっ殺してやる」


俺は鉈を大きく振りかぶり左から振り落とした。

兎野郎はニヤッと口元を緩め、左に跳ねて躱しやがった。

まるでそんな攻撃見え見えですよ、と言いたげな表情だ。

今度は振りかぶりを小さくして攻撃しようと考えていたら、又お尻に衝撃が走った。

「痛っ、ななななんて日だ」


なんと後ろにもう1羽兎野郎がいやがった。

どうやら挟み撃ちにされているようだ。

兎のくせに連携プレーとかズルいぞぉ。


ちょっと頭に血が上りつつも左側に回避して、2羽の姿が見える位置で小さく何度も左手で鉈を振り下ろした。

かれこれ20〜30回は振っただろうか!?

僕の足元には血を流した兎野郎が横たわっている。

正に激闘だった。


「ダイチ君大丈夫かい?あ〜あ、こりゃこりゃ大変だったな。まるで殺人事件の現場のように血が飛び散っている。これは一角兎。この辺りじゃ一番弱い魔獣だな」


「え?これが一番弱いんですか?」 


「まあ冒険者なら簡単に倒せるんだが、最初だからドンマイだよ」と慰められた。

「お尻やられたの?傷薬あるけど使うかい?塗れば直ぐに血も止まり治るさ。お尻だしてご覧」

「いや〜流石に恥ずかしいので自分で塗りますよ」

「そっか、じゃあ少し水でも飲んで休憩しよう。俺がその間に一角兎の血抜きをしてあげるよ」


プレートに手を翳してステータスオープンしたらHPが20/30になっており10も減っていた。 

恐るべし兎野郎め。

ヘンリーさんから貰った傷薬軟膏をぷりケツに塗ったら血も止まり直ぐに回復した。


ヘンリーさんは兎の首を切り逆さまにして、足をロープで縛り荷車に吊るした。

僕の鉈を手に取り「クリーン」と唱えると血が消えて綺麗になった。


「今のは何ですか?」

「これはクリーンと言う生活魔法。身体とかも綺麗になるよ」

僕も自分の顔にクリーンを唱えてみた。

汗も吹き飛び綺麗になった感じがした。


「おお、で、出来ましたよ」

「おめでとう、ダイチ君」


ダイチは初めての魔法クリーンを覚えた。


その後一時間程で木の伐採が終わり荷車に積み込んだ。

「じゃあ最後の仕事、ぎ木をするよ。残った細い枝を、伐採した木の断面に鉈で切り口を作り刺すんだ。刺しながら魔力を少し込めるとくっつく。ほらもう引っ張っても抜けないだろ。ダイチ君も試しにやってご覧」

「本当だ。不思議ですね」

「こうやって接ぎ木して置くと、数ヶ月でまた同じくらいに伸びてくるんだ」

調子に乗って15本くらいやったら気持ち悪くなった。

「ああ、それは魔力切れだね。10分程休めば段々具合も良くなるさ」


少し休んで荷車を押しながら村へ戻って来た。

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