第7話 風鈴少女まで現れた

付喪神社周辺 夜


 時刻は午後八時。すっかり太陽も沈んだ頃。神社裏に広がっていた雑木林の中で、俺達は風鈴少女を探していた。


「うーん、なかなか見つからないな…スマ子、結構広いから迷うなよー」


「私にはマップがありますのでご安心ください、ご主人! そちらも、転ばないようにご注意くださいねー」


「ははは、そんなまさか。子供じゃあるまいし何もない場所で転ぶわけ──」


 つるっ。


「オア"ァァー!!」


「ご、ご主人ーー!?」


 足元に転がっていた固くて丸い物のせいで、派手に転んでしまう。雑木林とはいえ、神社の近くにポイ捨ては罰当たりすぎだろう。


「いってぇ…なんなんだよ、もう」


「どうやらこれに躓いて転んでしまったみたいですね…大丈夫ですか?」


「よっと…ありがとな、スマ子。にしてもこれなんだ…?」


 土にまみれた何かをスマ子が拾い上げた、次の瞬間。それは突如、眩しいくらいに光始める。


「うおぉ!? なんのひかりぃ!?」


「わ、私にも分かりません~!?」


 やがて光が落ち着いて、ゆっくりとその方向を見る。


 ─するとそこにいたのは、地面まで垂れている銀色の髪を持った、翡翠色の瞳に大きな目が可愛らしい美少女。間違いなく、梅さんから聞いていた情報と合致する姿だった。

 勝手に日本人形みたいなイメージを抱いてしまっていたが、全然違う。むしろ、西洋の城に住んでいそうな雰囲気だ。

 でも、服装は浴衣。おそらくは風鈴のデザインだったであろう、川のせせらぎをモチーフにした模様だ。とはいえ、今は土で汚れてしまっているが。

 

(…案外近くにいるじゃねぇか!?)


「…んぅ? な、なんじゃ、お主ら…?」


「…!! こいつ、もしかして…!」


「そうですよ、ご主人! きっとこの子が…!」


 その喋り方、雰囲気。そして少なくとも50~60年以上は生きているという事実。

 俺の頭には、とある結論が導きだされていた。そう、この少女こそ…!


「伝説のロリババアなのか!?」

「風鈴の付喪神さんですよ!」


「…はい? ロリババア?」


 俺の言葉を聞き返してくるスマ子。

 伝説の生き物といえば、ペガサス、ツチノコ、ロリババアの三体が有名だ。

 全て存在しない、架空の生き物。しかし、それを求めて人々は世界を調べ、時には争いだって生まれた。


 そんな伝説の存在が、今…!!

 目の前に、いる!!


「…うぬの言っていることはよく分からぬが、われはフウリ。確かに風鈴の付喪神じゃ」


「…!! のじゃ、ロリだと…!? ばかな、そんなことがあって…!?」


『スパァァァァン!!』


 本気で驚いていたところに、スマ子からのお仕置きが飛んでくる。おかげで、だいぶ思考が冷静になれた。


「…えっと、初めましてフウリさん! 私はスマ子で、こちらは私のご主人です!」


「ハジメマシテ、フウリサン」


「なんじゃ、騒々しい奴らじゃな…しかし、なぜわれはここにいる? 既にこの身から、力は失われたはずなのじゃが…」


 不思議そうに自らの体を見始めるフウリ。どうやら人間の姿にはなれないと思っていたらしいが…何が起こったなんて俺にも分からない。


「…あれ? あの、私達って何処かでお話ししたことがありましたっけ…?」


「うむ…? いや、そうじゃな…確かに聞き覚えがあるぞ。その声…いつぞやの鉄のからくりか?」


「え、なんだなんだ? 二人とも接点があったのか?」


 まるで、一度会ったことのあるような二人。そういえば中学生の頃にアキュホン7を買って貰った際、父親に一度だけここに連れられたこともあったが…もしや。


「あ、思い出しました!! あなたは、四年前に聞こえた謎の声さん…!?」


「…この力、確かにわれが託したものじゃ。しかしなんじゃ、こやつのパワーは。どれだけ持ち主のことを好いていれば、こうなるのじゃ…?」


「…????」


 俺だけ置いてけぼりで話が進んでいく。それを見た二人は、分かるように説明してくれるのだった。




~かくかくしかじか~




「…なるほど。つまりはフウリから受け継がれた付喪神パワー(?)が俺のスマホに自我を芽生えさせ、スマ子が生まれた。んでそれがあまりに強力すぎるからこそ、スマ子に触れられたら付喪神パワーが逆流してフウリが目覚めたと」


「うむ、われながら訳が分からぬな」


「ほんとだよ!? どういうことなの!?」


「スマ子の愛がご主人にバレてしまうなんて…! きゃっ、恥ずかしいです!」


「…………」


「…ご主人?」


「アーシアワセダナー」


 深いというか、重いというか。素直で話していて楽しいのは本当だが、見た目がどストライクすぎるので直視するのはつらい。いろいろとつらい。


「…それで、なんで梅さんに一言しか話さないでいなくなったんだよ」


「…むう。やはり梅絡みの問題じゃったか。とはいえ、われは何もしてやれぬ。廃れ行く神社に、あやつを縛り付けるのは…」


「あ、それなら大丈夫です! 私がばっちりと呼び込みをしましたので、知名度もアップしております!」


「…なんじゃとぉ!?」


 落ち着いた雰囲気から一変、オーバーなほど驚くフウリ。やはり長年の悩みだったのだろう。それが解決しているのなら、梅さんとも話してくれるはずだ。


「とりあえずさ、付いてこいよ。すぐ近くだから見れば分かるだろ?」


「う、うむ……分かったのじゃ」


 こうしてフウリと一緒に付喪神社へと戻っていく俺達。きっと梅さんとも仲直りが出来ると信じて、歩を進めていくのだった。

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