第7話 なんか…涙出そうなんだけど…

 初投稿を終えて、すぐにフォロワーから

「いいじゃん!俺の方でも投稿させてもらった!」

とメッセージが届いた。


と同時に、僕が投稿した曲にアイテムとコメントまでくれた。この人は本当にマメな人だと感心してしまった。


 その後、僕もフォロワーのところに、聴きに行った。当然だが、僕が投稿した曲と同じものだから、彼のところで聴いてるのに、僕の声が入ったものだ。気恥ずかしいやら、申し訳ないやら、複雑な気持ちでいっぱいになってしまったが、僕は彼のところにアイテムとコメントを届けた。


 しばらくすると、僕の投稿した方に何人かからコメントが付いた。そのほとんどが、彼のフォロワーたちだったが、

「〇〇のところから来たよ。君も上手いね!」

「いい声だ」

「フォローしたよ」

などなど、そのどれもがこんな僕の歌声を褒めてくれるコメントなのだ。


 正直、リアルタイムで褒められることがほとんどない僕は、褒められ慣れていないため、コメントの内容を素直に信じられないでいた。


きっと、初めて投稿したって言葉で、気を遣ってくれているんだと思ったのだ。どんだけ僕は、心が荒んでるんだ。

素直に受け止められていないのに、心のどこかでは嬉しくて、「初心者への配慮」と思う自分と「僕の声、自分が思ってるより悪くないのかな?」と思う自分が混在していた。


 僕は、もらったコメントに返信をしながら、素直な気持ちで「ありがとう」と返していた。社交辞令かもしれない。けど、やっぱりコメントの中の文字たちは、僕の心を喜ばせてくれている。それに対しては、自分でもビックリするくらい素直に感謝の言葉が浮かんできた。


 僕のところに一気にフォロワーが増えた。

最初にフォローしてくれた彼が、

「時間があったらでいいから、フォローしてくれた人の曲も聴いてみるといいよ!君の好みに合う人もきっといると思うから」

とメッセージでアドバイスをくれた。


なるほど!


確かに、自分がフォローする前に、相手の曲も聴いてみた方がいいかもしれないと僕は思った。そして、アドバイス通り、ひとりひとりの曲を聴きに行った。想像以上にみんな上手くて、そのほとんどが、僕好みの声だし歌い方だ。


 僕は、時間も忘れて、フォローしてくれた人たちの歌を聴きまくった。時計は、深夜1時を過ぎていた。明日は(いや、もう今日か?)9時からリモート会議がある。遅れるわけにはいかないのは、分かっていたが、「出社するわけじゃないんだから、多少寝坊しても間に合うだろう」と思い、ずっと曲を聴き入っていた。


 曲を投稿し、他の人の曲も聴く。お互いが聴き合って、交流していく。これが本来の【音楽世界】の愉しみ方なのだろう。そんな本来の愉しみ方から目を背け、たった一人のフォロワーの曲ばかりを聴いていた僕。


そう。そんな僕が、ついに曲を投稿したことによって、新しい扉を開いてしまったような気がした。現実社会では味わえない、優しい言葉の数々。


なんか…涙出そうなんだけど…

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