第6話 ついに!投稿してしまった!

 僕の唯一のフォロワーから、色々教えてもらいながら、彼の曲を毎日聴きに行くという生活が、僕の生活リズムになって数日が過ぎた。相変わらず、僕は投稿は出来ない。なんせ、僕が聴いているそのフォロワーの曲は、どれも僕好みで、聴いているだけで、僕なりの【音楽世界】の満足な使い方になってしまっていたからだ。


 何より、コメントをして返事をもらい、またそれに返事をする…というのが楽しくて、つい、自分が投稿するという、おそらくこのアプリの本来の目的である行為から外れた愉しみ方を満喫してしまっていた。


 そんなある日。

そのフォロワーから、「彼の曲が好きなら、一緒に歌わないか?」というメッセージが届いた。


一緒に歌う?


ここでまた僕の分からない状況が出てきた。すぐに「一緒に歌うってどういうこと?」と尋ねると、どうやら【音楽世界】には、ふたりで同じ曲を完成させる機能があるのだと教えてもらえた。


 そのやり方を教えてもらい、僕も挑戦してみようと思った。すぐに、メッセージで「私とコラボしませんか?」というメッセージとともに曲が添付されてきた。歌い方は、教えてもらった。カラオケで言うところの”デュエット”的な感じで、自分の担当箇所を歌えばいいのだ。


 僕はドキドキしながら、送られた曲を歌った。フォロワーは、さすがに上手い!その歌声の後に僕の声が続くのは、正直、公開処刑かと思うほどの出来だったが、それでもなんだかものすごく愉しかった。


1曲歌い終え、保存までたどり着いた。それをフォロワーに伝えると、

「じゃあ、そっちで投稿して!」

と返事が来た。

「えっ?投稿?」

僕がそう返すと、

「投稿してくれないと、俺の方でも投稿できないから」

と返ってきた。


そうなのか…


と考えていると、

「俺だって聴きたいから」

とメッセージが届いた。


そりゃそうだ。自分が作ってくれたコラボの音源なのに、僕が投稿しなかったらそれを聴くことができないのは、やっぱり嫌だろうなってのは分かる。


 でもこれを投稿したら、僕の声も投稿されるわけだよな?

と、当たり前のことなのに、なんとなく考えてみた。


僕は、かなり悩んだが、せっかくフォロワーがくれたチャンスだと思って、投稿することを決めた。


「そうそう!曲を投稿する時に、自分でコメントも打てるから、そこに何か打って投稿した方がみんなが読んでくれるよ」


ちょうど投稿ボタンを押そうと思っていた時に、フォロワーからメッセージが届いた。


 コメントか…確かにフォロワーの投稿曲には、毎回違うコメントがつけられていて、その曲の思い出だったり、苦労したところだったりがコメントを読むだけで分かるようになっている。それを読んだ後に曲を聴くと、さらに曲の良さが伝わってきていた。


僕は、コメント欄に、

「初めて投稿します。コラボしてくれた〇〇さん、ありがとうございました」

と入力し、大きく深呼吸を数回したあと、”投稿する”ボタンを押した。


ほんの一瞬の出来事だった。僕は…


ついに!投稿してしまった!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る