第2話 音楽世界の扉を開いた

 緊急事態宣言の期間中。僕のストレスは溜まる一方だった。テレビで、街の様子が映し出される。どこもかしこもシャッターが閉まった様子だ。それを見るたびに、

「日本は廃墟と化した」

そんなふうに思ってしまう映像だ。


 わざわざ、そんなの映し出さなくても、せめてもっと癒やしの映像とか、笑いの映像とかを多く流してくれたらいいのにとさえ思うほど、どこのテレビ局でも廃墟を映し出していた。


 そんなもん、見せられたらさらにストレスが溜まると思い、僕はテレビすら観なくなっていた。その代わり、リモートワーク中は、好きな音楽をめいいっぱい楽しもうと、最新曲を検索した。そして、愕然とした。


好きなアーティストたちが、新曲の発売を延期したため、最新曲なんてほとんどないのだ。もちろん過去に発売された曲を聴くのもいいけど、発売日をチェックしていて楽しみにしていたものが聴けないのは、ショックだ。


 好きな音楽さえ、自由を奪われている!


この現実に、僕の心はどんどんネガティブになっていった。そんな時だ。ちょうど仕事を早く終えることが出来た日に、「音楽がダメならゲームはどうだろう?」とアプリを漁ったのだ。


 音楽系のゲームアプリはないだろうかと、検索に”音楽”と入れた。そして、出てきたアプリの一覧の一番上に出てきたものに目が留まった。


【音楽世界】


そんなアプリ名で、説明を読むと、驚いた。それは、ゲームではなく、カラオケアプリだったのだ。自宅に居ながらにしてカラオケを楽しめると説明されていた。僕は、迷わずそのアプリをスマホに入れた。


 早速開いてみると、たくさんの人が曲を歌い、カバーとして投稿しているのだ。もちろん、オリジナルアーティストに比べたら「なんか違う」という人もいた。でも逆にオリジナルアーティストより耳心地がいい歌い方をする人もいるのだ。


 その声は、みんな音楽が好きでたまらない気持ちがこもっていて、僕をわくわくさせた。とはいえ、僕はここで実際に歌って投稿する…なんて勇気は出なかった。普段のストレス発散のカラオケは、その場のノリであったり、友達と一緒に歌ったりするだけだ。知り合い以外の人が、簡単に聴けてしまうところに自分が歌ったものを投稿するなんて、自信がある奴だけだと思っていたからだ。


 実際、ほとんどの人が上手かった。オリジナルを完コピしている人、自分なりに歌いあげている人、自信があるところだけ思いきり歌って楽しんでいる人。いろんな歌い方はあるけれど、「歌が好き、音楽が好き、カラオケが好き」という気持ちがあふれているものばかりだ。それは、聴いていて本当に心地よく、気付いたら楽しくなっている自分がいた。


 僕は、偶然見つけた【音楽世界】の扉を開いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る