第18話 秘匿としなければならない事実

ニルヴァーナの仲間であるリリアやホホヅキを一蹴させる程の武遍の持ち主レヴェッカとラスネール。 しかし彼女達以上のこわき存在の出現に狼狽うろたえるばかりでした。


「(くそ…っ、くそくそくそぉぉーーーっ!な、何だってんだい一体!)」 「(こ、こいつはどうしたって事だ?まるで手応えがねえ…ま、まるで―――そう、まるで“水”を相手しているみたいじゃねえか!)」


高位の吸血鬼ヴァンパイアともなると、その身を幾度も損傷されようとも驚異の速度で回復・再生してしまえる。 その手応えは余りにも“ない”―――どこか“水”を、“空”を相手しているかのようだった、捉え処のない相手を、相手としている様なものだった。 いくらレヴェッカが自慢の拳で打ち貫いても―――また、その拳に自分の気を乗せての攻撃…いわゆる『奥義おくのて』を行使したとしても効かない、ラスネールの斬撃や人狼に変化したとしても同じ事でした。


先程までは自分達がリリアやホホヅキに対してしていた事―――それが、めぐめぐりて自分達に返ってこようなどとは…


「おやおやおや―――もう仕舞いかい。 それにしても今まで好い様にしてくれたもんだよねえ、私が手の一つも出さないでいるのをいい事に、思いの丈この肉体をもてあそんでくれて…それに私の仲間である彼女達を甚振かわいがってくれて―――」


「(げ)ま、まさかこいつら―――」 「ああ゛? ―――?」

「あっ、いえ、この人達があなた様のお仲間だなんて知らなくて―――」 「おやおやおや、苦しい言い訳だねえ…お前達が彼女達をここまでにしたのは彼女達が現政権に弓引く者だと判ったからなんだろう?」 「ま―――まさか…あんた?!」

「おや、こいつはとんだ失態だ、バレちゃったよ…そう言う事さ、彼女達は私の同胞なかま―――現政権に弓引く者と同胞なかまと言えば…」


そう、『公爵』エルミナールも『叛乱軍』の一人…だけど、今の自分達ではどうする事も出来ない、いくら攻撃をしたところで(かすり)傷の一つも負わせないでいる化け物を相手にしていては。

それにエルミナールが吐露してしまった事実が“敢えて《わざと》”であると言う事も判りました。 だって……あんなにも微笑ニヤつかれては―――

だとて、だからと言った処でその吸血鬼ヴァンパイアの饗餐が中止になる事などありませんでした。


大変美味しく頂きましたごちそうさまでした―――フフフ…私に取り込まれた喰われた直後は皆そうさ、“抗い”“足掻き”“藻掻く”…けれど一頻ひとしきりそうした処で無駄だと言う事を知るものさ…エルミナールの様に―――ね…」


ヘレナが敢えて『大公爵』一族の中でもエルミナールを最後にしたのは、彼女がここ最近で最も活動的だからでした。 そう『活動的』―――積極的に強者を自分の城に招き、余すことなく血肉にしてきた、それに一族の中でも最も抵抗してきた―――だからヘレナにしてみれば『一番のお気に入り』でした。

けれどそう―――そんなエルミナールですら、魔界一の『異質ヘテロ』である蝕神族の血を受け入れたヘレナの前では膝を折るしかなかった…言う事を聞かざるを得なかったのです。


        * * * * * * * * * *


しかし―――ヘレナがまた新たなる“贄”を2つ有したところで、こちらの事態は変わるでもなく…


「(リリアにホホヅキ―――善人いいひと達だったけど、善人いいひとから先に死んで逝く…不条理だよね、こんなのって。)」


ヘレナとニルヴァーナ達との付き合いは、そう長くはない―――とはしても取り分け短すぎるわけでもありませんでした。 けれど彼女達が参加していた場所が同じとくれば、互いの顔は見知り合った程度、関係性も希薄ではない程度……けれどしかし、この後のある出来事によって濃密以上に成ってしまうのです。


「(それにどうしよう…この2人の遺体―――)…ん?微かな生体反応が?」


既に死亡したと思われていた2人の遺体―――そこから……そうまさに“虫の息”ほどの微かな反応が認められた。 そう、まだ2人は死んだわけではない?

そうであることが判るとヘレナは救命措置を行いました。

“奇しくも”―――とお思いでしょうが、ヘレナは自分の意思で他者の生死を見定めることが出来ていました。 だから、“半分”生命の簒奪さんだつを行える事が出来ていたり―――また、もう“半分”救命すくわなければならない生命は救命すくってきたのです。


そしてそこで判ってきた事―――この2人の生命を救命すくう為には、圧倒的に“血”が足らない……


「(難しい判断です…確かに私に内包されている血を分け与えれば何とかなるのでしょうが、問題はそんな簡単な処じゃない―――)」


血の欠乏分はヘレナ自身が―――との考えはすぐによぎりましたが、すぐに改めました。 確かにヘレナは吸血鬼ヴァンパイア…これまで血肉として吸血してきた者達の血を内包していました。 しかしそれは、言い方を変えてしまえばヘレナ自身の血は一滴としてない―――何かよく判らない…“不純物悪い混ざり物”がヘレナの血の正体でもあったのです。


こんな“毒”にしかなり得ない自分の血を、瀕死の仲間に分け与えるのが妥当なのだろうか……そうした迷えるヘレナの下に、駆け付けてきたのは。


「ヘレナ―――どうし…(うっ、ぷ…) これは、一体……?」 「(!)ニルヴァーナ良い処に!実はリリアにホホヅキが瀕死の重傷を。」

「なに?!それでこの凄惨さ《有り様》か……それで、2人とも助かるのか。」


ほんの少し前までヘレナはニルヴァーナと接触をしていました。 そんな折ヘレナがこの地での事態の急変を知り駆け付け―――ニルヴァーナもまた、“虫の知らせ”と言った処か…この場へと駆け付けた。 けれどニルヴァーナが駆けつけた時には事態は程なく収まっており、ヘレナからの説明を受けてリリアとホホヅキが九死に一生の境目にある事を知ったのです。

しかしながら、ニルヴァーナには人命救助の心得など一切ない、ここはただ普通に狼狽うろたえるだけ……と、思われたのですが。


「幸い危機は脱しそうです。 それにしても良かった……私の様に“不純物悪い混ざり物”よりも、混ざり気一つもないあなたのをもってすれば―――」

「(う)ん?私の……?私の――――なんだ?」

「ここはあなたの血をもって、彼女達の欠乏分の量を補う―――そう言っているのです。」

「私……の、鬼人オーガの血を?! じ…冗談―――だろう?」 「こんな非常時に、私が冗談を言う事が出来ると?」


意外に大真面目だった、鬼人オーガの自分とは違う異種族の―――それもヒト族に与えるなどニルヴァーナにしてみれば非常識そのものでした。 それに常に闘争を好むこの身を流れる血―――そんなごうの強いモノに、最弱種としても知られるヒト族の2人の身体がどこまで受け入れられるものか、つまるところニルヴァーナの杞憂はそこの処に在りましたが、ヘレナにしてみれば気にすらしていなかった……??


「ではこれよりあなたから少しばかりの血を頂きます―――そして今まで私が血肉としてきたヒト族の血を混ぜ合わせ……よし、どうやら凝固しませんね。 そしてこれから彼女達の血を少々―――よし、こちらも凝固しない…。 ではこれから2人に合成したニルヴァーナの血を投与します。」


別に、直接的に鬼人ニルヴァーナの血を分け与えるわけではなかった。 まず初めに鬼人オーガとヒトの血の相性を―――そのしかる後に今度はリリアとホホヅキの個体別の相性を。 そう―――“血”は、我々生きとし生ける存在であれば等しくその身体を廻る原動力と成り得るモノ。 或いは酸素を、或いはエネルギーとなる栄養素を、或いは身体を形成させる体素成分を…けれど大量に失ってしまったり、凝り固まったりしてしまったら生物は皆生きてはいけないのです。 そうならないようヘレナは細心の注意を払って行った―――つい数刻前までは圃人ホビットの強豪の血を凝血させてたおしたり、人狼ヴェィオウルフ最強の傭兵の血を沸騰させてころしたりしたのに。

けれどヘレナにとっては、リリアにホホヅキは自分の仲間―――仲間を自分が救命すくって何が悪いのか…


その結果として―――…


        * * * * * * * * * *


「(…う)うう  ん―――…。 (…)ここは―――どこだ?天国…いや、私が逝く処は地獄か。 思えばさんざ悪さしてきたから―――な…それにしちゃ、ニル―――お前も死んじまったのか?」


「おお、リリア!目覚めたか、それにしても何を馬鹿な事を言っている、お前はまだ死んではおらんのだぞ!」


「え…?でも私、ラスネールって奴に左腕斬られて―――それからレヴェッカの奴に臓腑はらわたぐちゃぐちゃにされて……そうだ!それよりホホヅキは?! あいつは……敵わないと知りながら、私の仇を討とうと―――けど、ラスネールって奴が黒い狼に変化して、そのままホホヅキの胴に喰らい付きやがったんだ。」


「そんな事が……だが安心をしろ、ホホヅキの方も概ね問題はない。」 「な、なんだって?」


「ふわあ~…おはようございます。 それより皆さんどうされたんですか?」 「どうされた―――じゃないだろう!私達死んだんだぞ?なのに……生きている?」

「お2人とも死亡まではされていませんよ。 ただあと一歩処置の方が遅ければ……でしたが。」

「ヘレナ―――話して下さいますよね、死ぬはずだった私達が、今生きている理由を。」


どうにか生は繋いだ―――いや寧ろ繋たとでも言うべきか、死に瀕した事で幾らかの記憶の錯綜、意識の混濁等は見受けられましたが日々の生活を送るに際しては支障はない―――見えました。 けれどそれは目に視える部分だけを評定した話し、まだ目に視えない部分は評定するわけにもいかなかったのです。

いや、そもそもが未来に於ける出来事など判ろうはずもなかった。 ただその時自分達が思ったのは、『未来に於いてそうだったらいいな』的な事なのです。


それはさておき―――リリアとホホヅキはどうして今自分達が生きているのか…その理由をヘレナから聞かされました。 すると案の定―――


「なんと?!私達の身体にはニルヴァーナの鬼人オーガの血が…」

「はい、あのまま放置をしていればいずれあなた達は死んでしまっていた事でしょう、けれどニルヴァーナの協力の下、あなた達は生き永らえることが出来た…それに異種の血を注入いれてみたところで、現在までで拒絶反応はみられていません。 拒絶反応が出ていればもう既に出てしまっている事ですので。」

「そう言う事か―――そいつはお礼を言わなけりゃならないんだろうな。」 「ですがリリア―――!」

「まあよく聞け、ホホヅキ。 私達は今回の事でヒトが余りにも脆い事を知ってしまった、恐らく今日と言う日が来なければ、いつか同じ運命が私達の身の上に舞い降りてきたんだろう―――そこを思えば今日体験しておいて損はなかったと思えるよ。」

「でも―――…」

「それに……な、気付いちゃいたんだ。 私とあんたは―――私とあんたは、この仲間内に於いて一番の短命種だってことを。 ヒトってのは長くて100年生きればいい方だ、ニルの鬼人で700年、ノエルの獣人で800年、王女サンに至っては何百年何千年生きれるか判ったもんじゃない。 このまま私達が順当に生きたとしたって、私らとニル達とが一緒の時間を過ごせるのは余りにも短すぎるんだよ。」


「リリア―――」 「リリアさん―――」


「リリア…そうね、そうだったわね。 私達が生きていく時間は余りにも短い―――それが今回の件で……ごめんなさいニルヴァーナ、私の思慮のない言葉であなたを傷付けてしまって。」

「気にする事はない……それにリリアの懸念―――私も抱いていた処だった。 お前達も知っての様に私が他の鬼人オーガ達とは違う、蔭では“角ナシ《ホーン・レス》”と蔑まれている事も知っている。 今まで私が正気を保ち続けてきたのも私に理解を示してくれたお前達と―――盟友のお蔭だと常々思っている。 それを、この機会でその懸念が払拭されようとはな!」


やはり最初は拒絶されそうだった、けれど意外にリリアは理解力があった―――いや、と言うよりリリアにはある懸念がありました。 それが自分達ヒト族は、もしかしたらこの先仲間達と一緒の時間を過ごしていけないのかもしれない―――このわだかまりはいつの頃からかリリアの中に巣食っていました、そして少なからずその懸念が的中してしまう。

それが今回の一件―――自分達は…ヒト族は、この魔界せかいでも最弱種の一つに数えられている。 そんな最弱種がいくら根を詰めて修業に明け暮れ、どんなに“最強”を追い求めてみても手すら届かないその“頂”―――思い知る…所詮【緋鮮の覇王ロード・オブ・ヴァーミリオン】と並び立つ【清廉の騎士】と持て囃されようとも、自分達は最弱種なのだと。

ただ、そう言ったわだかまりは今回で払拭できました。 瀕死の重傷の身に、例え異種属と言えども欠乏分相当量の血を輸血できた、その結果としてリリアとホホヅキにはヒトの外見をしながらもその体内を廻る血は“鬼”のモノとなったのです。


但し―――今日この限りをもって2人はヒトヒト。 この意味を2人はこの戦いの後よく知って行く事となるのですが―――それはまた別の話し。


        ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


その一方で、竜吉公主が囚われている場所を探っていたノエルとローリエは。


「どうやらこの集落に間違いありませんね。」 「もぉ~次から次へと…わたくしヘトヘトですわあ。」

「申し訳ございませんローリエ、私も今代こんだい一の忍を自称しておきながら敵の虚報に惑わされるなど…」 「そ、そういう意味で言ったんじゃないのよお~?ただわたくしは、魔王軍の底意地の悪さに腹を立てているのであって、わたくしの可愛いノエルちゃんの事を悪く言っているのでは……」


前回までいた町で掴んでいた情報をもとに、該当する場所に潜入をしてみればもぬけの殻だった―――ただ、この場所に“居た”と言う形跡はあったらしく、要は一足違いとなるのでしたが…どうにも自分達は踊らされている様な感覚に陥っている、情報の管理はまだこの時代に於いては軽視される傾向にありましたが、聡い者にはその重要性に気付き操作をしていると見受けられる……例えば前回までいた町に竜吉公主様が監禁されていたのは本当だったとしても、監禁をしている者が竜吉公主様を連れてこの町を出る―――そう言ったタイミングで『竜吉公主がこの町のどこかにいる』と言う情報を流布させてしまえば…抜かってしまった―――完全に、この手口は自分と同じ忍の手口そのものだ、自分達忍は情報を扱う事にかけては一日の長がある―――そう言った者が魔王軍中になどと何故思ってしまったのだろうか。 そこを勘案かんあんしてみると今回のこの情報も相当臭い―――この集落に竜吉公主様がいると言う情報は今日掴んだばかり…だとすると昨日この地を出立したと見るのが妥当な線か―――…


ノエルは、これまでの失敗を反省はしましたが絶対に引き摺りはしませんでした。 過去の失敗を悔みうじうじしているよりも、もっと前向きに考え行動をする、ノエルが後年【韋駄天ストライダー】と讃えられ、その功績で『ギルドマスター』にまでなったのにはそうした理由があったからなのです。

とは言え、入手した情報を精査する為、確かめなければならない―――すぐさまノエルは行動に移しましたが。


「(やはり…同じか―――しかし判ってきた事もある。 私が何者かが用意した情報に踊らされ、ことごとく空振りに終わった―――その形跡を辿ってみると、なるほど…これが公主様の移檻の行程か、だとするなら―――…)」


「ねえ~~ノエルちゃあ~ン、何難しい顔して考え込んでいるんですのぉ~?ちっとはわたくしに構ってちょうだいよう~~。」(ムチュムチュ♡スリスリ♡♡)

「もぉう、鬱陶しいですね!だからあなたと一緒に行動するのはイヤだったんデ・ス・ヨ!(離れろォ~~)」


「どうやら…ようやく元に戻ったみたいですわね。」 「(え)ローリエ?」

「わたくしがあなたの事をでてまないのはわたくしの理性でもどうにもならない話し…ですが、あまり根を詰めて深い処に嵌り込んでしまうと抜け出せられなくなると言うもの。 それにあなたはわたくし達の中で唯一にして情報の管理に精通する者…とくれば、あれやこれやと考える前に一度頭の中を空にして考える事も重要なのです。 まあーこれも、たるい宮中の由無よしなし事に忙殺あけくれてきたわたくしの体験談なのですけれどね。」


いつもは、自分の側に近寄るだけでウザったいと思われていたエルフの王女からの思ってもみなかった助言アドバイス―――その事にノエルは感心する事しきり…なのでしたが、ノエルはもっとこのエルフの事をよく理解しておくべきだった―――と、後に後悔する事となるのです。


        * * * * * * * * * *


ローリエからの発破のお蔭もあって、幾分か頭を柔軟にしたノエルが辿り着いたこたえとは―――


「何故私が敵の情報に踊らされ、後手を掴まされてきたのか判りました。 敵には私以上の情報を扱う事に長けた人物がいる―――『魔王軍総参謀』ベサリウス…恐らくこの人物が私と同等かそれ以上の腕前を持つ忍を雇っているか配下にしているのでしょう。 そして私はまんまと踊らされた―――ですがそれもこれまでです。 どうやら情報によるとベサリウスなる者は現在戦線が展開されているシャングリラ方面に赴いているとの話し…だとすれば―――」

「竜吉公主様を連れ回しているのだと?また何のために…もしかすると公主様が自分達の手の内にあると流布させておいて降伏の勧告を?」

「いえ―――それはないかと…」 「何故そう言えるの。」

「ならば、なぜ未だ以てシャングリラは失陥しないと?私を引っ掻き回す程の悪知恵の持ち主だ、その情報を小出しにさせて徐々に神仙の士気や戦力を削るのは判るにしても、私が掴んでいる情報では神仙には全くその傾向が現れていない…とするなら。」

「(……)故意に隠している―――?でもどうして…公主様が手の内にあると言う強いカードを使わない手は…」

「(…)これは、単なる私の楽観な推測なのですが、或いはもしかすると魔王軍中でも公主様の存在を知らないのでは?」 「そんな事が?」

「ない……とも言い切れません、彼のベサリウスと竜吉公主様との間になにがあるのか…それを知り得るのは当人同士だけなのですからね。」


「(!!)まさかこ―――」「そう言うのは今はいいですから、もう少し真面目に考えましょう。」


これまでの失敗をもとに様々な考察を重ね合わせるノエルとローリエ、その中でノエルはほぼ実状を言い当てていました。

そう―――竜吉公主は『魔王軍に』ではなく『ベサリウスの手によって』囚えられていた、以降は彼の考えの下、味方である魔王軍にも内緒で公主を匿い、連れていたのです。

ただその事を彼女達は知っているわけではない、単なる憶測…推測の域を出ないのです。 だとした処でノエルとしてみれば確度の高い情報が欲しい…彼女が赴いたのは現在戦場と化しているシャングリラ近郊の村―――


「(が囚われてより早幾時いくときが過ぎたか…それよりベサリウスめ、に恥辱を与える為に次々と収監の場を変えるなどと、それに気になるのはの身元が割れてシャングリラに被害が出ぬと良いのじゃが…)」


果たして、そのシャングリラ近郊の村に竜吉公主は監禁されていました。 それにしても公主ほどの人物が自身の拠り所となる場所の近くまで来ているというのに判らないでいたとは。 けれどそれはそれで理屈に合っていたのです。 そう、ベサリウス主導の下に竜吉公主が匿われているのは秘匿中の秘、例えそれが味方であるはずの魔王軍に知られてはいけないのです。

それにここがベサリウスの悩みどころの一つでした、そう…味方であるはずの魔王軍に知られるのはまずい―――とはしながらも、ならばこれからはどうすればいいのか…竜吉公主が自分の手元に居てくれる方が安全でいい―――しかし公主は自身が動いているのは現政権に反旗を翻している者達の為に援助を惜しまずにいたのです。 それに自分の手元…近くに居てもらえさえすれば、あとはどうとでも出来る……幸い今回は援軍の要請を受けたこともあり、公主の拠り所であるシャングリラの近くまで来ている、ならばここは―――


「マキ―――居るか。」 「こちらにぃ~」

「お前は以前に女媧殿とわたりをつけ、彼の方が存命であると確認したんだよな。」 「その通りですが―――?」

「よし…ならばこれが機会だ、もう一度女媧殿とわたりを付け、現在こちらで確保している竜吉公主様の身柄を引き渡す用意があると―――」


「それは、本当ですか?」


「(え)マキ……?」 「それは、本当ですか―――と聞いたのです。 なるほど…道理で見つからない訳ですね、まさかあなたが公主様をとらまえて秘匿していたのですから。 ああそれから、私はあなたの配下のマキと言う者ではありません、彼女は既に私の血肉となっていますから。」

「お前自身の…血肉?!まさかお前は―――」 「そう、私は吸血鬼ヴァンパイア―――他人の血肉無くしては生きられない存在…それに彼女マキは優秀でしたよ、私自身が知る忍よりも、ね。」

「お前の処にも忍が…ではオレの知らない処で情報戦があってたって訳か。」 「へ、え―――これはうっかり、私はてっきりあなたが私達の忍の事を知っていて、その為の情報防壁を築いていたモノと…」

「ヘッ―――そいつはお互い様って奴さ、こちらもあの方の情報コトを扱うのは丁寧にしてたもんでね、なまじっか味方とは言え頭に血の昇ったお偉いさん連中にその事が知れ渡ったら、奴さん達と来たらすぐにでもシャングリラを攻略しただろうさ。」

「ふむ、そう言う事か―――もういい言わなくても判った。 どうやら私達はあなたともっと早くにわたりを付けるべきだった、今にしてみれば遅きには失したかも知れないけれど…どう?これからこっちに付くつもりは、ない?」

「生憎だけど―――この不肖の身を『総参謀』にまで取り立ててくれたルベリウスの旦那への義理は果たされていないもんでね。 ただ……」 「?」


「これから、オレが話す事はオレの独り言……って事にしちゃくれませんかね―――ええと…」 「ヘレナ―――で、いい。」


何を思いついたものか、ベサリウスは配下であるマキを呼びつけると、自身が匿っている公主の身柄を秘密裡に引き渡す用意があるから至急その事を神仙族の長である女媧に知らせてほしい…としたのです。 ですが、その真実に触れると途端に自分の配下の態度が一変した、普段でも軽い言葉を連発し深く考えているようでもない発言が目立つ―――そんな配下が、竜吉公主の存在性を知るや否やこちらでも掴んでいない情報を喋り出した。 これは『しまった』―――とはしながらも、これもまた何かの機会と思い、ヘレナは自分達への勧誘を…そしてベサリウスはある事実を話したのです。




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