第6話 道路工事中

にわかに色めき立つマナカクリム―――目立つ出で立ち、付いて回る勲詞いさおしに、今日もまた黄金の甲冑を着込んだくだんの一行が街中を闊歩するまかり通る

―――と、この様に衆目には映っていました。 そしてそれを遠目から見つめる一つの目…


「(あの子達堂々としているわね―――それに自分達が何を為したか判っている。

少しばかりあの子達について調べてみる必要性がありそうね。)」


ヒト族の軽装剣士アンジェリカは、別にニルヴァーナ達だけを特別視していたわけではありませんでしたが、他の冒険者達と比べても高難度(ランクS以上)のクエストをまるで何事もなく片付けて来るこのパーティーを無視できなくなっていました。

加えて―――の、目立つ出で立ち。 黄金の甲冑に黄金の剣を装備する者を筆頭に、銀の甲冑に銀の剣の『騎士』、絹白けんぱく唐紅からくれないの『巫女』の身形みなりをした『武者』に、全身が黒づくめの『忍』装束の獣人……に?


「(あれは……『エヴァグリム王女』!? エルフの王女をパーティーの中に組み入れるなんて、余程上位のクラスに属するパーティーのようね。)」


『緋鮮』と『清廉』の出で立ちもに目立つところはありましたが、やはり―――の極めつけは、エルフの王国であるエヴァグリムの王女の存在でした。

一国の王族がそのパーティー内に組み入れられるなど、やはりそれなりの実績を残すパーティーだからこそ出来る話し。 しかも高家出身ともなれば、それなりの危険性も供なって来る……そこを今話題となっているパーティーにゆだねることにしたのだろう……アンジェリカの予想は、当たっているようで当たっていなかった―――それというのも?


「(な……なあ~~なぜ私達はっ、こ、こんなにも注目を集めているのだあ?)」(ガチガチ)

「(は……ははははは、よ、ようやく私達の凄さ―――てのが、わ、判ってきたんじゃないのかあ?)」(引き攣り気味)

「(リ……リリア、あ、あなた笑顔―――ひ、引き攣ってマスヨ?)」(ビクビク)

「(うぬれえ~~私のリリアに色目を使う等と!)」(ぷんすこ)

「(そぉ~れにしても、私達を称えるの遅すぎなのよねえ。)」


どうやら一部の平常運転(ローリエさんの事です)を除いては、“ガッチガチ”に緊張をしていたみたいで……。 しかも周りに振りまく『笑顔』も引き攣っており、その動きもどことなくぎこちなかった―――ところを鑑みると、どうやら彼女達は(多勢の)人前は苦手にしていた??

それはそれで仕方がなかった―――何しろ彼女達はこれまで後ろ暗い事をしていたのですから、だからこんな急激に称賛を浴びるなどと言うような事はなかったのです。

しかし彼女達が衆目を集めていたのは、彼女達の活躍ぶりだけではなく……


「なんだかもぉ~満腹おなかいっぱい―――って感じですわぁ?」(ゲふぅ)

「いや……もう―――私は人に酔って…」(うぷッ!)

「おまいらはいいよ、私はホホヅキ抑えるのに手一杯だったんだぜ?」

「しかし私は今日と言う日ほど忍をやっていて“良かった”と思える日はありませんでしたよ~♪」

「ノエル……お前途中から≪潜伏≫のスキル使いやがってえ~~」 「私は忍ですので、他人に覚られては意味がありません。 まあ~今回は≪潜伏≫の熟練度を上げるのに最て……ふみ゛ゃ゛ぁ゛ぁ゛あ゛~! コラお前っ―――私でモフるなあ~!」 「ン・フ~~♡やはり消化不良にはノエルさんが一番ですわぁ~♪」 「(ノエルも大変だのぅ…)―――で、リリアは大丈夫なのか。」 「ああ~~~私は慣れてっから…」(ハハ…ハ)


これはクランハウスでの一場面―――上級のモンスター討伐や高難度のクエストの成功を祝うでもないのに、彼女達を讃える為にと集まった民衆が様々な感情をぶつけたのです。 その大半は賞賛が占めていましたが、なかには『羨望』や『嫉妬』等の念が織り交ざっていた為、まだそんな事に慣れていなかったニルヴァーナ達は疲れ果てていたのです。

けれどローリエだけは違っていました。 彼女は『王女』と言う立場から『色々な感情をぶつけられる』事には慣れており、どこか余裕さえ感じられたのです。

{*ちなみに―――ホホヅキはリリアにしがみ付いて離れようとはしなかったみたいですが……それに『慣れてる』リリアって…}


そんな彼女達のクランハウスを訪ねてきた存在がいたようです。


         * * * * * * * * * *


「―――ごめんください。」  「はい……そなたは?」

「私は『軽装剣士フェンサー』のアンジェリカ―――と申します。 少し私の話しを聞いて欲しいのですが、よろしいですか?」


「(見た処ヒト族か―――それに装備を見ても普通と変わりない、だが―――どこか隅には置けんな……)」


アクアマリンの髪と眸をした軽装剣士フェンサー―――どこをどう見ても普通一般と変わりはないのに、その時応接したニルヴァーナは、この軽装剣士フェンサーが只者ではない事に感付き始めていたのです。

それに以前ローリエからも『こう言った時機が一番警戒すべきなのです。』と注意を受けていた。 そう、ローリエは王族だからこそ知っているのです、人生の絶頂期を見計らい、おもねって旨味だけを吸い尽そうとする者達の事を。 あまつさえ彼女達は大衆から賞賛を浴びる事に慣れていない―――だからこそ用心に越したことはないのですが……


「それ―――で?『話し』とは…」 「率直に申し上げると、ここ毎日あなた方の噂を聞かない日はありません。 そこで私も多少なりとあなた方に協力し、その栄誉にあずかりたいのです。」


「(ふむ―――やはりその“手”の目的であったか……しかもこうもあけすけに語ってくれるものとは。)」


何の飾りもない―――飾るもない、その態度にはニルヴァーナも好感は持てました。 しかし初対面なのにこうも信用していいのだろうか?……だから―――こそ…


「なるほど、お言葉は有り難いですが、少し考えさせて頂きたい。」 「(……)この私のげんに信用が無い―――と仰るのですね。 判りました……ここは一旦日を改めて伺うことに致しましょう。」


「(彼女……聞く処によると鬼人オーガだと言う事だけれど、こんなにも知恵が回るだなんて?もしかすると高度な学識にあたった事があると言うの? けれども、それでもこれ程のモノとは思わなかったわ……ここは一度退いてもっと詳しく調べ直さなくては。)」


アンジェリカは―――ヒト族のていを為しているだけ。 その本来はまた違う存在……ゆえに、オーガであるニルヴァーナが分別つく者だとは思わなかったのです。

けれどその事を改め、策を練り直す為に一旦退いたのを見計らって……


「ローリエ殿、そなたの見解を伺いたい。」 「そうですね、彼女……どこか含むところがおありのようで。」

「『含むところ』とは?」 「そこが判れば苦労は致しません。」 「なんだよ…王女サンよ、さもありなん―――な事を言ってくれてんじゃねえよ。」 「以外に頼りにならぬようですね。」


一人の普通の軽装剣士についての評価に談義が行われているようでしたが、人付き合いの多いローリエですらアンジェリカの『含む』処が判らなかった―――本来なら、で気付いておくべきなのでしたが……はまた別の処で噴出したのです。


「ただいま戻りました。」 「おう、どうだった。」

「(……)申し訳次第もございません。 かれてしまいまして―――」 「(ち)存外頼りにならぬ―――」

「まあそう言ってやんなよ。 なにしろここは『種属の坩堝』とまで言われてるところだ、様々な思惑や雑念渦巻く場所―――それを利用して判らなくさせるのなんてワケはないぜ。」 「そうするとなると……よほどの上達者と見るべきか? (ふむ)あちらも私達を利用するつもりなら、こちらもあの者を利用しない手はない―――それに…」

「いよいよ―――ですか?」 「フフッ、察しが良いですな。 実はすでに“一つ”受けてきている。」 「(ハ~~)まぁたあの美人過ぎる〖昂魔〗のお姉さんからかよ。 で?今度はなにをしろって?」


ニルヴァーナ達のクランハウスから出た軽装剣士の事を探る為に尾行をしていたノエルが戻った時、彼女ほどの≪追跡≫の保有者がかれてしまった……その事に厳しい意見が出るものの、何よりノエルを庇った(様に見えた)のはリリアでした。

そのリリアからの意見を聞き、ニルヴァーナもアンジェリカなにがしが実力上位者ではないかと思ったのです。

それにニルヴァーナは、またあの『庵の主』であるカルブンクリスからの依頼を受けていたのです。 その最初は魔王軍の偵察部隊の一つを壊滅させ、ニルヴァーナ所縁ゆかりの者も討った……ならば“次”は『それ以上』―――そこにあの軽装剣士を当てがってみる事で彼女の実力を見極めようとしていたのです。


       * * * * * * * * * *


数日を置いて後―――再びアンジェリカは彼のクランハウスを訪れました。


「(ここ数日調べていて判った事と言えば、鬼人オーガの彼女……『庵の主』と言う人物と交流をしていたことがあったようね。 そこから彼女の行動に変化が見られるようになった……それに―――彼女達の装備の数々……『黄金』や『精霊銀ミスリル』をあしらったモノに目が行きがちだけれど、その他も…一体何者なの?『庵の主』って―――アレだけの装備をひと揃え出来るなんて、ひとかどの人物でないと出来ないわ。)」


『数日』―――それは、アンジェリカがニルヴァーナ達の事を調査する為に要した時間……本当を言えばもっと費やしたかったけれど、調査ばかりに時間を割いているわけにもいかない。 それに今回は呑みやすい条件も抱えている事もあり、これでようやくパーティーに協力する事も出来る……


「ごめん下さい―――」 「アンジェリカ殿ですな、こちらに。」


もう初見ではないのですぐに受け入れてもらえた―――そして前回の続きを……と、そう思っていたら。


「先日のことを踏まえ、私も少々思う処がございまして―――」 「その事なのですが、私達はこれから受けた依頼の一つをこなそうと思っております。 つきましては、差し障りさしさわりがなければそなたもいかがですかな?」


「(もうこちらの出方を察した上で、それも強引に―――? なんて事……見誤っていたわ、彼女にはそれなりに『交渉術』の心得がある!)」


アンジェリカの方でも前回の反省点を踏まえ、そうした上での呑み易い条件を提示しようと考えていました。 けれど目の前のオーガは、そんな事を見透かした上で既に自分を巻き込んだ上での計画を提示してきたのです。 そこの処に躊躇ためらいは覚えるものの、自分の計画にも見合っていた為にアンジェリカは同行を決意するのでしたが―――…


「あの―――それであなたが受けたという依頼とは?」 「なに、さして難しいことではありませんよ。 ところで先立っては私達に協力をして頂く事でそなたの経験値を上げる―――そう言った用件で間違いございませんでしたよな?」


明確な目的は述べず―――それでいて先日言っていた事を蒸し返してくる……アンジェリカも、あの時は単に取り入り易い言葉を述べただけ。 本来の彼女はそんな事をしなくてもいい立場でもあるのですから。

だとて、ここで“ボロ”を出すわけにもいかない―――と、し、大人しく従ってみるのでしたが……


「(ん?)あのーーーーでなにをしようと??」 「(……)ああ、そう言えばまだ言っておりませんでしたなあ? 『街道の整備』―――まあいわゆる『土木工事』……ですよ。」

「(……)はあああ~~? 『土木工事』ぃ? なぜ…またあ??」 「これもまた、人の為にならんことよ―――との依頼主の仰せつかりでしてな。 私共も『討伐』や『採取』ばかりに明け暮れていては地域に貢献できぬ―――とまあ、こう言う事でござい……アンジェリカどの??」


「(なんっーーーーなのよぉお~~!こいつぅう~~!!思わせぶりな態度を取ってくれてんじゃないわよぉお~!!)」


なんと―――アンジェリカが連れてこられた場所には、既にニルヴァーナの仲間達が『ツルハシ』や『オノ』『スコップ』等を片手に、マナカクリム周辺の街道を整備している―――そんな場面に出くわしてしまったのです。

しかし、てっきり自分はこの眷属の子達と肩を並べての討伐等に参加、協力をし、その中で彼女達の実力を見極められるモノだと思っていた…………のに?

全く違ってしまったその思惑に、つい“プルプル”してしまうアンジェリカ―――と? そんな処に……


「お~~~い、ニル! お前何そこで油売ってやがんだ!」 「ああーーーすまんすまん、以前言っておった協力……ああいや、お手伝いしてくれる方が見られてな!」

「随分とまた普通のようですが……できれば『彼女』の様にもう少し腕力に長けた方を所望したかったのですがねぇ。」 「はははっ―――そーりゃ『ないものねだり』ってヤツだろ。」(ゲラゲラ)

「あ~~~の~~~その前に、私以外の『協力』?『お手伝い』??―――してる人…が、もういるんですぅ?」 「実は昨日より入ってくれている者がいましてですな、ほれ―――あそこに見える……」


「(ドワーフ??は……まあ~こう言った『土木作業』とかは得意としているけれど――――って…あれ?あの子どっかで見たような??)」


アンジェリカは、〖聖霊〗の眷属であるドワーフの容姿にどことなく見覚えがありました。 しかしそれはそれでいいのですが??実はこのドワーフとは伝統的に仲が悪い……


「あ゛っ!おんめぇ~なにしてくれるんだっぺやぁ?! せぇーっかくオラが馴らした地面を゛ぉ~片っ端からあなだらけにするんじゃねえっぺよぉ?」 「アアーーーラアラアラ、このドワーフったら高貴なエルフのわたくしに対してなんて言う口の利き方なんでしょッ! あーなたこそ、このわたくしが掘り返した地面を平らにしてやがるんじゃございませんの゛っ?!」


エルフの王女であるローリエが、何故か工事を遅らせる行動に出ていた……と言うよりはやはり、種属間のわだかまりと言うものは実に根強かったものとみえ、どうにも工事の進捗も停滞り気味……いや、と言うよりも??


「(あのドワーフ……って、じゃないのお~?! てかなんで―――こんな処でこんな事してんのよお~!)あ……あのぉ~~~コーデリアさん?でしたよねえ??」 「あ~ん?誰だっぺやぁおんめえ……そうだっぺがよ?オラがコーデリアさんだっぺがよぉ。 だどもなんしておんめえがオラのこつ知ってるんだっぺがよぉ?」

「そなたら……知り合いなのか?」 「えっ? ええーーーまあ~~~ほんのちょっとぉ…」 「てーかそいつ、お前の事知らないっぽいぞ?」 「お可哀想に…もうその年で耄碌もうろくとは」(オヨヨヨヨ)

「あは…あ゛はははははは~じ、じゃあ~私の勘違い―――だったかなあ?」 「しかし、ローリエとあのコーデリアとか言うドワーフと、あそこまで仲が悪いとは……。 あのーーーこれ、工期中に終わるのでしょうねえ?」


そのドワーフの名こそ、コーデリアだった……が、しかし、当の向こうは自分の事など素知らぬふりをするものだから途端に窮地に追い込まれてしまったのです。 とは言えその場はどうにか取り繕えたものの、ニルヴァーナ達からは白い目で見られてしまう始末。 だとてアンジェリカには喫緊きっきんに解決しなければならないことが出来てしまい、その疑問を拭う為にとコーデリアにパーソナル・スペースが出来た頃を見計らい……


「ねえーーーちょっと、あなた。」 「(……)はあぁ~~何をやってくれているのですか、公主。」

「やはり―――ウリエルね?!」 「そうですが……全く、あの者達全員から怪しまれて、あなたは私の計画を台無しにしようとされるおつもりか!?」

「あなたの―――『計画』??」 「まあ……それもこの魔界の為を思えばこそ―――なのですが。 いま私が彼女達に協力しているのは、言わずとも判ったでしょう。 ただ、が普通の土木工事だとは思わない事です。」

「えっ?!それじゃ―――…」


互いにこうして顔を突き合わせることになるのは何度目となるか―――しかしながら声掛けをしたアンジェリカに対し、少しばかり渋い顔をするコーデリア。

そう……彼女は既に彼女達のしている事を汲み、彼女達の計画の為にと手を貸していたのです。 そんな処に……の、アンジェリカからの不用意よけいな一言に、どうにか煙に撒けたかのようにも見えたのでしたが……コーデリアは、一見して普通の―――何の変哲のない『道路工事』に、『ある意図』が含まされていると感じていたのです。



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