第6話 ヨスト帯東十五番地区 順風会堂十一階層

 その次の週の家賃を払うと金がなくなったので、レオンは迷宮に行く決意をした。


 そこら中に迷宮はある――リニィそのものも広義の〈迷宮〉だが、この場合は特に、恒常的に魔物や異変が発生する場所のことだ――その中でも難易度が低いやつを狙う。もちろん、こんな街中まちなかの迷宮なら、どこだって大して危険度はない。受付のドヴェルはとにかく頭も体力も使わず、生きていくだけの日銭を稼げる仕事を紹介した。下宿屋の前を横切ってまたいくつかの階段を下り、通路を通ってその迷宮に到着する。


 迷宮ってやつの周囲は大抵、迷宮守りが利用するための食堂や病院、武器屋や服屋、靴屋なんかが立ち並んでる。最悪、迷宮から化け物が溢れ出てくる恐れもあるが、それは極論すると都市ならどこでもそうだし、いたずらに怖がっても仕方ない。なにせ街は迷宮のある所で発展してきた。様々な恩恵のうち代表的なのは、魔石だ。魔導機械の動力源である魔石は、こんだけ世界が発展しても未だに迷宮の魔物から労働者がちょっとずつ拾い集めている。大規模に採掘が可能な魔鉱脈なんて都合のいいものは、そうそう存在していないからだ。


 衛兵に公社から発行された身分証を見せてレオンは中に入る――ろくにチェックはされず、実質、誰でも入れる。


 その迷宮は石造りの古い神殿って感じだった。そして、さっそくそこいらに魔物がいる。魔物と聞いて人々が想像するような、小鬼や火を吹くトカゲなんかじゃない、謎のぶよぶよした肉塊だった。蛸の触手みたいなのが不規則に何本も生えている。ときおり震えるのでどうやら生きてるってことが分かる。そいつをこれからぶっ潰して中の魔石をいただくわけだが、武器とかは持っていないしあっても使えないので、足で踏みつぶす。サンダルじゃなく頑丈なブーツを履いてることに感謝しながら、レオンは作業を始めた。


 放屁のような、あるいは吐くときのような音を立てて派手に肉塊は潰れた。腕を捲り、残骸の中心部辺りに手を入れて、山吹色に光る欠片を掴んだ。咳止めドロップの容器か何かを転用したと思しき、公社から配布された採取用の缶に入れる。意外にも、肉塊は悪臭を放ちはしなかった――もっと下の区画にある別の迷宮には、くさいのもいてもうちょい稼ぎがいいらしいが、そこに行く気にはなれなかった。


 たぶん今日明日の食事代にはなるだろうなってくらいの魔石を手に入れて、レオンは公社に戻った。受付には、洗ってから提出しろ、と嫌そうな声で言われた。

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