第3話 リヒティローダー

 『オールドナークシティ』

 かつて栄華を極めたベイリカ合衆国北東部地域に位置する街。一時期、合衆国最大の都市となり、市域人口は1,000万人を超えた。全世界を見ても最高水準の世界都市であった。

 多種多様な人種が集まり、世界の経済、政治、文化、エンターテイメントなどに、多大な影響力を持った都市。


 ――だった。


 人間が多く居れば、必ず闇は産まれる。

 ヒーローの誕生により、悪人たちは戦争を消す過渡期に粛正されていった。


 しかし、世界は悪人を消せば、それだけでよくなるといったシンプルな構造をしていなかった。初期のヒーローはそれを理解していなかった。弱い人間達も少なからず恩恵を受けていたのだ。


 結果、ヒーローに利権を奪われた人間たちはヒーローを憎むようになった。そこに産まれる闇は、ヴィランを産み出した。


 ヴィランの凶行。悪化の一途をたどる人種間の差別、迫害、奪い合い。都市はスラム化し、弱い人々が互いに住処を奪い合う。


 それから、長い時が経った。時間で言うと約100年ぐらいだろうか。

 ヒーロー組織『ジャスティス』の世界統治者は、もう3代目だ。


 これだけの時が経った今、世界は未だに混乱期だと思うかい?

 人間の適応能力をなめちゃいけない。


「最初の勉強でここを選んだのは、天才的なセンスだぜ。お嬢ちゃん」

「……どうも」


 つらつらと、私の返答も待たずに語り続けた男は、にやりと笑う。

 小説や童話に出てくる旅人然としたステレオタイプの服装をしたきざな男は、鳶色の外套を翻して見せる。


「なんだい。なんだい。つれない反応じゃないか」

「私が到着した時から、勝手にずっと喋ってたからね」


 不満げに私は言う。私は父とリエラに見送られるままに、オールドナークシティまで来てしまった。そこで、教育係としてこの男をあてがわれたのだ。

 男は『閃雷のルーク』、ジャスティスとは別組織のヒーローだ。


 組織の名は『リヒティローダー』

 その組織は悪しき人間から金品を奪い、弱い人間に再分配することを旨として作り上げられた組織だ。ヒーロー組織と言うには手を汚しすぎる組織。所属するヒーローは自身のやる事を『義賊』と称し、誇りを持っていた。

 そんな彼らを嫌うヒーローは、少なくない。


「私は、正直、あんたたちの事、好きじゃないよ」

「まるで、嫌いだとでも言いたげだね」

「……」


 私は答えない。父に言われなければこんなところには来てもいないだろう。


「まぁ、良いだろう。早速、今日の任務についてきて頂こうかな」

「……今日の任務?」


 聞いていない。どこに行こうというのか。


「この世界は、未だに平和になんかなっていない。みんな隠れるようになっただけさ」

「……隠れる?」


 男は悲し気に笑う。そして言った。


「君には、最低な人間を殺してもらう」


 ――人間を殺す。

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