第14話 セッ

「蛹ひんむいて、ムリヤリ大人の世界に飛び立たせちゃおうかな、と」

 先輩。なかなかニンニク臭い。

 でも、それがいい。

 作り物めいた、都合のいい清潔な性交ではなく。どこかが欠けている方が、この人は本当に生きてるんだ、って思える。生き物らしくていい。具体的な生を感じられていい。

 僕も先輩も、そういう繋がりを求めているんじゃないだろうか。

 勝手なシンパシーがこんなところにまで及んでいて、自己嫌悪を覚えた。

「初体験がカーセックスか。よいね」

「べ、別に初めてとは限らないでしょう、いいから早く! 後ろ後ろ!」

「こんな頭壊れそうなクラクションの中でするなんて、二度とできないよ?」

「いいから!」

「はいはい」

 先輩はつまらなさそうな顔をして、渋々車を端に寄せる。

「で、なんだっけ?」

「だから、初めてとは限らないって言ったんです」

 余計なプライド。なんでこんなこと言っちゃうんだろう。大人しく目を閉じていれば、ことはスムーズに進むのに。

 先輩は僕の瞳を射抜くようなまっすぐな眼差しを向けた。

「わかるよ。君は童貞膜につつまれている。お姉さんには見える、見えるんだよ」

「なにワケわからないことを……」

「なに、じゃあやめる?」

 やってきたのは、人気のない駐車場だ。誰かがいちいち車の中で何をしているか、覗きこんでくるとも思えない。

 カー、セックス。

 セッ、クス。

 彼女が両手を広げて待っているのだから、こちらがその気になればできてしまう。

 今までずっと叶わなかったことが、こんなにあっさりと。

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