第2話 かわいいけど、ギリいけそうな先輩とまさかの展開

 密先輩は、僕たちが所属する映画サークル、《ナイト・オン・ザ・プラネット》のOGだ。

 OG、といっても、卒業してすぐのひよっこではない。

 明日に三〇歳を迎える今も、サークルに出入りしているのだ。正直、こっちが心配になる。だけど、それを煙たがる男子はあまりいない。

 なにせ、彼女はかわいい。

 豊かなまつ毛が印象的な目元に、品のいい鼻梁と優しく尖ったピンクの唇。男なら目を奪われるに違いない。年の割に幼い印象の丸顔が、美しさにほどよい隙を与えている。首がほっそりしていて、色白の皮膚の向こうの血管がはっきり窺える。それはスタイルが特別いいとか、巨乳だとか、そういうこと以上に腹の底をむずむずさせる。

 人懐っこい笑顔を浮かべながら、本心を悟らせないミステリアスさもたまらない。

 だが、そんな描写では、彼女をえがききれてはいない。

 なにせ彼女の真価はそこじゃないんだ。

 彼女の魅力。それは。

 ……かわいいけど、こんな俺でもギリいけんじゃね?

 男の夢と行き場のない性欲をほどよくくすぐり、叶えてくれそうな絶妙な女性なのだ。

 完璧すぎない完璧さを纏っている、とでもいおうか。

 そのビジュアルと、性に対して奔放なキャラクターが相まって、彼女は「七つの海を股にかける童貞喰い」なる異名を持っていた。

 そのターゲットは、僕たちとて例外ではないはず。そわそわと、大学生活の二年間を過ごした。

 ましてや、「関東大学文学部童貞BIG3」の名をほしいままにしている、僕、鞘師、トラビスの三人。

 順番が回ってくるのは時間の問題。

 と思いきや、これまで三人とも音沙汰なし。

 サークルの飲み会終わりの度、バレンタインチョコを楽しみに机に手を突っ込む男子よろしく、密先輩をちらちら窺っていたのに。

 童貞喰いなど、あくまで都市伝説にすぎないのか?

 そんな疑念さえ浮かんだが、今回、最大のチャンスが巡ってきた。

《ナイト・オン・ザ・プラネット》の撮影合宿だ。

 各々四、五人でグループを作り、部活のPR動画を撮影することになった。新入生歓迎会のサークル紹介で流すものだ。

 今までは過去の先輩が作った映像の使い回しだったが(それは、密先輩が主演をつとめた作品だった)今年からコンペ形式になった。

 僕、鞘師、トラビスはすぐさま班を組んだ。

 コンペなんかどうだっていい、単なる遊びの旅行だ、としか思っていなかった。

 だが風向きが変わった。狭い部室で席を囲む僕らの傍に、ちょこんと座る密先輩がいたのだ。なにせ、先輩は女子のグループからは煙たがられ、他の彼女がいる男子部員からも「妙な疑いを持たれてはたまらない」とさすがに避けられた。今回のコンペの言い出しっぺのくせにハブられる先輩。愛おしい不遇さ。

 余った彼女を受け入れられるのは、僕らしかいなかった。嫌々、というフリをしたが、内心は浮かれに浮かれていた。


 まさか。

  童貞を脱出する最高のチャンス。

            ……だよな?


 何度も「童貞脱出」を反芻し続けた。

 しかも、限りなく勝利が約束されたこのシチュエーション。余計なことさえしなければ、僕の望みは叶うはずだった。

 だが、合宿前日。鞘師がとんでもないことを言い出したのだ。

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