(8)バトルの予感

素直に言うと、屋敷の中も大したもんである。


「……殆ど城みたいだな」

「確かに、白い大理石の床と柱がありますね」


シアちゃんとユーリが高い天井やら真っ白な床を見ながら何か言っている。

私もそれなりにこの世界を旅してきたけどこんな大層な所に住まわせてもらう事なんてなかった。


これが魔法学園都市では普通の生活水準なのか?それともイオちゃんの中年への期待値が高いことを表しているのだろうか。


……もしも後者なら中年魔法使いに何をさせる気なのか不安になってくる。

出来る範囲内の事なら良いんだけどな、人間無理をするにも限度があるからね。


「一応この屋敷は建物の真ん中に広めの庭があるから、そこで魔法の試し撃ちなんてのも出来るよ~?」

「それはまた随分と広い庭ですね」


案内を受けながら進む、本当に屋敷の真ん中に広い庭があった。

運動場みたく雑草すら生えていない庭だ、そしてそれくらい広い。


「確かにここなら魔法の練習にも使えそうですね」

「……そっここなら丁度良いのよ」


……ん?赤ツインの様子が変わった。こちらを静かに見据える様子は何やら決意を固める人間のそれである。

「……どうかしましたか?」


「アオノ……と言ったわね、変わった名前だわ、いえっ今はそんな事はどうでもいいのよ」

「………モアちゃん?まさか……」


「問題は、イオリア先生のあの口ぶり、貴方を生徒じゃなくて学園の教師に推薦でもしそうな感じじゃない」

ああっ確かにそんな事を言っていたなイオちゃん。

「……そんな話もされましたね」


「おかしいのよ、イオリア先生はそもそもあんな風に接するタイプの教師じゃないわ。あそこまで1人の、それも人間に肩入れするなんて変なのよ…」


「ご主人様の実力に疑いの余地などありませんよ?」

「あるわよ!その男は大した魔力を持ってないじゃないの!それくらい私達3人にだって分かるわ!」


銀髪ボブやユーリの言葉を無視して赤ツインが吠えた、私の魔力が大したことないか……。

そりゃあ私はとある魔法を常に発動して自身の守りを固めているからな、不意打ちとかこの世界なら割と普通にあることだし。


そしてこの魔法は他者からの自身の魔力やら戦力の把握も阻害する、要は私の魔法を理解出来る実力がまだまだ足りない子達には私の魔力は一般人並みだと感じてしまうのだ。


赤ツイン、まだまだだね。まっ他にもその魔法を常に発動しとかなきゃならない理由はあるんだけどさ……。

しかしそれを彼女に説明しても多分理解はされない、ならここは彼女のしたいようにやらせてあげようかな。幸い時間はあるし。


「それではモアさん、貴女は私が大したことのない魔力の者だと何か心配な事が?」

「そうね、私は貴方がイオリア先生を魔法薬か何かで自分に都合がよくあの人が動く様に操っている様にすら見えたわ」


赤ツインの中年魔法使いへの印象最低じゃん、魔力がショボいってだけでそこまで疑われてしまうのか?流石はファンタジーな魔法学園都市、生徒さんの思考回路も不可思議極まる。


「イオさんがそんな手に引っ掛かるとでも?言っていて有り得ない事だとモアさん自身が分かっている事では?」


「貴方は大した事ない、けど貴方のパーティーメンバーの女性達は違う。全員かなり出来るわね、なら彼女達に協力してもらったと考えれば不可能じゃない……」


……私も今後は少し魔力を多めに他者から把握してもらえる様にしようかな。


これ以上赤ツインが喋るとそのパーティーメンバーであるリエリとユーリ、それにシアちゃんくらいがいい加減怒りそうな気配を出してるので話をまとめるとしよう。


「モアさん、それでは貴女は何をすれば納得出来ると言うのですか?」

色々ゴタゴタ言ってたが、結局彼女の目的が知れれば簡単に解決する話だろう。


「……あの庭で私と勝負よ。仮にもこの学園都市で魔法使いを名乗るだけの実力が本当にあるのなら見せてほしいわね!」


結局バトルの展開。この子も脳筋なのかな。

イオちゃんと出会って間もない頃に大差ない理由で魔法使ってケンカしたことを思いますだした私だ。


やっぱり教師と生徒も似る人は似るもんなんだな。

「分かりました。貴女の望む通りにしましょう」

彼女の好きにさせるって決めてたし、付き合うとしますよ中年は。


「は?赤い髪のエルフよ、勝てる訳ないだろ?バカじゃないのか?それよりも屋敷を見て回るぞ!」

「なっ何ですってこのちびっ子が!」


「ああん!?誰がちびっ子だこの小娘がぁーー!」

「………リエリ。ラブーンさんをお願いします」

「……………………分かりました」


精霊幼女よ、ハッキリとものを言い過ぎだぜ。










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