第15話 火竜の咆哮で夕食を食べることになった件について

「こっちに来るといい。いい時間だ、食事を共にしようじゃないか」


 スカーレットは僕たちを空いているテーブルに案内し自らもそこに座った。

 歓迎してくれるのは嬉しいが、今までして来た自らの行為を思い出すとどうにも居心地が悪く感じてしまう。



「そう顔をしかめるな私の可愛いヒトラ」

「この歳になって可愛いは止めてくださいよ」


 彼女は僕を見て柔らかい微笑を浮かべた。駄目だ。どうしてもこの人には頭が上がらない。


「別に取って食おうなんてつもりはないよ。私のクランに入るかどうかは君自信が決めればいい」


 ただしいつでも歓迎するよ。そう彼女は付け加えた。

 思わず目頭が熱くなる。本当にこの人は困る。もう何度もクランには誘われていた。僕は何度もその善意を蔑ろにしているのに、それでも彼女は微笑んで待ってくれているのだ。


「本当にすいません……でもまだ僕は……」

「全く言ったそばからそれか。相変わらず君は困った子だな」



 スカーレットはゆっくりと手を伸ばしておもむろに僕の頭をかき回した。

「ちょっ、スカーレットさん! 子供扱いはやめてくださいよ!!」

「ははは、すまない。久しぶりに見た息子が思いの外可愛くてね」


 訴え虚しく、なおも僕の頭をなで回すスカーレット。言葉とは裏腹に、この優しくもガサツな撫で方はどこか懐かしさを感じて安心する。


「あ、あはは……なんか蚊帳の外ですね」

「全くじゃ!! 妾達のような絶世の美女を放置とかなに考えているじゃ!!」


 あっ。こいつらいるの忘れていた!?

 このやり取りを見られたかと思うと恥ずかしさで死にたくなってきたんですけど。

 ていうかいっそもう殺してくれ……シテ……コロシテ……。


「はは、置いてきぼりにしてすまなかったね。お詫びと言ってはなんだが夕食ディナーは私が奢ろう」


 スカーレットは動揺することもなく、余裕の笑みを浮かべるばかりだ。

 彼女を見ていると嫌でも自分がまだまだ子供だと自覚してしまう。それがまた悔しくてたまらなく感じるだった。




 ◆



「ふぅーくったくったのじゃあ」

「メアリーさんお行儀悪いですよ?」



 夕食を食べ終えたメアリーは椅子にふんぞり返り腹をさすっていた。

 聖女に注意されてるし、自称れでぃ(笑)とやらはどこにいったんだよ。

 しかしメアリーはそんな僕の哀れみなぞ露知らず、ゲップまでする始末である。どうしようもねぇなこつい。


「さて、夕食もすんだことだし少し話があるんたが」

「えー妾そろそろ眠いんじゃが。夜更かしはお肌の天敵なんじゃぞ」

「すまないねもう少し聞いてくれると嬉しいんだが」


 話とはなんだろうか。

 ていうかメアリーは飯を奢ってもらったんだから話ぐらい聞いてやれよ。君ただ一人おかわりしてたじゃん。


「ふんっ。仕方ないの手短にの! 手短に!」

「ありがとう」


 流石のメアリーはも奢ってもらった手前、話ぐらいは聞くつもりになったらしい。最初からそうしろよ。


「さてヒトラに頼みがあるんだが、うちの有望株達と迷宮に潜って欲しい」

「つまり新人のお守りっこと?」

「そうは言っていない。ただ暴走しないか心配だから一緒にダンジョンへ行って欲しいと言っているだけだよ」


 それをお守りと言わずなんと言うのか。


「いや僕じゃなくて他の……」


 他の連中と言おうとして口をつぐむ。そう言ばここのクランの連中はやたらと我が強いことで有名だ。そんな連中に新人教育なんていう高度なことが出来るはずもない。


「察してくれたようでなによりだ」


「エヴァンスの奴はどうしたんですか?」


「彼は別の依頼があってそっちに行っているよ。まぁ、いたところでコミュニケーションに些か不安が残るが」



 エヴァンスは僕と違い実力のみでAランクに到達した実力派の冒険者だ。しかしその確かな実力の反面、中々にコミュニケーションが難しかったりするのだ。天は二物を与えず。

 やっぱり噂に違わず、このクランろくな奴いねぇなぁ。


「それでも僕はそういう事に向いてないですよ」

「いいやそんなことないさ。君以外適任者はいないよ。贔屓目抜きでも君の柔軟性の高さは評価できるものだよ。私は君ほど臨機応変に行動できる人材を見たことがない」

「そこまで言われるとむず痒いです……」


 確かに僕の血術は柔軟性に優れいかなる事態にもたいてい対応出来る。そこは自分でも評価しているし、謙遜するつもりもない。

 だが、所詮世間では忌み嫌われている血術使いブラッディだ。普通は蔑まれるばかりなのに、こうも両手を上げて誉められるとむず痒くてたまらない。



「報酬も弾もう。どうだろうか」

「分かりましたよ。そこまで言われたら無下には出来ないですし受けますよ」


 別に報酬につられたわけではない。ただここまで言ってくれる彼女をこれ以上蔑ろにしたくなかっただけだ。


「ふふ、そう言ってくれると思っていたよ」


 彼女は僕の返答を聞くと嬉しそうに、そしてこうなることが初めから分かっていたかのように頷いた。きっと僕がこう考えるのすら筒抜けなのだろう。本当に僕はこの人に敵う気がしないね。

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魔属崩れと蔑まれた血術使い、倫理的に本気を出せなかったけど、追放されたしもう好き放題にする。戻って来いって言われたところでもう遅い。僕の血は僕のもの。そしてお前の血は全部僕のものだ! 全部寄越せ!!! 灰灰灰(カイケ・ハイ)※旧ザキ、ユウ @zakiiso09

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