第13話 助けたシスターが有名な聖女だった件について

 転移陣まで戻ると見覚えのある男が直立不動の姿勢を保っていた。

 シスターを見捨てたパーティーのリーダーだ。どうやら彼だけは律儀に待っていたらしい。


「あぁ! せ、聖女様! よくぞ御無事で!!」

「カドックさんこそ大事なくて良かったです。えっと他の方々は?」

「私の命令で先に帰らせました。負傷が酷かったためなので、彼らが決して薄情ではないことをご理解頂きたい」


 このリーダー、名前はカドックって言うのね。本人のイメージにぴったりなお固い名前だなぁ。

 しかし僕がふざけた事を考えている中、彼は真面目だった。

 

「聖女様、そして見知らぬお方。本当にありがとうございました!!!!」


 カドックは何の躊躇いもなく、また綺麗な土下座をかました。こういう率直なことや、自分保身よりも仲間の弁明をするあたり良い人間なのかもしれない。


「ん? 聖女???」


 そう言えばわりと聞き流していたが聖女って言った?

 単なるシスターじゃなくて?


「し、知らないのかい!? 彼女は神よりし与えらた天啓ギフトを持つ者。天覇の聖女マルタとは彼女の事だ!」


 ええ……まさかのそんな有名人だったのか。

 見たことは無かったが流石に聖女マルタの噂は知っている。選ばれた者のみ授かると言われる天啓ギフト。彼女のそれは本当に凄まじく、彼女の大斧は海を割り天を裂くと言われているほど有名だ。


「あ、はい。お恥ずかしながら一応そう呼ばれているみたいです」


 はにかみながら笑うマルタは聖女というより年相応の女の子に思えた。でもこんな無害そうに見てる女の子が大斧振り回すとか考えると恐怖で足が震えるね。




 ◆




 転移陣を介して迷宮から出ると辺りは既に暗くなっていた。カドックは仲間の様子が気になるのか駆け足で迷宮を後にした。


「はぁーいつの間にかこんな時間ですねぇ」


 マルタは苦笑いしながら辺りを見回した。

 そんなに長く入っているつもりもなかったのに随分と時間が経ってしまったようだ。

 ほんと誰のせいなんだか。攻め立てるようにその原因メアリーを睨み付けても本人はなんのその。


「ひゅーひゅー」


 吹けもしない笛を吹こうとするばかりである。それもう喋ってるじゃん。


「いやいや吹けてないから。ていうかメアリーまじで戦犯だから。あんな露骨なトラップに引っ掛かるとかまじないですわー。ほんとにロリババァなの? 脳スッカラカンじゃん」


「なんじゃとー!! おのこならそれぐらい笑って許す度量をみせい。というかヒトラ、妾だって忘れておらんぞ!! お主、妾を見捨てようとしたじゃろ!!」


「そんなこと言ったら君だって僕の事を無理矢理に道ずれしたでしょうが!」


「「ぐむむむむ」」


 メアリーと僕の口論は段々とヒートアップしていき、いつの間にか揉みくちゃ合いに。お互いのほっぺたを一心不乱に引っ張り合う悲しい二人組がそこにはいた。ていうか僕だった。

 しかし、引くことはしない。これはお互いの尊厳を懸けた争いなのだ。ぶっつぶしてやる!


「ぷっ……ぷあはは! あはははははは!!!」


 突如に響き渡る笑い声に僕とメアリーはきょとんと顔を見合わせた。一度争いを止めて声の先に視線を向けてると、そこには大層にお腹を抱えて笑う聖女様がいた。


「ご、ごめんなさい……そのお二人があんまりにも仲良しで見ていて楽しくなっちゃって……ぷっ」


 なおも堪えようとするが、耐えきれず笑うマルタ。僕とメアリーはそんな彼女を見て毒気を抜かれたのか、いつの間にかお互いのほっぺから手を離していた。



「ま、仲が良いのは否定せんがの。何せヒトラは妾の嫁だからなっ!」

「違うし。後、それ公衆の面前で言うの止めてよね。いつお縄につくかわからないし」

「ほぇ? なんでじゃ?」


 意味が伝わらないのか本物の幼女のようにキョトンとするメアリー。なんで変なところで無垢なんだよ。


「ふふ。本当にお二人は仲良しなんですね」


 マルタは僕ら二人を見てほっこりとした笑みを浮かべている。こういう時に無理矢理否定しても良いことはないし、余計な解釈をされるだけだ。

 とりあえず返事するわけでもなく後頭部をボリボリとかくだけに留めた。


 それでも彼女はニコニコと僕らを眺めている。そして唐突に何か思い付いたのか、胸の前で手のひらをパンッと叩いた。


「そうだ! 今日のお礼も兼ねてご飯を食べに行きましょう! 私、良い場所を知っているんです!」





 ◆



「こ、ここがおすすめ……?」


「はい、ここの料理は絶品なんです」


 マルタに連れられて来た場所を見て困惑する。正直もうこのまま帰りたいぐらいである。

 見た目は特に可笑しいわけでもない。どこにでもあるような酒場だ。


 問題なのがここが最大手クラン火竜の咆哮クリムゾン・ロアが経営する酒場だったことだ。

 そしてこのクランと僕は浅からぬ因縁があるのだった。




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