第12話 聖女とやらは良い香りがするし、どことは言わないけどもの凄く柔らかい件について



「おーおーまた派手にやったのぅ。迷宮が滅茶苦茶じゃ」


 メアリーが笑ったように、この迷宮階層はジェネラルオークとの戦いの余波で半壊していた。あちこちヒビだらけで、少しつつけば瓦解しそうなまである。



「凄い……なんて威力ちから……」

「別に羨ましいと思われるものでもないよ……」


 一時の感情に任せて動いていたが思い出した。僕は血術使いだ。どれだけ凄く見えようが血術と知ればその評価は一変する。


 ーーこの魔属崩れが!!


 ーーこの穢らわしい血術使いブラッディがっ!!


 ま、所詮こんなところだろう。

 しかし、シスターの反応は想像していたものとは違ったものだった。


「いいえ……いいえ! そんなことありません!!」


「あ……」

 両手を包み込むように握られた。唐突なことや、鼻腔をくすぐる女子特有の臭いにドギマギしてしまった。くそっ、自分の経験値の無さが恨めしい。


「貴方は絶望の底にいた私を助けてくれました。それは紛れも無い事実であり、貴方が誰であろうとそれを無下にするなんて出来るはずもありません!」


 さんざん目の前で血術を使っていたし、もうすでに血術使いブラッディということはばれているだろう。

 それなのに彼女は微塵も僕に対して不快な感情を出すことはなかった。

 だから彼女の言うことは嘘偽りないのだろうと、不覚にもそう思ってしまった。そう思うと途端に照れ臭さが込み上げて来る。


「ま、まぁ、無事で良かったよ……」

「はいっ!!!」


 シスターは太陽の如く満面の笑みを輝かせた。まぶしっ。その笑顔に思わず見とれていると急に脛の方かは激痛が走った。



「いたぁ!? ってメアリー! なにするんだよ!!」

「ふんっ! 妾以外の女子おなごに鼻の下を伸ばしおって!!」


 こんにゃろぉ……いきなり脛を蹴飛ばすとかどういう教育受けてんだ。

 しかも、彼女は謝るどころかぷりぷりと怒りの声を上げている。何故にこうも機嫌が悪くなったのか心当たりがあるはずもなく、皆目検討もつかない。幼女って理不尽でこわ。


「だいたいお主もお主じゃ!! そんなふしだらな凶器ボインを剥き出しにしおって!!!」

「あ、ちょっ胸を叩かないでっ……ンッ」


 一心不乱にシスターの一級品遺物レリックと言っても過言ではないおっぱいがブルンブルンと猛威を奮っている。

 いいぞもっとやれ……じゃなくて、

「こらこらふつーに止めなさいメアリー」


 無限に眺めていたいという衝動に駆られるが、そこはなんとか押さえつけてメアリーを引き剥がしにかかる。

 これ以上目の前の光景を見せられると精神衛生状、非常に本当にまじでよろしくない。更に続けられたら、せっかく手に入れた貴重な血液が噴射しておじゃんになりそうだからね。




 ◆


「はぁ……」

「滅茶苦茶大きい溜め息を吐いてるけど、どしたの?」


 どしたん? 話聞こうか?

 下心満載のチャラ男ムーブは冗談として。体に欠損なく命が助かったというのに大きく溜め息を吐くシスター。何か他に気がかりでもあるのだろうか。


「いえ……その大したことではないのですが武器が壊れてしまいまして……」

「確かに酷い破損具合じゃのぅ」


 メアリーが言うように件の武器は修復不可能なほど破損していた。仕方のないことだ。冒険者をしていれば武器の問題は避けられない。使えば磨耗するし刃はすり減る。微々たる損傷も積み重ねれば、いずれ蓄積し破損へと至るのだ。


「えっと、何か思い入れでもある武器だった?」


「あ、はい。この武器は母の形見なので……」



 本人も修復が不可能なことは理解しているのか、露骨に項垂れている。仕方ないと理解っていても本人的にはやりきれない部分が強いのだろう。よくよく見れば彼女の目尻は涙で滲んでいた。

 よし。試したかった事もあるし、やってみるか。



「ねぇ、ちょっとその武器貸してくれる?」

「え? あ、はい」


 渡された大斧を丁寧に地面に置き、破損が特に酷い刃の部分に手を当てる。


「えっと、何をするつもりですか……?」

「まぁ見ててよ」


 シスターは心配そうに問いかけているが、気にせず目を瞑り集中する。

 強くイメージしろ。数多の血液が収納されたストック。その中でも一際濃く強度の高いものを呼び出すのだ。そうあの黒戦鬼の禍々しくも苛烈な血をイメージしろ。


「bloody rebuild!」


 イメージをそのまま大斧へと注ぎ込む。そしてそのイメージをなぞる様に血が湧き、斧に絡み付く。ひび割れた箇所を埋めるように染み込み、最後には全身を隈無く覆い尽くした。そうして精製されたのは緋色に輝く大斧だった。


 うん。中々いい出来じゃないかな?

 ジェネラルオークの血を使っていることもあり、強度も申し分ない程に向上していることだろう。



「な、なななな……!?」


 シスターは目の前の光景が信じられないと言わんばかりに口をパクパクしていた。

 あ、まずった。やっぱり血術で直された武器とか嫌かな?

 勇者パーティー時代は露骨に嫌がられたからばれないようにうっすらと使用していたし。


「まぁ、あくまで血術の応用だし不快なら……」

「ありがとうございますーーーーーーー!!!!!」


 !?

 シスターが思いっきり抱きついてきた。

 何を言っているか自分でも皆目検討もつかないが本当にそうなんだ。

 てかやばいめっちゃいい匂い。あとなんか腕にもの凄い柔らかい感触があるんですけど!?


「おいヒトラよ……」


 腹の底が冷え切るというか、下半身の大事な部分がキュンッとなる感覚を覚える。発生源にチラリと視線を向けると、そこにはそれはそれはお怒りな銀髪幼女様がおらしゃった。


「ちょ、ちょ……べ、別に大したことしてないし大袈裟だよ」

「むぅ……」


 これはヤバイと無理矢理引き剥がすと、シスターは何故か不満顔で唸った。勘弁して欲しい。女子に免疫なんてないし、メアリーが面倒そうだ。

 それに正直今回の事は僕らが原因っぽそうだし。むしろ罪悪感のほうが大きい。それで感謝されても僅かに残ったなけなしの良心が痛むだけだ。

 まぁうん、あれだ。一応本人も満足しいるみたいだし良しとしよう。うん、そうしよう。

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