第3話 第一異世界人、発見?
【
無感情で抑揚のない声が聞こえたかと思うと、俺の意識が覚醒した。
それと同時に、筐体内を満たしていた摩訶不思議な水色の液体が抜けていく。
洋服は濡れていない。肺の中に入った液体を吐き出す必要もない。
本当に不思議な液体だ。
意識が失う前に拡張機能のインストールって言葉が聞こえた気がするんだが、そのインストールとやらは終わったのだろうか。
……15分が経過しているな。思ったよりも短い。
「うん……? 何故俺は経過した時間がわかったんだ?」
時計も確認していないのに……。
ふと、無意識に理解できた。
「そうか。これが拡張機能の『自己診断』アプリの効果か」
意識を失っている時間というよりも、自らの身体の状態が手に取るようにわかる。それによって寝ていた時間もわかったのだ。
知ろうと思えば知れる。情報を視界にも表示できるようだ。
おぉ……イッツ、ファンタジー。
この筐体のメディカルプログラムによって性機能の改善などが行われたらしい。擦り傷や腰の打撲が治療されている。
イッツ、ファンタジー……。
「ふぅ。シャバの空気は美味いぜ」
筐体を出た瞬間に一度は言ってみたいセリフを言ってみた。が、猛烈に恥ずかしくなった。
俺は一人で何をしているのだろう?
自分でも思っている以上に不安と寂しさと孤独に襲われているようだ。
「取り敢えず、現状把握か……『自己診断』アプリさん、拡張機能? とやらを教えてくれませんかねぇ?」
するとアプリのおかげで名称だけ知ることができた。
《インストール済み拡張機能》
【特殊
・『
・『順応体』
・『精神防壁』
【
・『概念翻訳』
・『自己診断』
・『完全記憶』
【知識系拡張機能】
・『次元解析特務研究所の取扱説明』
詳しい内容まではわからない。まずは名前でわかるものから。
『概念翻訳』は翻訳機能だろう。概念、というのがいまいちよく分からんが。
『自己診断』は超有能。自分の身体のことがよくわかる。試しに腕を叩いてみると、筋肉や皮膚組織などの極々軽度の損傷と診断された。
『完全記憶』は文字通り完全記憶。目が覚めてから自分が行動した動き、見たもの、発した言葉の一言一句全て思い出すことができる。マジ最高! これで勉強は楽勝だ!
『精神防壁』という拡張機能は、精神攻撃から守る効果があると思う。洗脳や精神汚染攻撃を繰り出す何かが存在しているのだろうか?
『次元解析特務研究所の取扱説明』は知識だ。この研究所の設備や操作方法の仕方が頭の中に全て入っている。覚えた記憶はないのに知識は記憶にあるという、言葉では言い表しづらい不思議な感覚。ファンタジーの一言で片づけよう。
「残りの特殊拡張機能の『順応体』と『
クトゥルフ神話に出てくるアイテムに『
まさか、本物? これで地球に帰れたりする?
「あのー? 『
諦め半分で管理AIさんに問いかけてみる。
『特殊
「空間の概念移動とは?」
『空間の概念移動とは、空間を概念で移動することです』
「うん、それを詳しく知りたいんだけどな!」
『…………』
管理AIさん、まさかの無言。
これはアレだろうか? 『なんでわからないの?』と貶されてる? それとも天然?
俺の知能レベルが低すぎるだけかもしれない。もしくは、管理AIさんを作り出した人たちの知能レベルが高すぎたのかも。
「じゃあ、『順応体』は?」
『『順応体』はあらゆることに体が順応しやすくなります』
「言葉通りだな。わかったようなわからないような……」
きっと俺の知能が低すぎるんだ。それじゃ仕方がない。俺が悪い。
「よし。現状把握はこんなもんかな。次は周囲の様子を知りたい。取扱説明のおかげで研究所の形や内装はわかるからな。向かう先は……中央制御室。さっきの部屋か」
俺が異世界転移した何もない無機質な部屋がどうやら一番重要な部屋だったようだ。
部屋を移動し、
「ふむふむ。これをこうして……これをこうっと! ポチポチポチッとな」
頭の中に知識に従ってパネルを操作。すると、次元解析特務研究所が部分的に起動する。
全機能は起動させない。エネルギーの枯渇が怖いから。周囲の様子がわかればそれでいい。
音や振動を覚悟していたのだが、それらは一切なかった。本当に起動しているのか不安になるくらい静か。
「ソナーを起動。周囲の地形情報の取得。それらを画面に表示」
これらの指示は音声で行うことができる。思念によってもできるらしいのだが、俺にはまだ無理みたい。
思念とはテレパシーか? どうやればいいのか見当もつかない。
ブオォン、と音を立てて画面に情報が映し出された。
「ふむふむ。ここは海底……いや、地底か。巨大な半球状の地下空洞の中にこの研究所があるのか」
ソナーによる反応では、周囲に人工物らしきものは存在しない。
ドーム状の地下空洞の壁が滑らかなことが人工の痕跡とも言えるかもしれないが。
出入口はない。地下空洞の壁に隙間は一切ない。
「もしかして、この研究所は封じられていた、とか?」
あり得る。そうとしか考えられない。こんな場所に建てるのは理由があるはず。
可能性が最も高いの何者かがここに隠して封印していた、ということ。
そもそも、俺の中の知識に研究所が建てられた理由や目的、建てた者たちと研究していた者たちのことは一切存在していない。
「次元解析特務研究所という物騒な名称だからなぁ。封印されても無理はない。俺、封印解いちゃったけど大丈夫かなぁ」
解いてしまったものは仕方がない。封印を解かないと俺は餓死してしまうのだ。
愛妹ユナにもう一度生きて会うためにも、封じられた研究所だろうが、世界を破壊する力だろうが、俺はなんだって使う。
覚悟を決めたその時、
『生命反応を二つ確認』
報告と共に、けたたましい警告音が鳴り響いた。
『
「防衛機能を
俺は無意識にそう叫んでいた。
何時如何なる時も冷静沈着な管理AIさんが命令を受諾。
『命令受諾。防衛機能を起動します。魔力炉を稼働。
研究所全体がバリアで覆われるのを情報で確認した。
しかし、未確認生命体の行動は止まらない。
地響きが船体を揺らす。
『魔力の収束を検知。魔力砲、放たれます。進路予測……当艦の上方100メートル地点を通過予測。影響を計算……影響、無し。魔力砲が通過します』
管理AIさんが報告したその瞬間、戦艦を隠していた地下空洞の上部が吹き飛んだ。
白い光に呑み込まれて、土の瓦礫が跡形もなく消滅する。
「なっ!?」
神の一撃と言われても納得できる攻撃。
一瞬、核攻撃かと思った。管理AIさんによると魔力砲。
あんなものが直撃したらこの船はひとたまりもないんじゃ……。
管理AIさんの予測通り、上部を飛んでいった魔力砲は研究所には何の影響も及ぼさなかった。
「はぁ……」
ホッと一息をついた俺だったが、まだ危険は過ぎ去ったわけではなかった。
地下空洞の上部が吹き飛んだことにより、空が見えるようになったのだ。
「なんだあれは!」
俺が見たのは、禍々しい赤と黒に渦巻く空と体長数百メートルもある龍に似た巨大生物。
そして、それと激しい空中戦闘を繰り広げる小柄な第一異世界人(?)の姿だった。
「Oh! イッツ、ファンタジー……」
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