感電!!取り立て屋からの依頼
幸福の取立人、カオル・U・シジマはいつものように貸し付けた幸福の利子を払わせるために、ある男の家に向かっていた。見てくれは普通の民家であり、家族が住んでいるような広さでありながら、男が一人だけ住んでいる。
名前は『バイオ・エレクル』
アルコール依存症の男で、酒のせいで妻と息子に別居を言い渡された
「エレクルさん、今日返済日ですよ。幸福で返すか、金で返すか選べ!!」
酒癖が悪く常に不幸ぶったすまし顔をする男が、借りた幸福を返せるわけも無いと踏んでいながら、あえて意地悪く尋ねる。何度かドアをノックしてみるが返事はない。
すでに半年ほどの付き合いだが、無断で返済日をバックレたことはないエレクル。逃げたか?と疑うより先に、何かあったのか?と心配が勝った。
「エレクル…?」
二週間に一回の返済。本来の返済日は明日でありながら、仕事が休みである今日にしてほしいと言ったのはエレクルの方だった。彼に限って忘れているということはないとは思うが、念のため電話を掛ける。
部屋の中からは微かに無機質な音が流れており、スマホを家の中に置いているようだ。
庭を回ってみると、カーテンの隙間から室内が見える。顔を張り付けながらのぞき込むと、作業着を着た男が倒れていた。足元だけで顔までは見えないが、状況的にエレクルだろう。
緊急事態だと思って、思いきりガラスを蹴破る。倒れた男に駆け寄ると、ひどく酒臭い。
その時点で安堵した。ただエレクルが酔い潰れただけだったのだ。
「エレクルさん。おい、酒もほどほどにしろ。返済日ですよ?財布から抜き取るぞー」
頬をぶって起こそうとするが、全く反応しない。息を確かめるように口元に手を当ててみれば、一切の呼吸を行っていないようだ。口元には嘔吐痕。床に散乱した酒類の缶や瓶が倒れており、それらと一緒になって、彼が吐き出したであろう吐瀉物があった。
「おいおい、死んでるのかよ…?」
シジマは思案する。彼の財布から金を取ったとしても割に合わない。このまま死体を残しておけば、真っ先に自分は疑われるし、闇金や詐欺まがいの手口によって警察からはマークされている身。余計に面倒なことになるのが想像できる。
「テメェの元金残ってんだよな…。」
寝そべったエレクルの上に座って煙草に火をつける。死体のように冷たく硬直した椅子であり、座り心地は最悪だ。ため息と煙を吐き出した後、ふと医者の知り合いの顔を思い出す。
「ドクター、
道中で職質を掛けられたとしても酔いつぶれているだけだと誤魔化せるように酒の空き缶を持っていく。酒臭い姿も相まってぱっと見た限りでは死んでいるようには思われないだろう。
死体を解体して裏ルートでの臓器販売の算段を付けながら診療所へと歩く。
「ドクター。ドクター・マギカ。ちょっと急患だ」
死んでいるとはいえ、硬直した男の体を背負って、町はずれまで歩くのは大変だった。声を掛けられないようにと遠回りをしたが、それがさらに体力を削る要因となる。
「お前は…いつかの取立人…。背負ってる男が患者か?」
シジマの背後に怪訝な顔を浮かべた後、背負われた男を浮遊魔術でベットまで運ぶ。軽く脈を診てみれば、呼応はなく触診の限りでは死んでいる。
驚いてシジマに目を向ければ、煙草を咥え火をつけようとしていた。
「そいつ、バラしてくれ。臓器はこっちで売っぱらうから、使えるところだけ頼む」
「お前が殺したのか?それに臓器を売るって…。」
動揺しながらも『診療所内禁煙』と書かれた紙がふわりと煙草を包み込んでもみ消した。一瞬苛立ったような顔をするが、すぐに取り繕った笑顔を浮かべて肯定する。
「俺が殺したわけじゃねえが、金は回収しなきゃならん。まぁ言う通りにしてくれや。」
「安楽死も請け負うし、死体の解剖だって出来なくはないが…。本気か?」
父親という意味ではスズの目の前で誇れないことはしたくない。だが、それ以前に医者であり、魔術師だ。奇跡と称して神をこき使う不届き者が、いまさら善人ぶるなんてことはなかった。
「そもそも死因はなんだ?悪いが、あくまで司法解剖という名目で処置を行う。なるべく臓器に手は出さないが、申請を出す都合上仕方ないもんだと割り切ってくれよ?」
「ああ、そっちにもいろいろルールがあることは分かってる。どうせほとんどの臓器がぼろぼろだろうからな。少しでも金になればそれでいいさ」
スズの勉強を見ていたシルヴァを呼んで、処置室に向かう。司法解剖は国の取り決めにより二人以上の医師立ち合いの元行わなければならないのだ。
「さて、どこから開ける?」
「その前に外傷を見たいわ。目立った傷はついていないけれど、嘔吐について気になるのよ」
口内を開いて喉奥を見みる。傷跡や腫れがないことから、自分で吐いたわけではないだろう。だが、自然に吐いたにしては回数が少なく、吐瀉の勢いがない。
「魔術の痕跡…。副作用での嘔吐。それも意識を失う直前に二回と、失ってから一回。」
「口元についていた液体を成分分析してみたけれど、お酒と唾液以外にはないわ。間違いなくその魔術が原因のようね。どんな魔術?」
「雷系統だが…。反作用…。つまりは雷避けの絶縁魔術だな。」
基本は建物に仕掛ける絶縁魔術。人用に作り替えられており、わざわざ魔術師のサインまでついていた。
『Dr.ウラン』と…。
二人は顔を見合わせ苦い表情をする。しばらく何も手を出さなかったが、彼らのあずかり知らぬところで被害を増やしていたらしい。
「まて…。この男、魔力が流れている。なぜか生きているぞ!!」
「どういうこと!?心臓が動いてないのに?」
Dr.ウランが仕掛けた謎は、二人をゆっくりと引き込んでいた。
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