01-03 十歳にしてチート能力、さすが魔王(3)


 ノートに設定を書き出してみたものの、ヒロインと攻略キャラクターのざっくりとした設定や、お気に入りのエピソードしか思い出せなかった。人間の国の名前どころか、ゲーム画面で見たはずの世界地図すらおぼろげにしか思い出せず、諦めて部屋を出た。我ながら残念な記憶力だ。


「ねえ、そこのあなた」


 部屋を出てすぐ、たまたまそこにいた女性の使用人に声をかける。使用人は肩をびくっと震わせて振り返ると、「……はい」と消え入りそうな声で答えた。おどおどとして、目が明らかに泳いでいる。


 あっこれは、もしかしなくても怯えられている……?


 日々のディアドラの仕打ちを考えれば当然なんだろうけれど、少し傷ついた。別にとって食おうというわけではないのだ。普通に返してほしい。これ以上怯えられないよう、にこりと笑ってみる。


「この城に、書庫ってなかったっけ?」


「えっ……と、書庫でしたら西の塔の三階です……」


「そう、ありがと」


 私は彼女に手を振ると、教わった部屋に足を向ける。まずは世界地図を探そう。あとは簡単な地理や歴史の本でもあれば、多少参考になるかもしれない。社会科は全般的に苦手だった――いや勉強そのものが得意ではなかったから、頭に入るかはわからないけど。


 書庫はすぐに見つかった。西の塔の三階はほとんど書庫で、それ以外には小部屋が一つあるだけだったからだ。ディアドラはここには寄り付かなかったようで、あまり記憶にない。まあ勉強なんてしなさそうなタイプではあるし、本に興味が無かったのだろう。もったいない。


「……わあ」


 書庫に入ってみると、まず目に飛び込んできたのは大きな大きな地図だった。


 大型の本棚四つ分はありそうな布に、この世界が描かれている。やや色あせ、年季を感じさせる色合いの絵は、ゲームのワールドマップ画面そのままだった。見覚えのあるイラストだけれど、これだけ大きく掲げられると圧巻だ。


 ――そうだ、ワールドマップはこんな風だった。


 布には二つの大陸が左右に描かれている。左側の小さな大陸がここ、魔族の住むナターシア。右側の大きな大陸が人間の住むフィオデルフィアだ。南の方には列島も描かれている。

 ナターシアにはこの魔王の住む城以外は何も書かれていないのに、フィオデルフィアには五つの国と多くの町が記されている。


 ……あれ?


 ディアドラの記憶によれば、ナターシアにも魔族の集落はいくつもある。それが全く描かれていない。ゲームはヒロイン視点でプレイしていたから疑問に思わなかったけれど、魔族の城にある地図なら、魔族の村や町も書かれているべきじゃないのかな。


 これではまるで、人の――


「……こんな所で、どうかされましたか?」


 不意に後ろから声がかかり、私は思考を中断した。



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