第11話 からかいLv.99の彼女

「ねえ、アッキー。昼ご飯はどうしよっか」

「どこかに食べに行くのでもいいんじゃないかな」

「じゃあ、そうしよっか」


 昼過ぎ、ゲームにひと区切りが着いたところでそんな会話をした2人は、財布を持って家を出た。

 マンションを出る直前に「ねね子ちゃんは大丈夫?」と聞かれたけれど、本当のことが言えるはずもないので「自分で用意出来るから平気だよ」と言っておく。

 そして並んで歩くこと10分弱、駅前に到着した彼らは立ち並ぶお店を眺めながら悩ましげに唸った。


「先々週はアッキーが選んだカレーだったっけ」

「よく覚えてるね、そんなこと」

「君と一緒に食べたものを忘れるわけないよ」

「もう、からかわないでってば」

「あはは♪ じゃ、今日はラーメンでいい?」

「塩ラーメンがあるところでお願い」

「相変わらずこだわるねぇ。そんな君のためにいい店を見つけときましたよ〜」

「さすがは夏穂さん」

「ふふふ、ギャルのリサーチ力舐めんなし」


 ドヤ顔で「こっちに来たまえ」と手首をクイックイッする彼女に着いていくと、到着したのは駅前の広場からは少し離れた場所にあるラーメン屋。

 始めてくる場所だとワクワクしながら入店した暁斗あきとは、店員さんから渡されたメニューを見て首を傾げた。


「あれ、塩ラーメン無いけど」

「まあまあ、とりあえずとんこつ頼もっか」

「……わかった」


 ラーメンと言えば絶対に塩!と幼い頃から思い込んでいる彼にとって、期待していた塩ラーメンが無いというのはテンションの下がる事案である。

 しかし、店員さんの目の前でそんなことを言う訳にも行かず、大人しくとんこつラーメンを頼んで待つこと数分。

 目の前に置かれた大きな器に向かって手を合わせた暁斗は、一口目を食べる直前に肩をトントンと叩かれた。


「ちょいちょい、今からそのラーメンを君のお望みのものに変えてあげよう」

「そんなことが出来るの?」

「夏穂さんに任せんしゃい!」


 とんこつが塩に変わるということは、基本的にありえない。だが、科学の進歩とともに料理も進化し続けている。

 ギャルな見た目に反して暁斗がJK料理人と崇めているほどの実力を持つ夏穂であれば、もしかすると……と思ってしまったのだ。


「じゃあ、ちょいと失礼するね」

「?」

「ほら、口開けて待ってて」

「あ、あーん?」

「どうぞ、召し上がれ♪」


 しかし、彼女がしたのは自分の箸でラーメンを持ち上げ、暁斗の口に運んだのみ。

 簡単に言えば普通のとんこつラーメンを、とんこつラーメンとして人に食べさせてもらっただけになる。

 これのどこが塩ラーメンなのかと文句を言おうとした暁斗は、やけに自信満々なその表情を見て察した。


「し、しおラーメン……」

「ふふふ、ようやく気付いたようだね」


 まだ分からない人にこのとてつもなく寒いギャグを解説するとすれば、汐留ちゃんが食べさせるラーメン→汐ちゃんラーメン→汐ラーメンということである。


「私は一言も、塩分のシオだとは言ってないかんね」

「してやられた……」

「でも、汐ラーメンも悪くないでしょ?」

「……まあ、美味しいかも」

「それなら全部食べさせてあげる」

「そ、それはいいよ! 夏穂さんが食べられないし」

「アッキーが食べさせてくれたら解決じゃん♪」

「さすがにラーメンが伸びちゃうよ……」


 結局、「私がしたいからあと3口だけ!」と言われ、仕方なくあーんを受け入れることになった暁斗。

 彼が店員さんから羨ましそうな目で見られて、ものすごく恥ずかしさに耐えながら完食したことは言うまでもない。


「なかなか美味しかったね」

「う、うん」

「アッキー、いつまで間接キスに照れてるの〜?」

「別に照れてなんかないし……」

「やっぱり否定の仕方が童貞丸出しだね♪」

「だから違うってば!」


 相変わらずハイスピードでからかってくる夏穂に、「同じ箸使っていいの、アッキーだけだからね?」と囁かれたことで、諸事情によりしばらくコンビニのトイレから出られなくなったことは別のお話。


『アッキー、大丈夫?』

「も、もう少しで収ま……いや、終わるから……」

『早くしないと夏穂さん、ナンパされて連れてかれちゃうかもね〜?』

「えっ?!」

『アッキー以外の男の家に上がることになるかも? 私の初体験は会ったばかりの人かな?』

「そ、それはダメだよ!」

『それなら、今から1分以内に出てきて♪』

「そんなぁ……」


 そんな言葉に釣られて大慌てで飛び出したら、既に購入していたパピコの半分を分けてくれる優しい夏穂だった。


「溶ける前に出てくれて助かった〜♪」

「そういうことなら早く言ってよね……」

「でも、アッキーの反応面白かったし?」

「……もう勘弁して」

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