第10話 誰にも秘密のゲーム大会

 これは今から約1年前のこと。


「初めまして、下の階に引っ越してきた汐留しおどめ 夏穂なつほです!」


 インターホンが鳴って出てみると、いわゆるギャルと呼ばれる部類の女の子がそこに立っていた。

 どうやら引越しの挨拶にわざわざ来てくれたらしく、初めての経験に暁斗あきとも少し緊張して固くなってしまう。


「あ、えっと、上の階に住んでる……いや、来てもらってるからここの部屋って言うべきなのかな」

「……ぷっ、お兄さん面白いね♪」

「お兄さん?」

「うん! 年上かと思ったんだけど、いくつなの?」

「16の高一、そこの学校に通ってるよ」

「えっ、もしかして須野桜すのざくら高校?!」

「そうだけど……」

「私も来週からそこに通うの!」


 偶然の出会いからは何もかもが早くて、同じ学校ならもう友達だと強引に家に連れ込まれたかと思えば、荷解きを手伝わされたりもした。

 箱の中から出てきたゲームを暁斗も攻略している最中だったこともあり、2人プレイで遊んだり、時には片方がクリアできない所をもう片方が代わりにやってあげるなんてことも。

 そうこうしているうちに親しくなってはいったものの、同じクラスになってハッキリしたのはスクールカーストの差。

 地味で目立たない暁斗に比べ、見た目も性格も派手な夏穂はわずか数時間で新たな友人たちに囲まれていた。


「ねえ、アッキーも一緒に帰ろうよ」


 何度かそう声をかけてくれたこともあったが、その全てを彼は断った。

 だって住む世界が違うのだ。自分のような地味な男とつるんでいるところを見られて、彼女の株が下がりでもしたら責任が取れない。

 そう考えて学校では避けていたと言うのに、ある日突然放課後に呼び出されたかと思えば、「今からアッキーの良いところを100個言います!」と30分ほど拘束された。

 結局、まともに言えたのは最初の7個目までだったけれど。


「とにかく、私が言いたいのはアッキーが良い奴だってこと! 私のために絡まないようにしてるなら、アッキーは自分を卑下しすぎだから!」


 たったその一言だけで今まで持ち抱え続けていた陽の者との差を消すことなんてできない。

 それでも、そう伝えてくれた気持ちはすごく嬉しかったから、暁斗も出来る限り彼女に心配をかけないようにしてあげたかった。

 そのための手段として、週末は夏穂の家に集まって一緒に遊ぶ。そういう約束を取り付け、お互いに一年弱程の期間守り続けてきたである。そう、先週の日曜日までは。


「先週は一人でボス攻略したんだかんね?」


 先週の日曜日と言えば、ねね子が人間に変身できるようになってからまだ時間が経っていない頃。

 心の整理をするために、彼女と向き合う時間が必要だったのだ。だから、暁斗は初めて理由も告げずに約束をキャンセルしたのである。


「ごめんって。バタバタしてたから時間無くてさ」

「やっぱりねね子ちゃんのこと?」

「まあ、そんな感じかな」

「お家デートかな? 羨ましいね、全く!」

「痛い痛い! ヘラヘラ笑いながら的確な位置にエルボーキメてくるのやめて?!」

「リア充爆発しろーい!」

「だからそういうのじゃないってば!」


 彼女はしばらくツボを刺激する攻撃を続けた後、「仕方ないから勝てたら許してあげる」とコントローラーを手渡してきた。

 テレビに映し出されているゲームは有名な『道端ボコボコファイターズ』という格ゲー。

 散々現実で痛めつけられた直後にゲーム内でもめっためたにされた彼が、「そんなんじゃ2Pは別の人に交代かな?」なんて脅されたことは言うまでもない。


「い、今のは手がしびれてただけだよ……」

「ふーん? じゃあ、次は勝てるんだ?」

「もちろん!」

「ふふふ、かかってくるがいいさ!」


 その後、昼頃までバトり続けた2人が、互いに17勝17敗で力尽きたことは、また別のお話である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る