第28話 白雪姫との連絡先交換
スマートフォン。それは現代社会において「ないと困る」が当たり前になった生活必需品である。
全体的な普及率では今もなお爆発的に拡大を続けており、同時にSNSやクラウド技術といったテクノロジーも時代と共に進歩している。インターネット社会を支える必要不可欠な物と表現しても良いだろう。
スマホには様々な機能が備わっているが、晴人が常日頃利用しているのはカメラと写真のアプリだ。ネットや動画視聴などはそこそこすることもあるのだが、それ以外となると利用頻度は格段に下がる。
つまり、何を言いたいのかというと。
(うわぁ、久しぶりに連絡帳とトークアプリ開いたが悲しくなる程に少ないな……)
無事冬木さんと連絡先の交換を済ませた晴人。指で画面をなぞりながら彼女の連絡先を手に入れたことに対し僅かに頬を緩ませる一方、改めて画面上に表示されている連絡先とその友だちの少なさに打ちひしがれていた。
仕方ないといえば仕方がない。晴人はどちらかと言えば消極的な人間だ。きっかけはこれまで数多くあったというのに人付き合いを出来るだけ避けてきたのは他の誰でもない晴人自身なのだから、後悔しても今更という感じだろう。
そういえば、とふと晴人は前へ顔を上げる。連絡先を交換してからというもの、ずっと無言で真正面に佇んでいる冬木さんが気になって視線を向けたのだが―――、
「――――――」
「おーい、冬木さーん」
「―――はっ。ご、ごめんなさい。どうかしたのかしら風宮くん」
心なしか瞳をきらきらとさせていた冬木さんだったが、意識を呼び戻すように声を掛けると、はっとした様子を見せながらうっすらと頬を染める。
「いや、そんなぼーっとしてどうしたんだろうって思って」
「な、なんでもないわ」
「なんでもない事は無いだろうに」
「……笑わない?」
「? あぁ」
どこか恥ずかしそうに訊いてきた彼女に対し、晴人は思わず首を傾げる。
連絡先の電話番号はともかく、もしかしてトークアプリのアイコンがどこかおかしかったのだろうか。インターネット上にあるフリー素材の画像を使用しても良かったのだが、折角なのだからと、以前県内のダリヤ園に行った際に撮影した色とりどりのダリヤの画像をアイコンに設定したのだ。
見栄えも良いし、そもそも晴人は一度設定した画像を頻繁に変更する性格でもない。きっと自分の撮った写真を使用することに対しやや抵抗があったのは確かなのだろうが、過去の自分はそんな日常的に眺めるものでもないと判断したのだろう。
その画像をアイコンとして設定した事については後悔は無い。だが先程の彼女の反応を見てどことなく不安になったのは間違いなかった。つい身体に力が入る。
「その、ね。私……」
「お、おう」
「……誰かと連絡先を交換したの、初めてだったの」
「え?」
頬を染めた冬木さんは、視線を逸らしたままスマホで口元を隠すとそのまま言葉を続けた。
「正確に言えば、パパとママの連絡先は登録していたわ。でも、こうして家族以外で連絡先を交換したのは、風宮くんが初めてなのよ」
「そ、そっか」
「だから嬉しいの。とても、すごく」
恥じらいながらも、じっとこちらを見て紡がれる喜色の感情。
多分耐えられなくなったのだろう。暫くして彼女は再びふいっと顔を背けると、所在なさげにもじもじと身体を揺らした。
(あぁもう、可愛いなちくしょう)
そんな冬木さんの姿を見た晴人も思わず顔を赤らめる。普段は無表情で落ち着いた性格な彼女がそのように感情を露わにしたのだ。真正面から言われた嬉しいという言葉を訊けて、嬉しくない筈が無かった。
心が掻き乱されながらも、ぽかぽかとした温かい感覚。
やや面倒な性格であると自覚している晴人も、連絡先は決して多い訳ではない。実際に母や渡の連絡先以外では、中学の卒業間際に電話番号の書かれたメモを渡してきた多少付き合いのあった数少ない人物のみだ。高校へ入学して以来、それから連絡は一切ない。
いずれにせよ、ただの写真撮影好きな自分が白雪姫にとっての初めてになれたのだ。素直に嬉しいが、もしその事実を高校中に知られでもしたら、冬木さんを美少女として静観している生徒全員から
ここは喜びを噛み締めながら、連絡先を交換した事実を光栄に思うべきであろう。
「じゃあ、私は帰るわね」
「ま、待ってくれ……っ!」
無言の空気に、冬木さんの羞恥が限界に達したのだろう。そそくさとスマホをスカートのポケットに仕舞うとそのまま立ち去ろうとするが、晴人は咄嗟に彼女の華奢な腕を掴む。
ひゃ、と一瞬だけ冬木さんの口から声が洩れるが、彼女は艶やかな髪を揺らしながらすぐさまこちらへと振り向いた。
「やっぱり、冬木さんと一緒に帰る」
「でも、写真は……?」
「いい。いつでも撮れるし、その……」
今は君の側に居たいから、と素直には言えず、晴人は顔を顰めながら言い淀む。言おうか言うまいか暫く葛藤した末、ようやく口に出来たのは、別の言葉だった。
「俺も、その、嬉しかったから」
「…………!」
「……ああもう、ちょっと待っててくれっ」
晴人はここから少しだけ離れた場所に置いていた鞄を持つと、やや早歩きになりながらも素早く彼女のもとへと向かう。
やがていつものように冬木さんの前を歩きつつ彼女と一緒に帰るのだが、気が付けば自然に晴人は後ろを歩く冬木さんに意識を向けてしまう。
何度も先程の表情と言葉を思い出してしまい赤面すると共に、こんな顔を見られなくて良かったと安心する晴人なのであった。
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