実は人見知りで可愛げのあるクール美少女な【白雪姫】といつの間に焦れ甘高校生活を送ることになった件について。

惚丸テサラ【旧ぽてさらくん。】

第1章

第1話 いつもの日常




「……………………」



 澄み渡る青空。春と呼ぶにはまだ冷たい風が、高校の制服に身を包んだ風宮かぜみや晴人はるとに容赦なく突き刺さる。



「……………………」



 晴人が無言ながらも集中して、それでいて寒さに耐えながらジッと見つめていたのは手に持ったスマホの画面だった。正確に言えば、その画面の向こう側。



「うーん……、やっぱりまだ咲いてない、か……」



 高校の敷地内に連なる桜並木。校門から続くその桜の木の内一本の幹から伸びるそれぞれの枝に何度もフォーカスをあてていた晴人は、ようやくスマホの画面から目を離しそう独りごちる。


 ほぅ、と溜息交じりに眼鏡越しに見る息はやはり白かった。


 新学期である四月に突入し、本来ならば開花しているであろう桜の蕾も未だ半分以上が緑色。今年は例年よりも寒い日が続いたので、それも仕方のないことなのだろう。いや、予想通りというべきか。


 結局、晴人はせっかく早起きして登校する生徒がほとんどいない時間帯に登校したというのに、満開の桜を写真に納めるという目的を成し遂げることは出来なかった。しかし普通ならば残念という思いを胸中に抱くのだろうが、不思議と後悔はない。


 春という季節の象徴である桜の芽吹きを、おそらくこの高校の誰よりも先に間近で見ることが出来たのだから。



(さて、登校する生徒が多くなってきたし、俺も教室に行きますか)



 今年から青春真っ盛りの高校二年生。きっと希望に満ち溢れた新入生なんかは、高校生活は高校生にランクアップした自分への期待値をさらに高めてくれる最高の青春舞台だとさぞかし魅力的に映ることだろう。そう、新入生は。


 しかし晴人は違う。きっと去年と同じ、変わり映えのしない高校生活だろうな、とにべもない感想を抱きながら晴人は校舎へと真っ直ぐに足を運んだ。



「よう晴人、おはようさん」

「おはよう渡。……なぁ、今日学校に来るの早くないか?」



 間もなくして校舎へ到着。高校の玄関で屈みながら内履きに履き替えていた晴人に話し掛けてきたのは一年の頃からの付き合いである級友の潮崎しおさきわたるだった。

 

 人懐っこい笑みを浮かべている渡に対し、晴人はいつもどおり挨拶を返した。そして疑問もぶつける。



「いや、俺らも高校二年生だろ? 先輩として新入生らの手本にならないといけないと思ってな」

「渡がそんな殊勝なことを心掛ける筈がない。どうせ登校してくる新入生の女子の吟味だろ?」

「何故ばれたし」

「むしろ気が付かれないとでも?」



 四月に突入して既に入学式から三日が経過していた。きっと女好きな渉のことだ。モテたいとか一年生で可愛い女子がいないかとか、しょうも無い理由で自身の生活態度を見直したのだろうと思い言い放つも、まさにその通りだった。


 渡の趣味趣向にとやかく言う義理はないが、彼女持ちの癖に他の女子に浮ついた視線を向けるのはどうかと思い肩を竦める晴人。



「だいたい、お前には彼女がいるだろうに。どうして女子が訊いたら反感を買われるようなことをするんだ?」

「それはそれ、これはこれだ。美少女は目の保養になる。これ男の常識」

「いつか近くの女子に刺されるぞ」



 主に渡の彼女に、と主語を濁すと余裕そうに唇をふっと緩めた渡。ちっとも反省の色がなさそうな目の前の級友に対し、晴人はそっと溜息を吐いたのだった。


 内履きに履き替え、下駄箱の鍵付きロッカーをばたんと閉めると言葉なくとも自然に足が教室へと向かう。だが間もなくその歩みは渡の声で遮られた。



「おっ、見ろよ晴人。我が学年のマドンナ、『白雪姫』のご登校だ」

「ん……?」



 急に立ち止まった級友に促されて晴人は渡と同じ方角を見遣る。昇降口玄関の全開になった扉の向こう側、先程晴人が歩いてきた校舎までの道をモーゼが海を割るように優雅に歩くのは一人の美少女だった。


 彼女の名前は冬木ふゆき由紀那ゆきな。学校中から『白雪姫』と呼ばれている美しくもクールな美少女だ。


 さらさらとした光沢のある漆黒のような濡れ羽色の長髪に、顔の各パーツが整った端正な顔立ち。制服から覗く乳白色の肌はまるで透けるような潤いを保っており、日本人形のような繊細で美しい容姿は見る者全ての目を引く。


 容姿端麗、運動能力抜群、成績優秀の三拍子が見事揃っているらしい彼女。晴人は違うクラスでしかも一言も話したことが無いので冬木由紀那のことは良く知らないが、聞こえてくる噂はどれも彼女が人間離れしているのではないかと疑いたくなるほどのものだ。


 そんな魅力的な美少女である冬木由紀那は学年問わず多くの生徒に親しまれている―――と思いきや、実はそうではない。



「さすが『白雪姫』、綺麗だが相変わらずの無表情・・・・・・・・・だな。楽しげな笑顔の一つでも見せてくれれば可愛げがあるもんだが、それが鋭い視線と氷の鉄仮面のセットともなると気軽に声も掛けられねぇよ」

「…………おい」



 触らぬ神に祟りなし、といわんばかりの渡の言葉に、いささか嘲りの感情が見えたので思わず責める様な声が出た。


 改めて冬木由紀那を見る。外見の美しさから『白雪姫』と呼ばれている彼女だが、入学してから今まで誰一人とも彼女の笑った顔を見たことが無いという。その普段から淡々とした事務的な口調で冷静沈着な様子から彼女と仲の良い特定の人間はおらず、教室ではもっぱら常に一人で読書。


 冬木由紀那は静けさと儚さの二つを併せ持つ美少女だが、その愛嬌と感情の無さ故、裏では『氷の~』『クール』と揶揄されることも多い。


 因みにだが、入学して間もない頃などは学年問わず多くの男子から屋上に呼び出され告白の嵐だったらしい。しかし恋愛に興味が無かったのか「ごめんなさい、興味ありません」と容赦なく男子たちの勇気ある告白を冷徹に一刀両断。

 現在では誰も彼女に告白しようとする者、そして近づこうとする者などはいない。


 だがそんな出来事があろうとも冬木由紀那が魅力的な美少女だという事実は変わらない。しかも性格は真面目で大人しいときた。こちらから接触することが無ければ相手から冷たい視線を向けられることはないと理解した生徒たちは、既に彼女の存在を遠くから眺める観賞用の美少女として認識していた。


 もちろん、今後関わることも親しくなる機会も無いだろうと思っている晴人もその認識だ。



(ま、見た目で勝手にそう評価されるのは癪だろうけど)



 歩く度に人だかりが割れる冬木由紀那を、晴人は目を細めながら憐憫れんびんの意を込めて眺める。人間の評価は第一印象で決まるというが、周囲からそう勝手にレッテルを張り付けられている彼女の心情はいったいどんなものなのだろうか。


 思わずくせっ毛のある自分の黒髪をくしゃりと撫でつけた。



「渡、早く教室に行こう」

「えぇ~、もう少し見てようぜ?」

「春休みの宿題やって無くて追加された各教科のプリント、全部やってきたのか?」

「………………あっ」



 すぐさま態度を変えて教えて欲しいと両手を合わせて懇願する渡の声を聞きながら足早にその場を離れる。


 どうせこれまで通り、縁のない彼女とは一生関わることはないだろう。この時ばかりはそう思っていた。

 







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お久しぶりでございます、ぽてさら(/・ω・)/です。


中々執筆の時間が取れない状況でしたが、なんとか新作ラブコメを執筆致しましたので投稿します(毎日更新出来なくなったらストックが切れたと思って下さい……)。


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